day1-4 気付かない小さな変化
花の丘を後にした僕は、再びバスに乗り込む。
次の目的は第6地区にあるという崖を確認することと、マスターにお使いを依頼された『オアシス』に向かうことだ。
目の中に映し出された駅の場所から、崖の近くにある駅を探す。どうやら崖の近くをバスは通るらしいが、駅はなく降りることが出来ないらしい。
仕方がない、バスの中から見える範囲内で情報を集めてみるか。
僕は目的地の駅を、『オアシス』の近くに設定する。その直後、バスは再び動き出した。
『第6地区です。ミナト様は、これより先の地区には進めません』
流れていく景色の中、いつの間にかバスは第6地区に入り、徐々に山道を登りながら大渓谷を走っしていた。右側は断崖絶壁という様子で、遠く下の方に川が流れている。
崖との距離が1メートルも無く、ギリギリを走っているのがよく分かる。そんな道をかなりのスピードを出しながらバスは進んでいた。
僕は現在地を確認する。どうやら第6地区にある崖というのは、今バスが走っているこの渓谷らしい。記憶に残っている夢で見た場所と比較しても、違うのが分かる。これでは崖の上へ行くことはもちろん、周囲を歩くことさえできないだろう。
ここもハズレだ。また明日、別の場所を探さなければならない。探索に使える時間はあと二日。それまでに、目的の場所を見つけられるのだろうか。
渓谷を後にしたバスは暫くして、『オアシス』の近くの駅に到着する。
マスターに貰った地図で場所を確かめ、歩き出す。目的の喫茶店は駅から一本道で迷うことなく辿り着いた。喫茶店『オアシス』。僕が毎日通う喫茶店と同じ名前を持つこのお店には、小さく看板が立っており、地図が無ければ見落としていたかもしれない。
年季の入った木製の扉の前に立ち、力を込めて扉を開ける。リンという小さな鈴の音がした。
「いらっしゃい、好きな席にどうぞ」
穏やかな表情を浮かべる店主がカウンターの奥から顔を出した。僕は、店主が立っている前の席に座り目的を告げる。
「こんにちは。あの、ミルクを貰いに15地区から来たんですけど」
「ああ、15地区ってことはダンのお店だな」
久しぶりにマスターの名前を聞いた気がする。いつもマスターって呼んでいるから忘れかけていた。
「そうです。一応このメモが証拠ってことで」
「うん、大丈夫だよ。用意するから少し待っててね。そうだ何か飲むかい、御馳走するよ」
「本当ですか!? ありがとうございます。じゃあ、カフェオレにしようかな」
「カフェオレか、口に合わなかったらすまないね」
不味いなんてことなんてあるのだろうか。カフェオレを作る店主の後ろ姿を眺めながら、マスターに貰ったメモに目を通す。メモには、この喫茶店の他にもう一カ所の印が付いている。その場所に出発時に渡された小包を置けば良いらしいのだが、場所がいまいちわからない。
「カフェオレです。はい、どうぞ」
「ありがとうございます。すみません、このメモの場所知りませんか」
「ああここか、お墓だな。店の裏側に道があるからすぐに行けるよ」
「お墓なんですか。……じゃあ、これはお供え物なのか」
マスターから受け取っていた小包を見ながら、どうすれば良いのか考える。
「因みに、メモのここに書いてあるのが苗字。『ユーリッド』っていう科学者夫婦が眠っているんだ。そこに行く用事を頼まれているんだろ、先に済ませてきなよ。ミルク持ったままだと大変だろうし」
「確かにそうですね。お言葉に甘えさせてもらおうかな」
お墓にお供え物を届けることを優先することにした。カフェオレを飲んでから行こう。
そう決め、口にしたカフェオレの味はいつも飲んでいるものと違う味だった。不味いわけではないが、どこか癖のある味。いったい何が原因だろうか。
今の僕にはその答えが分からない、たぶんこれからも。
それに、僕の心の中はカフェオレの味よりも、『ユーリッド』という科学者の墓を訪れさせたマスターへの疑問が占めていた。
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