第7話 襲来


「11時の方向にモンスターの大軍を確認! 魔王の配下です!」

「2時からも大隊が接近!」

「防衛ラインを突破させるな!!」


あらゆる種族のモンスターが雪崩をうったように突撃してくる。すでにいくつかのラインは突破されており、敗色濃厚と言ったところか。


「行かせるかよ! 環光の剣サークルソード!」


眩い光がモンスターの一軍を焼き払う。それを放ったのは光り輝く剣を持った男。まわりの兵士達もそれに乗っかる形で自分たちを鼓舞し、モンスターを倒し始める。


「すげぇ……俺達も負けるな! シューバリエさんに続け!」

「魔王の所まで急ごう、シュウ!」

「急ごう!」


双子に急かされ、モンスターを倒しながら走っていく勇者。最初に出会い、暴漢から助けてくれた彼だ。


「魔王の場所は……なるほど、一番奥の陣の中か。戦国の将軍かよ」

「まあ余裕の表れなんでしょう。むしろ私たちが陣を突破出来れば勝ちですよ」

「まあね」


ピラミッドのような三角錐の建造物のてっぺんに座っているのは、口元がドラゴンのようにギザギザし、目にあたる部分はヒビだらけのお面を付けたフードを被った男だ。手には彼の身長と同じ位の長さの日本刀が握られている。隣には、こちらもフードで顔を隠し、セミロングの髪を先端でまとめた女が立っている。


彼の名は、〈null〉。今彼らが座っている建造物、SS級ダンジョンの管理者である。



最深部の攻略は簡単だった。何も無い部屋しかなく、しらみつぶしに探したが敵にも出会わず、さらには『外道の圧殺』が良くないのかと考え、自分はダンジョンの一層まで戻ってルミナに探してもらっていたが結局何も居なかった。


最後に入った部屋で、一冊の本を見つけた位しか収穫がなく、難易度に見合わないしょぼさである。その直後にぬるを草原まで戻したパーティとはち合わせし、一悶着あって襲われたがコレを返り討ちにした。


この一連の戦闘でわかったことも多い。そしてもう一つ、戦闘中にある力を得た。それは魔杖士の魔法を受けた時だ。後ろに置いてあった本が白く光るとぬるの前に出現し、炎魔法を吸収すると数倍の火力で跳ね返したのだ。これが自分にとって決定的な隙となり、ぬるは二名を抹殺した。


その後数日はダンジョンの設計に勤しんでいたが、四日ほど経ったときに雄叫びが聞こえ、慌てて外に出たらモンスターの大軍が街に押し寄せていた、という訳だ。


「なんだ貴様……人間か!?」

「お?」


下を見ると、30体ほどのモンスターが見上げている。魔王の軍勢だろうか?


「名乗れよ。どこの所属で何しに来たか」

「我々は魔王直属の部隊だ。我らはここに第二の陣を敷く、そのためにこのダンジョンを解体する!」

「そうか」


わかった。と言うと、目にも留まらぬ速さで日本刀を引き抜く。直後、最前列のモンスター達の首が音もなく落ちる。


「何!? 何をした!?」

「…………消せ 」

「了解しました。『旋壊アビスバスター』」

「は? 何を――――」


地面にヒビが入ると、放射状に衝撃が発生し、敵をなぎ倒しながら地面がどんどん吹き飛んでいく。ダンジョン前の草原が更地になるほどの威力の前に、モンスター達は跡形もなく消えた。


