その瞳に映るものは
27
その時、工場でアライグマがとうとう膝をついた。
「はぁ、はぁ、流石にこれは……無理なのだ……」
「そうだねー、ちょっと厳しいかなー……」
サンドスターの限界だ。フェネックに何か策があるとしても、数日戦い続けた消耗は激しい。今まで何とかやりくりしてきたが、それも効果がない状況になっていた。
所詮は時間稼ぎだ。しかしロボリアンからギアリアンに標的を絞っても数が多すぎる。
ロボリアンが、こちらを向いた。ギアリアンが道を開け、射程内にアライグマとフェネックを入れる。
補足されたと、アライグマたちは瞬時に理解した。
「ごめんなさいなのだ、フェネック……」
「急にどうしたのさー。私とアライさんの仲なのに水臭いよー?」
弱気になっている、とも言えるかもしれない。だが、言えるときに言っておかなければ後悔するだろう。
だから、アライグマは続ける。
「フェネックはすごいのだ。アライさんの分からないことも知っていて、頭が良くて、頼りになる
「……、」
ロボリアンのチャージがもうじき終わる。
あのビームが放たれる。
鉄すら切断する強力な一撃。射程も長く、衝撃だけでも大きなダメージになりえるだろう。
放たれる、その前に。
今一度、この言葉を言おう。
「ありがとうなのだ、フェネック。フェネックはアライさんの大切なトモダチなのだ!!」
「……そっかー」
フェネックは自分の頬が綻んだのを自覚していた。
冷静を装っているが、きっと出来てない。自分でも分かるほどだ。
「ありがとねアライさん。私にとってもアライさんは大切なトモダチだよー」
だが、一つだけ勘違いしている。
まるで、最後の別れのようなことを言ったアライグマだが、現実はそうではないのだ。
「うん、一か八かだったけど、間に合ったみたいだねー」
ロボリアンがチャージを終え、光線が放たれるその刹那。
ガツン!! という音がした。
黄色い、見覚えのあるものが横からロボリアンの頭部へ突っ込んだのだ。衝撃でロボリアンの標準は外れ、周囲のギアリアンを薙ぎ払う。
黄色のそれもそのまま停止するはずもなく、ロボリアンの後面を滑って地面に着陸した。
「ばす、なのだ……?」
アライグマの窮地を救ったのは、パークに点在していたジャパリバスだった。後方には木製の、運転するのではなく乗せることに特化した付属品が備え付けられている。
『ギィ……!』
「うわ……っ」
ロボリアンへの妨害に気づき、ギアリアンが跳ねる。
だが、アライグマたちへまっすぐ向かっていくギアリアンが途中で砕け散った。
「まったく、世話のかかる子たちですわね」
キラキラと光るサンドスターの向こうにいたのはフレンズだ。優しげな微笑みを浮かべている彼女を、アライグマたちは知っている。
「カ、バ……?」
「本当はあの子達の帰る場所を守るつもりだったのだけど、どうしてもサーバルが心配でね? それで着いてきちゃったんですのよ」
そう言ったカバは群れを成すギアリアンを片っ端から片付けていく。それが、アライグマたちには圧倒的に見えた。
増援はカバだけじゃなかった。
アメリカビーバーやプレーリードッグがバスから姿を現し、ギアリアンの掃討に参加する。
「プレーリーさん! あっちからそっちにかけて穴を掘ってほしいっす! そこから攻め込むための道としてってもう完成したっすか!?」
「当然であります! 突撃でありますよー!!」
湖畔コンビが作った穴を通ってジャガーが勢いよく飛び出す。
いいや、ジャガーだけではない。
「よっと、それじゃあこっちも始めようか!! トキとショウジョウトキ! サポート頼むよ!」
「えぇ、任せて」
「このワタシに任せなさい!」
トキとショウジョウトキがロボリアンの注意を惹き、ジャガーはギアリアンの石を狙い的確に破壊していく。
「無事ですか、アライグマ、フェネック」
音を消して近づいたのは助手だった。そして二人を見るなり苦い顔をして、
「遅くなって済まなかったのです」
「そんなことないのだ! アライさんたちは無事だし、充分早かったのだ!」
