day2-1 朝、カフェオレを飲んで

 何も変わらない朝。

 カーテンから洩れる日光が今日も一日、世界が平和であると主張している。

 正夢の影響で、ガンガンと響く様な頭痛がする頭を抱えながら家を出た。昨日の約束通り、朝食を食べに行こう。

 緑の香りが僕を包み込み、すっきりとした気持ちになる。頭上を大きな鳥が飛び回り、その影を踏みながら歩いた。目的地を直ぐそこだ。

 夢で見た小さなお墓と崖のある丘。もしかしたら、これだけの情報で、あの場所が分かるかもしれないという希望を抱きながら扉を開ける。

 微かなコーヒーの香りと見慣れた店内、変わらない人たち。なんだか安心する。




 

「やっと来たかミナト。待ってたぞ、何食べる?」

「おはようマスター。とりあえずカフェオレ飲みたいかな」

「カフェオレか、ミナトにしては珍しい注文だな」

「実は昨日お使いで行った『オアシス』でカフェオレを飲んだんだよ。そのカフェオレの味が、なんか変わっていてさ、何が変だったのかを探ってみようかなって」

「あぁ、そういうことか。……たぶん原因はあれか」


 マスターは原因が分かったようだが、答えを言おうとはしない。自分の舌で判断しろということなのだろうか。

 コーヒーの匂いで少しだけ頭痛の和らいだ頭を働かせようとする。


「そういえば、今日もあの夢を見たのか」

「見た。丘と崖に加えて、お墓の前に立っていたな。マスターは墓のある場所を知ってる?」

「墓場か、いくつか知ってるぞ。昨日、図書館に行ったんだろ。崖の場所をメモしたものは持っているか」


 作成したメモを探し出し見せる。昨日訪ねた二カ所はメモから消し、残りを確認する。残りは五カ所だった。


「ああ、印の場所が丘か。大きな墓場があるのはこの四カ所だな。7地区と14地区に一つずつ、あとは、ここ15地区に二カ所。基本的に墓場は丘の上に多いよな、見晴らしの良い場所が良いんだろうよ」

「そうかありがとう。一カ所でも選択肢を縮められて助かった」

「少しでも手伝えて良かったよ。ほらカフェオレだ。それ飲んで落ち着いたら、食べたいものを言ってくれ」


 時計を見ると、もう昼近くだ。マスターからは情報を貰えたし、一息つくことにする。

 白いカップに注がれたカフェオレに口を付けた。コーヒーとミルクの香りが広がり、心が落ち着く。あぁ美味しい、カフェオレはやっぱりこの味だよな。

 昨日のカフェオレの味と比較しても、香りが違う以外はよく分からなかった。

 小さな変化は意識しても気付かないものだと実感してしまう。


「どうだ、何が違うか分かったか」

「いや、分からない。香りが違うんだけど、豆の種類かな」

「なるほどな。じゃあ、正解発表は明後日にしようか」

「えー、いま聞けないの」

「お前が、夢に出てきた子を無事に救えたらな」

「分かったよ。っていうか言われなくても助けるし」


 大丈夫、必ず助けられる。

 そう思い続けなければ、見えない何かに押しつぶされそうで怖くなる。

 夢の続きについて考え続けていると、徐々に鼓動が速くなってしまう。心と身体が焦り、落ち着かない。

 頭を切り替えよう。少しだけ逃げよう。


「そういえばマスター。僕が昨日、お墓に持って行った小包って何だったの?」

「どうしたいきなり。……知りたいか?」

「別に無理にとは言わないよ」

「知りたいか、知りたくないか。どっちだ」

「……やっぱり知りたい」

「そうか」


 笑いながらマスターは口を開く。

 冗談を言うような口調で、しかし大切な秘密を喋るように丁寧に。


「あれはな、爆弾だよ」


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