第14話

 コウノトリと別れた翌日、タラサはいつもよりも装飾の多い服を着せられていた。鏡の前に立ち、さまざまな角度から煌びやかな自分を見た。

(なんて美しいのかしら)

 スカートの裾が地面につかないように持ちあげてみたり、回って翻してみたりしてタラサが遊んでいると、召使が微笑ましげに彼女を見ていた。

「きっと、王子も気にいるわ。こんなにも美しいのだから」

 召使は回り続けていたタラサを椅子に座らせ、髪をとかした。それから、流れるように櫛が通る毛髪を一束持ち上げ、口づけた。最後にティアラをタラサの頭に乗せると、装いも相まってまるで人形のようだった。

「オシャレをしても可愛いね、君は」

 タラサが着替え終わると、王子が部屋に入ってきた。

「レディの部屋に入るときはノックくらいしてくださいね、王子。そんなことでは姫に嫌われてしまいますよ」

「ああ、すまない。以後気をつけるよ」

王子は申し訳なさそうに笑いながら、懐を探った。

「実は、君にプレゼントを渡したくてね、気が急いていたんだ」

王子はそう言ってポケットからネックレスを取り出し、タラサの首につけた。

「まだ、消えないんだね」

 王子はタラサの白い喉を撫でた。そこには青黒い痣がいまだに残っていた。タラサは王子の心配をよそに、もっと撫でるようにとせがんだ。召使がタラサにストールを巻いて喉の痣を隠すと、ネックレスも見えなくなってしまった。

 準備が終わると、王子、タラサ、召使など、屋敷にいた人間の半数近くが港についていた船に乗った。王子に帰国命令が届いたからだった。多くの人間が王子の登城を喜んでいたが、当の本人はあまり乗り気ではなかった。

「会ったこともない女と結婚して、どうなるというのだ。いっそ、君とともにあれたらどんなにいいことか」

 王子は甲板から海を眺め、タラサの頭を抱き寄せた。タラサは王子に身体を預け、髪をなびかせる潮風を感じていた。

(ああ、なんて幸せな。もしも我がままが叶うのであれば、この時間が長く続きますよう)

 船と並走し、海面から飛び出すように跳ねるものがいた。

「イルカよ!」

 屋敷で最も若い召使がその姿を見てはしゃいでいた。タラサがそちらをうかがうと、そこに泳いでいたのはハンドウイルカだった。

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