フェネックはその言葉に助手が密かに笑ったのを見逃さなかった。それと同時に、また別の声が耳に届く。
「おーいっ、怪我してるんでしょー? 手当するからおいでよー! こっちこっちー!!」
「お茶とジャパリまんもあるからゆっくりしていってねぇ~」
バスの後方、そこから頭を出していたのはコツメカワウソとアルパカだ。カワウソはこっちに手を振りながら、もう片方の手には応急セットが握られている。アルパカの方はお茶を入れたカップを持っており、朗らかな笑みを浮かべていた。
その周囲はジャガーやビーバーたちの手によって安全が維持されているため、駆け寄ることは簡単に出来た。
カワウソは慣れた手付きでアライグマたちに応急処置を施していく。フェネックはその間に、気になったことを尋ねることにした。
「音が聞こえたから賭けてみたんだけど、ホントに助手たちが来てくれた時はびっくりしたよー。どうやってここまで来れたのかなー?」
「今までの情報から、パークのセルリアンはこちらから手を出さなければ大して脅威にならないのが分かったのです。私はそれを利用しただけですよ」
つまり、必要以上に目立たず、パーク中を巡って材料と仲間を集め、準備を整えてからセルリアンの隙をついてここまで来たのだ。
そして、助手は不敵に笑ってこう続けた。
「もちろん、増援は我々だけではないのですよ」
28
その時。
ヘラジカは攻撃を見誤った。
反応が遅れ、動きが鈍り、合成獣型セルリアンの豪腕に薙ぎ払われたのだ。
地面をノーバウンドで飛んでいく。そして、建物の壁にめり込むようにして止まった。
「ヘラジカ!?」
「余所見をするなライオン! 来るぞ!!」
剣や槍が突き刺さった恐竜型セルリアンも動く。足で思いっきり地面を踏みしめると、破壊と同時に大地が揺れる。それによってライオンは体のバランスを崩してしまった。
「まず──」
掠るだけでも致命傷になりかねない一撃。防御は最悪の一手だが、それしか行動ができなかった。
無慈悲な破壊という事象をただ待つしかない、その時だった。
頭の上を何か大きな何かが過ったかと思えば、空から複数の人影が恐竜型セルリアンへ降り注ぐ。
ある者は足を砕き。
ある者は胴体を武器で貫き。
ある者は頭部を蹴り落とす。
その乱入者を知っている。
忘れもしない顔だった。そしてその面々は、ゆっくりと振り向いて笑う。
「無事ですか? 助けに来ましたよ、大将」
「お前たち……」
オーロックス、アラビアオリックス、ツキノワグマ。
パークに残した仲間が、目の前に立っていた。
「どうして……どうやってここに……」
「積もる話は後です。今はこのセルリアンが先でしょう?」
その言葉に、ライオンは獰猛に口元を歪ませる。
ヘラジカの方を見れば、彼女も仲間たちの手によって救助していた。
同じように困惑しているようだったが、一言二言言葉を交わすと、ハシビロコウから槍を渡されて前線に歩いてくる。
「武器が戻ってきた」
「奇遇だね、私も右腕が戻ってきたよ」
手短に、セルリアンの特徴を説明する。
かばんの考える作戦には到底及ばないが、それでも即席の作戦を建て共有する。
恐竜型セルリアンが吠え、合成獣型セルリアンが地面を削る。
それぞれの大将が、それぞれの右腕の顔を見直した。
「「行くぞ。臆することなく付いてこい!!」」
29
その時、繁華街では爆撃が続いていた。
パターン化してもズレがある。しかしそこを直そうとすると、また別のところがズレる。そのうちパターン化は着実に解かれていくのだ。
そして、資源ももう残り少ない。
正直なところ、あのノヅチという少女を送り出したところが限界だった。大丈夫だと言い聞かせ、強引に追い出したほうが表現としては適切だろう。
「怪我した方はこっちへ! 大丈夫、落ち着いてください!!」
ノヅチたちと同じ雰囲気を感じるメガネを掛けた少女が、避難誘導と応急処置を的確に済ませていく。時々空を飛ぶその姿で、彼女がヒトではないことを知った。
「これは想定外だねぇ……せめて鳥のフレンズがいれば何とかなったんだろうけど」
