その悪意に立ち向かう覚悟はあるか
3
言葉が出なかった。
何も言えなかった。
途中で出てきたビーストと呼ばれるフレンズの詳細や、黒サーバルと同じ名前の存在がいたことなど気になることは色々ある。
だが、それを全て忘れさせるほどの衝撃を受けた。
「どういう、ことなの……?」
「どうもこうも、書かれてる通りなのです。どうやらヒトは、サンドスターを隔離し、ひいては我々フレンズも始末する予定だったようなのです」
自分たちはヒトに嫌われていた。
恐れられていた。
いや、違う。そこじゃない。もしこれがここにあるとすれば、あの時、とある人物への認識が変わってくる。
「かばんちゃんはこれを見て……ヒトを嫌いになった、のかな?」
自意識過剰かもしれない。別の方法でヒトへの理解を深め、それで嫌った可能性だってある。
だが、それだと辻褄が合わないのだ。
帰り際の、あの暗い顔。
もしアレが、この資料を見たことで深く思い悩んでいたとすれば。
それを悟られないようにしていたとしたら。
「……かも、しれないのです」
博士はどちらに肯定をしたのだろうか。
サーバルは今までの経験上顔に出やすいらしい。もしかしたら考えてることを察しられて、それを肯定されたのかもしれない。
しかし、博士は希望的観測などしていないようだった。
「これを見て、かばんがヒトを侵略する決意を固めた可能性もあります。しかし、これ以外を見て決意した可能性だってあるのです」
推測をする時、最も希望のある可能性はあてにならない。理由なんて単純で、そんなものは大抵外れることが多いからだ。
しかし、博士は憶測だけでものを語らない。否定するならそれなりに、裏付ける何かがなければ頭ごなしに否定しないけものだ。
博士はもう一つ、別の資料を持ってきた。
やはり読めない。
だが、知っている。
実際に見たし、戦ったことだってある。
博士の顔は険しかった。
「かばんは言っていました。自分のフレンズの技は火だと。私もこれらの名前だけは知っていたので確証は持てませんが、つまりそういうことだと思うのです」
資料にはそれぞれ名前と、画像が貼り付けられている。
博士は上から順に、その名前を読んでいった。
拳銃。
ライフル。
マシンガン。
地雷。
戦車。
核。
「銃火器や爆弾など、火を用いたこれらをへいきなどと言うらしいのです。──しかし、これはヒトの呼び方。我々からすれば脅威である以上に狂気の領域に足を踏み入れていると言っても過言ではないでしょう」
それらの音の羅列は、本能が拒絶していた。
無論それだけではない。大まかに括られているだけで、その数は無数と言ってもいいほどだ。
狂気を感じる。
傷つけるために生み出されたそれに、どうあっても他者を撃滅せんとする執念を感じる。
「あの時パークで言っていた
ヒトを殺すと書いて殺人。
言われた通り
頭を撃たれて死ぬ。
上からの爆弾を投下することにより街ごと破壊する。
たった一つのそれを落とすだけで、何万人もの被害が出る。
あぁ知っている。
サーバルはそれを、実際にあの無限の地獄の中で経験している。
「へいきという呼び方は、ただヒトがそう呼んでいたというだけの話。我々は別の呼び方をすべきなのでしょう。ですから──」
守るためにでも、逃げるためにでもなく、傷つけるために開発されたもの。
生きるためでも、次の命に繋ぐためでもなく、殺すという一点だけに絞られたもの。
ちょっとした手順を踏めば、誰だって他者を傷つける、切り離す力。
ヒトの叡智の先にあるもの。
罪咎。
博士の顔に影がかかる。
言いたくないのだろう。
そう呼びたくないのだろう。
しかし、それはそう呼ぶしかない。答えは手元にあるのだ。
だから。
博士はその名を、悲しそうに。
ポツリと、呟くように告げた。
「私はこれを……〝ヒトの業〟と、呼んでいるのですよ」
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