第24話 国落とす魔剣
「全ての門を閉めろ! 奴に入られたら最後だ! すでに一の門は壊滅状態だ!」
「なんて奴らだ……たった三人と侮るな、一人一人がわが国と同程度の戦闘力をもってやがる!」
「単純に三倍ってことか! 体は赤いか!?」
ここはアレオス国、城周辺のバリケードだ。ことは数時間前にさかのぼる。
「どうも、国王様。俺が噂の指名手配、凶悪犯のnullだよ、お見知りおきを……ってか、見知らなくていいのか」
重役が集合した会議中のことである。突如空間にヒビが入り、口が変な方向に曲がっている、直視したくないほどおぞましい形状のお面をつけた男が机の上に現れた。手には自身の背丈より少し小さい程度だが人間が扱うには長すぎる刀を持っている。国王はいきなりの出来事で驚きを隠せない様子だ、口をパクパクさせるだけだった。
「貴様がnullか、シューバリエ君をよくも……!」
一人が怒りに震えながら腰を上げる。次の瞬間、席が溶け出した。そいつは声にならない叫びをあげながら椅子を跳ね飛ばし、一瞬nullと名乗る男から目を離してしまった。
「すさまじく強い人だ、あんた。席に仕掛けられた鎧炎に気づかないふりをして、着火寸前に立ち上がるとは。でも落第点だ、武器もった奴から目を離したらいかんでしょ」
いつの間にか奴は重役の一人の斜め後ろにいた。どこをどうやって抜いたのか、また、鞘はどこに行ったのかわからないが刃が首筋に突き付けられている。刀を扱いなれているどころか、この世界の人間が一生かけても届くかわからない境地に立っていることがうかがえる。気色悪いお面の奥から見える目は、そいつに「動くなよ」と言っているように感じる。重役は恐怖だろうか、その場に根が生えたかのように立つ。
「
「ん?」
空に魔法陣が浮かぶと、その中心から短剣が突進してくる。しかし、nullは焦った様子もなく重役を突き飛ばし、盾にする。短剣は重役に当たる前に消えたが、いつの間にか奴が消えている。刃が突然横から現れ、消滅寸前の魔法陣を一閃した。魔法陣は上下に分かれ、ガラスの割れるような音を立てて完全に破壊された。魔法陣が破壊された魔法は、数日かけて発射の銃身となる陣を再構築しないと発動できない。平然と魔法を使用不可能にしたnullは、最後にこの一言を残してまた空間に消え去った。
「これから一時間後にお前らの国を攻撃する。俺を潰したいんだろ? そのチャンスをやるよ。ただし、何もしなけりゃ民草を一人残らず抹殺するからそのつもりで。それだけの力を俺は持っている」
――アレオス国は、今だかつてないほど素早く戦争の準備をはじめ、30分でほぼすべての迎撃の準備が整った。それからは準備をさらに進めつつ守り切り、奴を殺す。はずだった。
一時間後、警戒の兵からの連絡が来ないので不審に思った一人の兵から、切羽詰まった報告を受けた。
「監視兵が……全滅してます!」
その直後に新たな連絡。1の門に角の生えた女性が出現、兵を粉々に消し飛ばしているそうだ。竜人か? とも思われたが、どうもおかしい。羽が生えていないと言う事は魔人だ。人外の中でも最高の近接攻撃を扱える存在である。
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「さて、宣戦布告もしたし」
「なんで今こんなことを」
「なぜって……ここで勝てたら俺は八田様を殺せる力があるってこと。だめなら俺はおとなしく死ぬよ」
「マスター、次「死ぬ」って言ったら私があなたを殺しますよ。もう二度と吐かないでください」
「ごめんなさい」
軽口をたたこうとしたらフリートに怒られてしまった。ガツンというのは一時だが、ひやりとするときはガチの時と相場が決まっている。ここは逆らわずが吉とありそうだ。ぬるはダンジョンの最奥部から立ち上がる。珍しいことに、二人ともすぐさま立ってぬるを見る。ぬるは満足し、にやりと笑う。二人は笑わなかったが、頷いてくれた。
「さぁ、初めての攻城戦だよ。気張ってこう」
フリートが手を空気にかざすと、ギリギリ……という何かを引っ張る音が起き、大きな穴が開いた。三人はその中に入っていく。最後にフリートが入ると、その穴は閉じていく。