「ど、どうしますか? 先生……」
「ん? 何、簡単なことさ」
あっけらかんと笑う彼女は、二つの異なる目を輝かせてこう答えた。
「頑張って色々する。これに限るよ」
「なるほど! さすが先生です!!」
彼女たちは彼女たちで完結しているようだが、現状はそんな楽観視出来る状況ではない。
そもそも隊長にとって、彼女たちは異分子でしか無いのだ。能力も長所すら分からない、本来ならば不要と切り捨てるべき因子のはずだ。
しかし、何故だろうか。
「……あんたら、何が出来るんだ」
「おや、君がヒトかい? そうだね、説明するほどの時間はない。だから、してほしいことを言うといい。私たちはそれに従おう。きっと、成し遂げてみせるさ」
その言葉を信用してもいいと、どこかで思っていた。
それがたとえ、フレンズと呼ばれる、ヒトから見れば敵である存在だとしても。
「資源がもう限界だ。この状態でここを保たせるのは、はっきり言って不可能だろう」
「そうみたいだね」
「だから時間を稼いでくれ。俺たちが対処できない奴らを相手にしてほしい」
「逃げるために?」
「……恥だと思うか?」
「まさか」
先生と呼ばれた彼女の顔は見下すでもなく、かと言って尊敬するのとは違った表情だった。
強いて表現するならば、隊長の発言に感心しているように見えたのだ。
「良いんじゃないかな。誰かを助けるために逃げる。それも、一つの勇気だよ」
その言葉に何かを揺さぶられた。
隊長は文字通り部隊のトップだ。間違った指示は隊員を殺す。だからこそ責任が重く、だがそれを誰かに共感されることは少ない。
有り体に言えば、その言葉に救われたのだ。
「指示は私にも伝えてください。声真似が得意なので、貴方の指示を貴方の声で届けられます」
「援護は私たちがするわ」
メガネを掛けた先程とは別の少女が、同じ格好をした五人組と一緒に笑顔を向ける。
必死に思考を切り替える。
迎撃から、生還へ。
持久戦は終わり、ここから始まるのは撤退戦だ。
誰も失うことなく帰るために、隊長の地位につく男は宣言する。
「これより撤退作戦を決行する! 総員、配置に着け!!」
30
その時。
中央都市ではヒトを再び食らったセルリアンが猛威を振るっていた。ヒトを再び食らったセルリアンは、破壊と蹂躙を巻き起こす。
「怪我したヤツは下がれ! 武器を持たないヤツもだ!!」
声を荒げているのはヒトではない。
フードを被り、青い瞳を持つ。それはツチノコと呼ばれるフレンズだ。
彼女はサーバルを見送った後、この場所に戻っていた。一度顔を合わせているため、事情の説明と参戦に手間取らなかったのは不幸中の幸いと言えるだろう。
ツチノコは分かっている。既にサーバルとかばんが同じ場所に立ち、言葉を交わしていることを。
だからこそ、目的は今までどおり討伐ではなく生還に定められた。
それでも状況は芳しくないことに変わりはない。
セルリアン化したヒト──侵食型セルリアン。超巨大ヒト型黒セルリアン。兵器を再現した大量のセルリアン。
その軍勢に押し負ける形で、じりじりと戦力は削がれていった。
そんな時だ。ツチノコの声に悲鳴が届く。
「──ッ!?」
距離はおよそ二〇〇メートル程度だろうか。
見れば、侵食型セルリアンに銃口を向けられているヒトがいた。腰を抜かし、逃げることすら不可能だ。武器も既に使い切ったのだろう。ただ尻を引きずって後退しようとするも、近くの瓦礫で阻まれた。
この短い期間で、戦場での取捨の判断がつくようになっているという事実が忌々しい。だから、瞬時に察してしまった。
もう、助からない。
「クソっ!!」
だが、それでも。
ツチノコは地面を蹴る。
間に合う保証などなくとも、駆けつける間に不意打ちを受ける可能性があっても。
しかし間に合わない。
侵食型セルリアンがその『弾丸』を放つ、その直前だった。
そこに、思いがけない援軍が駆けつける。
最初に見えたのはハンマーのような武器だった。それは銃口を上に弾き、軌道はあらぬ方向へ向けられる。その使い手は武器を構え直すと、侵食型セルリアンを一振りで数メートル先まで吹き飛ばした。
