一月二十日

 一月二十日、午後六時半すぎ。

 営業所の電話が鳴った。

 かけてきた相手は、営業所からは少し離れた繁華街にある警察署だった。


 堂島小枝子が、亡くなった。


 交差点で車にはねられ、手の施しようがなかったと言う。

 彼女が持っていた保険証から身元が判明し、取り急ぎ連絡をしてきたようだ。


 その時事務室には、女性事務員二人、新城彰、そして外回りから戻った男性営業が数人いたが、電話が切れた後は、皆一様に口を閉ざしていた。


 その日の朝、堂島小枝子は出社直後に「辞めます」と告げ、営業所を後にしていた。

 新城は女性二人からその報告を受けており、事務室に戻った営業員達にも、そのことは伝わっていた。

 彼女のデスクには一冊の就職情報誌が置かれていた。

 女性二人によると、堂島小枝子の出勤前から置かれていたと言う。

 誰が置いたのか、名乗り出る者はなかったが、一見して『辞めてしまえ』との悪意が篭った存在であるように思われた。


 彼女の死は、単なる事故ではなく、他の理由があってのことなのではないか。

 彼女が自ら選んだ末のことなのではないか。


 その場にいた誰もが、そう考えていた。

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