第6話 ぬる、決意する
「その殺気、いったい何から来るものなんだ?」
そう聞かれると思案を巡らす。今まで敵に会わなかったのは多分、コントロール不能の『外道の圧殺』の効果だ。そうは言ったものの、それをこんな見るからに怪しい骸骨に言っていいものか迷う。しかし、コイツはスキルとは言っていないが『殺気』を放っている事を指摘した、つまり何かあると勘づいている。下手な作り話ではすぐに看破されてしまうだろう。
ぬるは意を決して、話すことにした。
「スキルだ。名は、『外道の圧殺』」
「外道の圧殺……か。成程、確かにありえん話じゃないな。魔王になるかは持ち主しだいだが……」
しかし、意外と反応は薄い。しかも納得しているし。みんな魔王、魔王と言っているがそんなにこのスキルは嫌われ者なのか。それを詳しく聞こうとすると、それを阻むようにスケルトンが発言した。
「外道の圧殺はそのままにしておけ。時には魔王になる事も大事だ。少しでも緩めると、連れ諸共、一気にあの世へ連れてかれるぞ」
「ではここは、あの世とこの世の境目という事ですね。つまり、死霊の巣窟であると」
「それに近い。この階層は、このダンジョンで命を落とした者の魂が集まる場所だ。奥に祠があるからだろうがな」
「祠?」
「あぁ、あっちにある」
自分たちと反対の方向を指差される。だがルミナもぬるも振り向かない。
「振り向いたら行けないんだろ?」
「やっぱ砕いた方が良いですね」
「違うって! 頼むからその腕を下ろしてくれ! それが適用されるのは歩き出してからだ!」
スケルトンも連れていかれるのかな? と思ったので聞いてみた。回答はこうだ。
死霊モンスターであっても、この場にいる時点であの世には行けていない。なので連れていかれるそうだ。
それはそれで可哀想だ。祠があるのなら、そこまで行ってお参りしてから下に行こう。
「いいと思いますよ。ぬるさんは優しい方ですね、知ってましたが」
「知っていたんですか」
「ええ、生まれた時から」
「怖いんだよ!」
愛が重い。妙にメンヘラに見えるのは気のせいだと信じている。
歩きながら思う。空気が凄まじく淀んでいる。ほんの少しプラスの力が入ってきても、これではすぐにかき消えてしまうだろう。
ここを基地にするならば、この怨霊対策も施さねばならない。歩きながらぬるはそんな事をぼんやりと考えていた。
「……お、アレが祠なのか?」
「随分と小さいですね、しかも汚れに汚れてますし」
「こちらの世界には干渉出来ないのが俺たちだ、掃除しようとする奴もいたけど触れもしなかった」
その無力感もまた、この淀みに一層拍車を掛けたのだろう。これは早急に対処しないと。
ぬるは、ここを改造して基地にすると決めた。
「ルミナ、ここを基地にしよう」
「分かりました。そのためには最深部まで確認しに行かないとですね」
「うん、そうだな」
「おいお前ら、何する気だ?」
ぬるはニヤリと笑うと告げる。
「俺は、ここを基地にして勇者達を徹底的に嫌がらせする」
「ええ……」
スケルトンにもドン引きされる外道ぶりに、自分もちょっと恥ずかしくなるが、貫き通せば自分のやりたいように出来るだろう。
「安心してくれ、マイナスには絶対しない。それに一つ、いい事を思いついた」
祠の前に屈むと、手を合わせて頭を垂れる。1分ほどで立ち上がると、指先に緑色の光が灯る。
ルミナは何をしようとしているのか理解したようで、にっこり笑うと祠の天井を見る。スケルトンの方は理解出来ないようだ、骨をカタカタ言わせている。
【〈null〉:shrine destination temple】
「精密粉砕」
衝撃波が天井に当たると、祠の真上の天井が崩れて消え去り、広めのスペースができる。その後、祠が震えると岩が増えたり、どこからとも無く火が付いたり、木造建築になったりと意味不明な変化を繰り返し、20分ほど待つと綺麗な寺に生まれ変わった。
ルミナもぬるも、一仕事終えた様な満足気な顔をしている。スケルトンの方は、骸骨の状態でも分かるほど驚いている。
「お、お前ら、そんなことが出来たのか…………?」