現れたヒーローの名を、ツチノコは知っている。
「ヒ、グマ……?」
彼女だけではない。その先に、侵食されたヒトと戦う二つの影も見える。
今のこの状況では援軍はありがたいことこの上ない。だが、パークでヒグマの本心を聞いているツチノコは、彼女がここに来るとは思えなかったのだ。
「何で、オマエがここに……。パークはどうしたんだ?」
「あぁ、それなんだがな──」
ヒグマはバツの悪そうな顔をした。
時は
それはまだ日が高い時。太陽そのものは雲に遮られていて見えないが、僅かな光源が昼時だということを教えてくれた。湿気が高く湿っていて、もはや見る影もないがここはじゃんぐるちほーだったのだろう。今ではセルリアンの破壊行動により平地に近くなっているが。
ヒグマたちの役目はパークを巡回し、フレンズの避難とセルリアンの抑制することだ。それ以外にも、助手からバスの残骸を見つけたら報告するようにと指示も受けている。このちほーのフレンズは全て避難したという報告は受けているものの、誘導されるなりして逃げ込んでしまった可能性も否めない。だからこそ、ヒグマたちはこうやって回っているのだ。
手元には一風変わった物が握られている。
無線機。助手はそう呼んでいた。
直接会わなくても声を交わせる、ヒトの叡智から生まれたものらしい。
ロッジでの対決で得た情報は、新種のセルリアンは倒すことは出来るということだけだった。あの戦いだって何か一つでも狂えばこちらが全滅していただろう。少なくとも、ヒグマはそう考えている。
量産型黒セルリアン。フレンズ型セルリアン。新種のセルリアン。
どれも手を出すのは危険であり、どれだけ日が経とうともやることに関して大した差はなかった。
ただ、先が見えないというのは嫌でも心に影を落とす。
今までよりは確かにフレンズたちの顔は明るいだろう。だがそれも一部だけ。大部分は未だ海の底のように暗い心境だ。
どうにかしたいが、どうにもできない。
そのもどかしい感情が、ヒグマの顔を俯かせた。
「ヒグマさん……?」
呼ばれた声に反応してハッと顔を上げる。そこには心配そうな顔で覗き込むリカオンの姿があった。
「大丈夫ですか? 疲れてるなら休んだほうが……」
「いや、大丈夫だ。それよりここはどうだった?」
「フレンズがここに来た痕跡はありません。ただセルリアンもまだ多いので慎重に進んだほうが良さそうです」
やはり、状況は芳しくない。だが、サーバルたちの前でパークを守りたいと言ったのだ。その言葉は嘘ではないし、嘘にしたくない。言ったからには全うすることこそ大口を叩いた者が背負う責務のはずだ。
「それでヒグマさん? 助手のあれ、どうするんですか?」
今度質問してきたのがキンシコウだった。
ヒグマは、前述の役割以外に助手からある頼まれごとをしている。答えは保留にしているがそろそろ答えなければならないだろう。
それは、つまり。
「サーバルさんたちがいるヒトのちほーに、行くんですか?」
答えられなかった。
肯定も否定もできなかった。
迷っていたのだ。
ヒグマだって非情じゃない。サーバルたちが今どうなっていて、どんな目に遭っているかは分からないが、戦場はこことは比にならない悲惨なものになっているはずだ。それを考えたら、居ても立ってもいられない。バスの報告も、
……傲慢、なのだろうか。
プライドが、言ってしまったからにはやり遂げなければならないという意地が、自分をこうまでしているのだろうか。
考えても考えても答えは出ない。
守りたいし、助けに行きたいし、帰ってきてほしいし、出来ることなら、誰にも傷ついてほしくなかった。
これは、そういう意味での迷いだ。
ヒグマはある意味、サーバルが羨ましかった。
あれほど真っ直ぐで、たとえ戦うことに強くなかったとしても、自分のしたいことを見つけられて、成し遂げてしまう彼女が羨ましかった。
そんな時だった。
無線機が何かを受信した。
『……ーぃ、……おーい、聞こえてるー?』
