ゆかり 4

 十二月二十四日。

 街はクリスマスムードで溢れ返り、浮かれている。

 でも私の心はそんな雰囲気とは無縁だった。

 毎年この日は遼太と過ごしているけれど、惰性でそうしているだけのことだ。

 行きつけの店に行き、私の奢りで飲んで食べる。普通のデートと何ら代わり映えしない。

 いつもの店だから、自然と友達も集まってくる。最後にはただの飲み会になってしまうのが毎年のことだった。

「ゆかり、最近会社はどうよ?

 明美先輩とはうまくやれてンの?」

 明るく優しい笑顔で聞いてくる遼太。

 いいやつだし、話のテンポも合って楽しい。

 でも恋人と言うより家族みたいなもので、トキメキなんてとっくの昔に感じなくなっていた。

「まぁね。普通にやってるよ。

 どんくさいのがいるから目障りなんだけど」

「そうなんだ。まぁ、適当にがんばれよ」

 遼太はいつもこうだ。何を話しても薄っぺらい内容で終わってしまう。

 遼太は、耳障りはいいけど心がこもってるとは思えない言葉ばかり口にする。

 思いやる振りをしながら、最後には突き放す。優しいのは上辺だけなのかも。

 このままでいいのかな……、時折浮かぶ思いから、目を逸らしてやり過ごす。

 ふと、新城さんのことが頭をよぎる。

 個人的に話したことはあまりない。

 でも、あれだけ頭がよくて空気が読める人なら、楽しく話せるだろうな。

 深い話も、できるかも知れない。

 クリスマスデートの最中に他の男のことを考えるなんて、終わってるわ。

 そうは思ってみても、この先も遼太と別れることはないだろう。

 こいつはもう家族みたいなものだから。

 私の居場所を作ってくれている存在だから。 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る