「これで取り敢えず、この階層の浄化は終わりだろう。先に進もう。下に進むための道を知らない?」
「いや、知らない……」
『俺達が案内しよう』
スケルトンの後ろから数人の声がする。思わず振り向いてしまった。しかし、連れていかれることは無かった。そこには、大小様々な武器を持った人達が居た。彼らからは感謝の気持ちが伝わってくる。
「このダンジョンは移動するんだ。移動した先で人を待ち受けては殺していたんだ」
「俺は1度、最深部まで行ったことがある。任せてくれ」
「俺もだ!」「私も!」と周囲から声が上がる。実はここで倒れた人たちは相当強い人たちだったのだろう。早いところ無力化して基地にしないと。恐らく腰を落ち着けることは無いだろうが、嫌がらせダンジョンを一つ作るだけで楽しいと思う。
さらに、忘れてはならないことがある。生前からフレンドリーだったこともあり、人付き合いにはあまり困らなかった。彼らに話しかけてみる。
「俺はこの世界に転生してきたんだ。だからこの世界のことがよく分からない。みんなの知識を俺にくれないか?」
「何から知りたい? 俺達の救世主だ、情報は全て教えよう!」
そうだそうだ、という声が相次いで上がる。それをぬるは複雑な感情で聞いていた。やっている事は勇者だ。勇者も魔王も嫌いなのに、結局の所はそういうものに落ち着いてしまうのか?
それを見透かしたかのように、ルミナが声をかけてきた。
「ぬるさん、あなたはあなたのやり方を貫けば良いんです。誰かが困ってたら助けて、勇者も魔王も構わず倒して。勇者だって味方ばかりではないと思いますよ? 魔王も、言わずもがなです。誰でも心の中に正しい心はあります。それだけは改変できないんです。あなたは生前から優しい子だった。それを捨ててはいけませんよ」
あぁ、とぬるは思った。自分が全てでは無いのだ。多少お人好しで、異世界ラノベが好きで、でもありきたりが嫌いで……でも、誰かから見た自分が勇者に見えるのなら、そうあれと努力すべきだ。一つ、目標が出来た。
「俺は…………正義の味方にはならないけど、弱い者は助けて強きを挫く、そういう人間になる。話を戻そう! まずは、国家について教えてくれ」
「それは俺が。今、この国には大きな3つの国がある。軍事に力を入れているガレリア帝国、中立を頑として譲らないミーレス王国、そしてガレリア帝国と仲の悪い……アレオス国」
ぬるの決意と質問に、手を挙げて答えたのは最初に出会ったスケルトンだ。以後、スケさんと呼ぶ。
その他の幽霊から得た情報をまとめると、国家や制度自体は中世に近く、機械など文明の発達進度は魔法主体のためほとんど無い。
また、ここに居る彼らを含めた冒険者が職業の大半を占めている。依頼などを斡旋する『冒険者共同組合』が色々な所にあり、冒険者になるにはいくつかの試験などをパスしなければならない。スキルは基本5つ、能力は1つ。
生まれ持つスキル+スキル書などを所持することによって発動できるスキルなどを組み合わせて戦闘などを行う。
「俺の能力で応用が効きそうなのはスキル書ってやつだな。手に入れば良いけど……みんな光ってるぞ! どうした!?」
「成仏です。あなたが皆の未練を絶ってくれたからですよ! それと、ダンジョンの最深部にはそういった物が保管されていることがあります。とにかく下まで行ってみれば分かります!」
「その床に隠し階段がある。それで最深部に行けるぞ! 俺達はもう成仏しちまうけど、アンタの力になれて良かった」
スケさんも消えかかっている。骨が一気に劣化し、朽ちていく。表情のない頭蓋骨が笑っているように見えた。
「残ってお前らを助けたいのはやまやまだけど、逝かせて貰う。お前が助けを求めれば、何とかしてこっちに来る道を探るから安心してくれ! 勇者さんよ」
話してくれた人も話せなかった人も、全員が光に包まれて消える。
ここを最初のダンジョンにして、心からよかったと感じた。ぬるは、彼らに恥じない生き方をしようと、心に誓った。
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