目の前には守衛なのか、数十人の兵士が立っている。その真ん前に現れたため、全員の眼がこちらに向く。だが、相手はこの時点で剣を抜いてないので敗北確定だ。剣の達人相手に剣を抜いていないのは死にたいと言っているようなものだとぬるは思っている。
「かか……」
「遅いっての」
血しぶきが上がる。剣を構えるより先に相手を切り捨てる。鞘が消えるギミックを採用したのはそういう戦闘も想定しているのだ。瞬く間に屍の山が積みあがる。ぬるは二人を振り返って頷くと、彼女らはぬるの横に立った。そして彼は刃が自分のほうを向くように持つと一気に体を後ろに引き、バックステップすると地面をえぐるほどの力で前に飛び出し城壁に突進する。城壁に刀がぶつかる刹那、刀から赤いレーザーが照射され、ぬるの力にプラスする。壁はあっけなく吹き飛び、城壁の近くにいた数人が弾き飛ばされて転がる。向こう側の景色が見えた瞬間に二人も飛び込む。フリートは動けないと思っていたが、うまく能力を駆使して魔導弾をはじいたりそれを味方に当てたりしている。意外とテクニカルな子だ。ルミナは入るや否や「無限に再生する」能力を生かして自爆特攻を仕掛けながらスキルで敵を一掃する。こちらはやはりというかなんというかだ。
「いたぞ、nullだ!」
「見つかったか。二人とも、任せたよ」
「「わかりました」」
声をかけると刀を腰に下げる。地面に触れると真っ黒になり、土砂の渦が発生する。改変能力はもうテキストを書かなくても済む。相手は攻めあぐねて少し後退した。足止めしたとき、間髪入れずに手を合わせ、掌の中に桃色の球体、「至天」属性が浮かぶ。そして、右手を上にスライドさせると両刃の捻じれた剣ができる。
「これ食らって生きてたらお前らの勝ちでいいよ」
「なんだと……!」
「どうせ散るしな
それを適当に、投げやりに振るう。剣が城壁を焼き切り、相手は炎にまかれて消えてしまった。ぬるは進もうとするが後ろから攻撃を受け、吹っ飛ぶ。電撃魔法、あの時『遊んだ』二人組だ。
「二度も同じ手が通用するとは思わないことね」
「せっかく生かしてやったのによ……もったいないことをしくさって。……ん? おい、記憶がなんであるんだ?」
「私たちは証拠隠滅されないように記憶補正を掛けている」
「そういうことか」
ぬるはまた刀をさかさまに構える。城壁を破った攻撃だ。それを二人は知っているようで、後退する。ぬるはそれを追うように突撃する。二人が笑った、ぬるはこの瞬間初めて「しまった」と思った。
――精鋭兵が大量に待ち伏せしていた。魔杖士、剣士、弓兵、回復者の四人小隊が何パーティもある。
「やるじゃん」
「「かかれ!」」
二人の号令が響き渡ると一斉に動き出す。遠距離部隊までいるようで魔導弾をはじめ、あらゆる種類の魔法が飛んでくる。
「やべぇ……! 未来聖剣!」
ぬるはその場で回転し、魔法を真っ二つにする。分かれた魔法は後ろのパーティにあたるようにある程度調整して斬っている。出し惜しみは愚か、完全に本気出さないと死んでしまう。小手調べに城壊して帰るつもりだったが、そうもいかないようだ。
「行くぞ……ッ!!」
瞬時に回復者を切り捨てた。攻撃は飛んだり跳ねたりして躱している。風切り音が聞こえる。黒く塗られたナイフだ。かがみながら刀を手放すと投げた者に肉薄し、至近距離で至天属性の大爆発を食らわせる。数人巻き込んだ。
「まだまだ行くぞ! 雷・神・拳!」
拳に雷が集中し、空気を殴りつけるとレーザーとして放たれる。さらにぬるは「来い!」と叫ぶと、飛んできた刀をつかみ、数人を切り倒す。これでパーティを何個分倒したのかわからない。この戦い方には弱点がある。30分以上戦えないのだ。それ以上は体力の限界で負けてしまう。そもそも、そんなに長く戦うために刀があるわけじゃない。
「ぜぇ、ぜぇ……」
だんだん息が上がってきた。もう少しで26分だというのに敵は一向に減らない。半分やけくそになりながら戦闘を続行する。27分。まだ減らない。29分、まだまだいる……。
30分――――31分。
「も”うお前ら寝てろよ”」
黒いもやがついに赤紫に変化する。前と違うのは、右手の刀が二本に分裂し、両の手からは奇妙な紋章が現れている点だ。生前のぬるは、どんな顔をしてただろうか。
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