「……トラ?」
『お、聞こえてるみたいだな。使い方はあってるみたいだ』
トラ。セルリアンハンターに劣らない実力を持ち、とあることでヒグマと一度語りあった仲でもある。それ以外にも、何故か彼女からは奇妙な縁を感じていた。例えるなら、前世から友達だったというような、そんなおとぎ話のようなことだ。
尤も、フレンズの中ではそういう縁も珍しくなかったりするのだが。
しかしそれはそれ。ヒグマは無線機を使ってでも連絡を取りに来たトラに小首を傾げながら、
「何のようだ? もしかして新種のセルリアンか?」
『いや違うよ、そんな話じゃない。……ヒグマ、助手から聞いたよ。ヒトのちほーへの同行に誘われてるんだって?』
ヒグマは小さく舌打ちした。誘いを断っている事が助手から漏れれば、当然理由も求められるだろう。別にバレても恥ずかしくない理由だが、それでも言いふらされるとあまりいい気分ではない。具体的には顔の辺りが熱くなる。
無線機の向こうで、トラが短く笑っていた。
『うん、ヒグマらしい理由だった。でもな、それとは別の想いがあるんじゃないか?』
「……何が言いたい」
少し遠回しに誘導してきた。
だからさ、とトラはワンクッション置くと、ヒグマの核心を突く。
『心配するほど大切な仲間がいるんだったら行けよ。ここを見捨てるんじゃなく、託していけ。もう少し自分に正直になれよ、ヒグマ』
「な……っ」
それでもヒグマは逡巡していた。
サーバルたちの元へ行きたい。でも、ここを放っておきたくない。相反する想いが決断の邪魔をする。
きっと、それも無線機の先で見抜かれたのだろう。
『行けよ』
もう一度、今度は背中を押すように。
『ヒトのちほーはきっと、ここより広く、酷い戦場のはずだ。そこで、その力を存分に振るってこい。安心しろ、アタシも、アンタとは少し違ったサイキョーだ。少し方向性は違うけどアンタの代わりくらいやってやるさ』
きっと、偶々トラの周囲には別のフレンズが大勢いたのだろう。或いは、みんながみんなヒグマを説得するために集まっていたのかもしれない。トラに続くように、彼女以外のフレンズが大丈夫や任せてなどと言った言葉を口々に投げかける。
そして、トラがこう締めくくったのだ。
『だからここはアタシに、いや、アタシたちに任せて先に行け! ヒグマ!!』
トラは返事を聞かず、一方的に無線機を切った。
なんと言ったら良いか分からず、ただ悶々としながら頭を掻きむしる。その様子を見ていたキンシコウとリカオンには、どこか温かい目で見られていた。
そして、再度無線機が起動する。
「……何だ?」
『助手です。ヒグマですね? 例の件についてなのですが──』
それは、以前の問いと同じもの。
勿論、拒否したっていいものだ。
だけど。
「ヒグマさん」
声の方を向けば、二人が穏やかな笑みを浮かべている。
それで答えは決まった。
無線機に向けて、ヒグマはその答えを告げる。
「──というわけだ」
侵食型セルリアンに足払いをして転ばせる。ツチノコはビームで牽制しながら、ヒグマの補佐をしていた。
「なるほどな。格好つかないじゃないか」
「言うなよ、自覚はあるんだから」
そう言いながらもヒグマの顔は晴れ晴れとしている。後悔している様子も、気負いしている雰囲気も見受けられなかった。
「さて、アイツが勝負をつけるまでもう少しのはずだ」
「……必ず勝つ」
「言われなくても」
ヒグマとツチノコ。背中を合わせて周囲の敵を見る。
ヒトも応戦しているが、資源と数から押されている状況だ。
だが、それでも。
「あと少し」
そう言ったのは誰だっただろうか。
博士か、ツチノコか。
助手か、ヒグマか。
フレンズか、ヒトか。
いや、口には出さずとも誰もが思っていたはずだ。
言葉にしなくても、それを、心の中で。
たとえ資材が無かろうと、数が足りなかろうと。
今この時だけは、意地でも負けられないのだと。
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