「草がまたハゲたぞ、芝生ひかないと」

「ぬるさんが髪の毛を差し出したらどうですか?」

「俺にハゲろと!?」


ルミナとの関係もそこそこ深くなり、こんな会話をするまでになった。例えるなら合宿だ。数日共にするうちに仲良くなる、自分が学校に通っていた時はたまにあった。


「さ、進むか。魔王から先にやっちゃおう」

「面白い方だといいですね」

「対空砲、エンゲージ。近づく物は何であれ破壊しろ」


ダンジョンの外側の外壁の一部がスライドし、中から円筒状の銃身が現れる。それを確認すると、ぬるとルミナは防衛ラインのある場所に向かう。


「なんだお前! 殺してやるぜ!」

「威勢がいい事だ、やってみろよ。ホラ」


ぬるに対して相当な数が襲ってくるが、全く慌てずに日本刀を構える。 刀が陽光を受けると、鈍色の光がモンスターを襲う。あるものは首を斬られ、あるものは腕を落とされ、またあるものは縦に両断された。

一回振るごとに大量の敵が斬られていくので、見る見るうちにぬるの周囲にはモンスターの山が出来た。ルミナがこちらに近寄ってくる。


「能力は使わないのですか?」

「魔王にも勇者にも気取られたくないからね。あくまで謎を多くしておいた方が良いかなって」

「ぬるさんがそうするなら、私も……という訳には行きませんね。精密粉砕シュレッド!」


モンスターと一緒に地面が崩れ落ちていく。 ルミナとぬるは、しばらくモンスターを散らしながら進む。すると魔王が居るであろう陣が目の前に見える。


「ぬるさん、私も行きます!」

「いや、見ててくれ。ヤバくなったら援護をお願い」

「そこまで言うなら……分かりました」


感謝の気持ちを込めてルミナに頷くと、ちょっと格好良くキメようと覆いを飛び越える。飛び越えると同時に刀を一閃させ、周囲のモンスターを倒す。陣の真ん中から非常に強い力を感じる。


「こんにちはぁ、その命を貰いに来たよ」


目の前に立つのは、いかにも魔王と言った風貌の男だ。赤黒い鎧に身を包んだ魔王は、不敵な笑みを浮かべながらヘルムを外した。


「その顔、仮面か……。ほう、大きく出たじゃないか。この私を取ると? やって見給えよ。このバリアを突破出来ればの話だがな」

「そう言うと思ってたよ」


ニヤリと笑ったぬるは1歩踏み込むと、容赦なく刀を突き出す。動き出したぬるに対しても余裕の顔をしていた魔王だったが、刀が接近するにつれて動揺の色が見える。


「そのスキル! 貴様、まさか!?」

「『無敵貫通』お前は図に乗りすぎたなぁ。久しぶりの全一、実力をお見せしよう」


突きが胸に吸い込まれるかと思いきや、刀が滑るように上に移動し、刀が二つに分身した。さらに刀が上に滑り上がり、三つ、四つと増えていく。

もちろんこれは、生前培った技術だ。ぬるの腕が早すぎて刀が分身しているように見える高速の五連突き。


上弦連突じょうげんれんとつ・五臓崩し」

「がはぁ!?」


突きは鎧を容赦なく破壊した。ほぼ同時に五回の突きを喰らい、そのうちの1回は心臓を穿った。魔王は仰け反りながらも血走った目でぬるを睨むが、ぬるの体はなおも動く。


上弦一閃じょうげんいっせん・逆さ抜き」


その言葉と同時に、胴体に袈裟懸けの傷が『下から上』に走る。魔王は更によろめき、魔法も攻撃も防御も何も出来ずに完封された。


ぬるの体からは黒いオーラが発生し、空気が歪んでいる。


「その…………スキル……外道の……貴様……」

「お前は魔法や武器を使わなかったのが敗因だ。油断禁物って言うだろうに。まあ、楽にしよう。基本は介錯だ」


刀が大きく円を描く。魔王は膝から崩れ落ち、動かなくなる。ぬるは周りを睨むと、白い本を取り出す。白い本を数ページめくるとじわじわと文字が現れる。


「『シェルバースト』!」


白い本を起点に、赤いレーザーが乱射される。当たったモンスターは焼き切られ、地面は焦土と化した。


「次はお前だぜ、冒険者」


ぬるは振り向く。目の前には、最初に自らを助けてくれた「シュウ」と呼ばれる男が驚きの顔をして、立っていた。





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