明美

 堂島小枝子が事故に遭って亡くなったと、警察から知らせがきた。


 電話が来た時、私達の他に営業も何人か事務室にいた。

 電話を取った新城さんが、その場にいたみんなに事情を説明した。

 新城さんが話し終わると、誰も口を開くことなく、事務室はしんと静まり返った。


 その日の朝、「辞めます」と言い残して帰ってしまった堂島さん。

 いきなりのことだったから、すごくびっくりした。

 最近、よく仕事のことで彼女に注意したりしてた。でも失敗した時にはフィードバックが必要だから。

 それに、私よりもずっと、彼女に厳しい口を聞いたり失敗をあげつらったり、陰口を叩いたりしてたのはゆかりだった。

 ゆかりが言うから、私も一緒になって悪口を言ったりしちゃったこともあるけれど、あくまで首謀者はゆかりだ。

 新城さんの歓迎会で、ゆかりが堂島さんを仲間はずれにしようとした時も、私は咎めたし。

 堂島さん、ゆかりのあまりに酷い態度に耐えられなくなったのかも知れない。

 あの就職情報誌をデスクに置いたのも、ゆかりだと思う。

 いかにも嫌味っぽくあんなものを置かれたりしたら、辞めたくもなるよね。

 そう言えば、今まで辞めてった子達はみんなゆかりにキツく当たられてた。ゆかりが追い出したようなものだよね。

 営業所の男子達も、みんなそう思ってる。

 「ゆかりが堂島さんに冷たくしてた」と私が話してから。みんなゆかりの本性を知って、軽蔑し始めてるもん。

 それにしてもゆかりは、なんであそこまで堂島さんに酷いことしてたんだろう。

 いじめなんて子どもじみたことする人の気持ちなんて、私には理解できない。


 理解できないと言えば……。

 情報誌を見た後の堂島さんの様子が、私は未だに理解できない。

 いつもおどおどしていたのに、あの時はなんだか顔つきが違ってた。

 「辞めます」って言った時も、いつもみたいに情けない顔じゃなくて、なんだかすっきりした表情をしてた。

 自分が追い出される立場なんだと、わかってたはずなのに。

 なんであんな顔をしてたんだろう?

 

 最近の堂島さんは、何を考えてるのかわからないなって思ってたけど、結局最後まで、あの子のことはよくわからなかったな。

 この世に私の理解できないことなんてないと思ってたけど、変な子の頭の中まではわからないってことかしら。

 こればっかりは、鏡に聞いても答えてくれないみたい。


 堂島さんのこと、最初はいい子だと思ってたのにな。

 若くして亡くなるなんて、少し気の毒。

 まぁ、彼女がいてもいなくても、私の人生にはこれっぽっちも影響ないけれど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る