第4話 ルミナの能力
「私におまかせを」
そう笑った彼女は、軽く拳を握ると前に出し、一歩一歩ダンジョンに向かって歩いていく。
ある所から急に草がなくなる場所がある。ルミナがそこに一歩入った途端にダンジョンの外壁に空いた穴が火を噴く。侵入者に対しての迎撃機構だ。しかし、ルミナには当たらず彼女の周囲に砂煙が立ち、草が弾け飛ぶ。ぬるはルミナからはみ出さないように付いていく。
「これはどういう事なんだ?」
「私のスキル、『矢避け・改』です。遠距離攻撃に対する耐性が過剰に上がるんですよ」
「矢避けってなんだよ?」
「あなたも持ってるでしょ、スキル。あなたは10のスキルがありますけど、私は標準の5なのです。そのうちの一つってことです」
とにかく易しく説明してくれたおかげで少しこの世界について理解できた。出会ったばかりの彼女だが、これからも世話になりそうだ。
「たあわわわわわ」
それでも足元をかすったりする弾があったりと気が気じゃない。
そうこうしているうちに目の前に外壁が見えた。迎撃機構はまだ攻撃をしているが、壁に邪魔されて全く撃てない。
「触ったらこっちのもんだ!」
「わたしはこのまま待ってます」
そういうルミナに頷くと、手を壁に押し当てる。そして壁に対してまた緑色の光が文字をスラスラと書いていく。
【<null> wall. Canon hack, 『update』mine】
『改変、対象を壁に限定。砲台をハッキングし、自分の制御下にアップデートします』
改造しても良いのだが、この砲台の精度は目を見張るものがあった。これから基地にする時に役立つだろうということで制御下に置くだけにした。
かなり早い段階で練習をしておいてよかった。最初の日本刀も含め、あの時は触ったもの全てが別の物になってしまっていたのだ。そこからは大きな進歩だと言えよう。
「よし、これで通れる。開け!」
ぬるが大声で言うと、外壁の一部が下にスライドし、入口が出来た。あ、こういう形をとってたのね。
入口からはずっと暗い通路が繋がっており、先どころか数歩先すら見えない。2人はとりあえず、という感じでズカズカと侵入していく。
「暗いね。明かりを持ってくれば良かったよ」
「明かりは…残念ながら私もないです」
「なんか怖くなってきたぞ」
「私がいるから大丈夫ですよ、あなたに強さは証明しましたし。まぁあなたが望むならダンジョンを破壊という形で攻略しても構いませんが」
折角の基地候補を壊されては堪らない。首を横に振りながら歩いていると、突き当たりに来た。左に道が続いている。一瞬暗がりのルミナを振り向き、ルミナも頷くと道なりに進む。
そして歩き続けると更に突き当たりだ。また左に続いている。不思議に思いながら歩くと、やはり左に続く突き当たりだ。しかも、 この道の奥にはうっすらと光が灯っている。この瞬間2人は、一周回って入口に戻ってきたことに気づいた。
「帰ってきたね」
「そうですね」
しばらく黙り込む2人。仕方ないので入口まで戻ろうとする。振り出しに戻った方がリセット出来て良いという判断だ。ぬるが歩きだそうとすると、後ろからルミナが来ていないことに気が付いた。後ろを見るとルミナが左の壁を見ている。
「何見てんの? 何かあった?」
「この壁だけ、後ろに空間がありますね。音が響くんですよ、ほら」
ルミナは反対側の壁を軽く叩いた。鈍い『ドスッ』という音が聞こえる。その後、彼女が見ていた場所を叩く。すると、先ほどとは明らかに違う『コーン』という高い音が出た。しかしぬるの耳には、反対側を叩いた時に『ピキッ』という音が確かに聞こえた。少し焦りながらもルミナを褒める。
「お、おう。よく分かったね。でもこの暗がりでよく見分けれたじゃないか」
「魔人なので、多少暗闇には慣れているんですよ。久しぶりに暗がりに入ったので目が慣れるのに少し時間がかかりましたが」
「この壁、俺でも破れそう?」
ルミナにいいカッコを見せようと思ったぬるは日本刀の柄で壁を突く。しかしびくともせず、痛みが刀を通して伝わってきた。身震いをしながら手首を抑える情けないマスターをにこやかに見るルミナ。
そんな目で俺を見ないでください、そんな産まれたばかりの子犬を見る母犬のような目を……。
「精霊の寵愛を発動する決断をして良かったですね、ぬるさん? あ、つい素が出てくだけてましたがマスターとお呼びした方が良いですか?」
「!? い、いやあ、ぬるさんで良いよ。もっと言うなら呼び捨てしても良いよ」
マスターなんて呼ばれるのは勇者の眷属になった妖精とかだ。自分は両方潰すつもりなのだから、勇者面もしないし魔王面もしない。これはある種、ぬる自身のプライドなのだ。
「しかし私はあなたが発動したスキルのオマケみたいなものなので、発動者を呼び捨てするなどおこがましい。ぬるさんとお呼びしますね」
「あっはい」
生前から、なんと呼ばれても気にしていなかったので、あまりにもひどい名前以外は呼びかけに応じるつもりだ。
「じゃあ、壊してもらえるか?」
「了解しました」
ルミナは一歩後ろに下がると、壁に向けて手刀を切る。
壁が粉々に崩れ落ちた。崩れた壁の向こうには道がある。さらに、その道の両脇には松明の火が点っており視界は良好だ。
「ここが正解でいいよね?」
「恐らくは」
走って奥まで行きたい気持ちを抑えながら慎重に進む。何が起きても対応できるように、日本刀をいつも差している右の腰ではなく左の腰に差し替えておいた。たまに物凄く心配になってルミナの方を見るが、その度に「大丈夫ですよ」と苦笑いと共に言われてしまう。
そんな事をしているうちに、鉄製のドアの前に来た。ドアレバーを少し触ったが何も無かった。
ぬるはもうルミナの方を振り向かずに、そのドアを押し開けた。
――――同じ道が続いていた。奥には今開けたドアと同じドアが見える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます