壊滅都市 ~動物園~ 後編



 5



『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォーーー!!』


 咆哮が轟く。

 そのセルリアンは気味の悪い風貌をしていた。

 ライオンの頭部にヤギの胴体を持ち、ヘビと思われる尻尾を揺らがせる。

 複数の動物を合成させたような獣。低く唸りながらその牙が口から覗く。


「キマイラ……合成獣か。ここにいる全ての動物の輝きを再現しやがったな……っ」


 大昔に作られた神話に登場する、元は聖獣として神聖視されていた怪物。

 合成獣の代名詞。動物園の象徴としてこれほど適切な化け物は他にいないだろう。

 奇妙なのは風貌だけではない。その表面は沸き立ち、膨れ上がった皮膚が別の形状に変えて次々と地面に落ちていく。

 やはり、それもセルリアンだった。

 姿形は元の動物そのものだが、質感は黒セルリアンと同一で、口を除く顔の器官は形以上の意味を持たない。

 瞬く間に動物型セルリアンはその数を増やし、巨大セルリアンはアスファルトを砕きながら突進する。

 それに対し、ライオンとヘラジカが爪と武器をそれぞれ構えた。


「来たな……」

「上等だ。その鼻っ柱を叩いて……」


 巨大セルリアンは速度を上げていき、その巨体からは想像もつかないような速さに達していく。付近にある机や椅子なども巻き込んでその全てを壊していった。

 その様子に、ライオンは引きつるように苦笑いを浮かべると、


「いや、これは……」


 距離が離れていた影響でその大きさを正しく認識出来ていなかったのだろう。距離が縮むにつれてその図体が巨大化していき、軽く五メートルはあった。動物型セルリアンも一律して胸辺りだが、如何せん数が多すぎた。

 巨大セルリアンと動物型セルリアン。

 その大群が雪崩のように突進する光景を見て、全身から血の気が引いていく。


「「無理だ!!」」


 踵を返し、サーバルたちは脱兎の如く逃げていく。

 ツチノコがこめかみに血管を浮かばせながら叫ぶ。


「さっきまでの威勢はどうしたんだ!?」

「いやあれは無理だって! 見てみなよあんなに大きいんだよ!?」

「だったら喧嘩売る前に逃げろよバカ野郎ォォォォオオオオ!!」


 そんなことを言っている場合ではない。後ろでは今もその巨体と速度で壁やら何やらを砕きながら追いかけてくる。その証拠に時々後頭部に瓦礫の破片が当たっていた。

 そして、今の今まで必死に逃げていた彼女たちは気付かなかったのだ。


「あはははは 狩りごっこ楽しいね! おっとっと も もうちょっと優しく走って?」


 なんかいた。

 自分たちと並走するように色彩を失った姿をしている追跡の対象、黒サーバルが横にいた。しかも自分の足で走ることなく、動物型セルリアンに乗り、その首に手綱の代わりなのかロープが巻かれている。


「な、何してるの!? 動物っ、セルリアンに乗って……え!?」

「そもそも何で一緒に逃げてんだ! どうせアレだってオマエが作ったんだろ!? だったら命令すれば上手いことオマエだけ逃げられるんじゃねぇのか!?」


 頭の上にハテナマークを大量に飛ばしながら、サーバルは疑問を投げ飛ばす。その言葉も混乱しているせいで最低限スレスレの文章しか出てこなかった。代打としてその状況を望んでいなくとも、どうしても拭いきれない現状の違和感をツチノコが指摘する。

 黒サーバルは今も馬代わりに乗っている動物型セルリアンが走り続ける影響でポヨンポヨンと体を弾ませながら、


「わたしが 相手をしても良かったんだけど 多分 それじゃ あなたたちは 諦めないだろうから 別の方法で 諦めてもらおうと思ったんだけどね?」


 時々反動で落ちそうになるのを、手綱と足で踏みとどまる。その力で胴体と首を容赦なく締め上げられる動物型セルリアンが苦しげな声を出すのを気にも留めず、体勢を整えられたことに安堵のため息をついた後、困ったように顔を緩ませた。


「色んな動物の輝きが 混ざっちゃったせいで 理性が消えちゃったみたいでね? わたしの命令 聞かなくなっちゃった」


 てへっとでも言いたげに緩んだ笑顔を見せる。それに対し、ツチノコは叫ばずにはいられなかった。


「バカじゃねぇの! 本当にバカじゃねぇのかオマエ!? そんな忘れ物しちゃったみたいなうっかりでとんでもねぇヘマしてんじゃねぇよ!!」

「おっちょこちょい加減がサーバルに近付いてきたな……」

「やった! これでまた一つ サーバルに近付いた!」

「失敗したことに喜んでんじゃねぇ!!」


 トラブルメーカーが二人になって気苦労も二倍。この先どうなることやらと頭を抱える博士とツチノコだったが、あまり余裕はない。後ろを振り返れば今も変わらず突進しているセルリアンの姿がある。


「取り敢えず今はこの状況を打開する方法を考えるのです。このままではここにいる動物にも被害が出てしまうのですよ」


 輝きを奪われた動物は例に漏れず昏睡状態に陥っている。そのため逃げることも防ぐことも叶わず、不条理の暴力に潰されるだろう。

 力と速さの奔流。その象徴があの合成獣キメラだ。

 巨大セルリアンの暴走も脅威であることに違いはないが、その驚異を増幅させているのは他でもない動物型セルリアンの大群だ。

 どうやって迎え撃つか、それを逃げながらも一生懸命考えていた。

 そして唐突に、具体的には動物園の曲がり角を最後尾のヘラジカが曲がった直後にその異変は訪れる。


 ゴオォッッッ!!!! と、後ろの壁が一瞬で砕け散った。


「……っ?」


 何が起こったのか分からなかった。後ろから聞こえた大きな轟音の方向に振り向けば、砕けた瓦礫から体を出す巨大セルリアンの姿が見える。

 そのセルリアンはこちらに顔を向け、前足をまるで地面をひっかくような仕草を取っていた。

 停止している巨大セルリアンを追い越し、動物型セルリアンの群れが角を曲がる。

 黒サーバルは目を細め、その巨大セルリアンの動向を気にしていた。

 本能の警鐘が鳴ったのはその時だった。




 ── 避けなければ、死ぬ ──




「みんな横に避けて!!」


 サーバルは自分の勘を信じ、叫ぶ。全員は一度首を傾げたが、ほぼ同時に地面を蹴った。


 刹那。


 まるで砲弾が飛んできたかのように動物型セルリアンを纏めて蹴散らし、サーバルたちがいた場所を地面ごと抉りながら向かい側の壁に突っ込んだ。

 見えなかった。

 認識した時には終わっていた。

 だが頭の中では結論は既に出ていたのだ。黒サーバルと前もって戦っていなければあの警鐘も鳴らなかったかもしれない。

 つまり。

 元凶の黒サーバルは、動物型セルリアンと戯れながら巨大セルリアンの唯一無二の特徴を口にした。


「フレンズじゃ 絶対に目で追えない 最速のセルリアンだよ でも わたしよりは遅いけどね」

「なるほど……図体はでかいですがセーバルの劣化版ということですか」


 回避行動のために倒れ込んだ体を起こし、瓦礫から顔を引き抜く巨大セルリアンを睨む。

 巨大セルリアンが最高速度で突進してきたのは今までで恐らく二回。

 一度目はヘラジカの背後にあった壁を破壊した時。そして、二度目は今。そのどちらも、共通点が二つあった。

 一つ目は、当然ながら巨大セルリアンが見えなかったこと。それを認識したときには明らかに遅くて、サーバルの警告が無ければ反応すら出来ずに吹き飛ばされていただろう。

 そして、もう一つ。

 その事象の後に、巨大セルリアンは必ず壁に突っ込み、瓦礫から頭を出すまでがワンセットだった。

 そう、故に。それが指し示すことは、


「攻撃は圧倒的な速度だが、制御できていなければまだ手の打ちようがあるな」


 それが黒サーバルとの決定的な違いだった。

 完全に制御し、目で追えるのに反応できない速度で攻撃した黒サーバルよりも単純で読みやすい。一歩間違えれば危険ではあるが、勝算が無くなるわけではない。

 そんな楽観的で、希望的観測をしていると、巨大セルリアンの方角から音が鳴る。

 慌てて振り返り、その姿を目で確かめる。


 そこには、その爪でもう一度地面をひっかく巨大セルリアンの姿があった。


 

 それに気づけなかったのは、逃げるのに必死で後ろを確認していなかったからだろう。

 


 行動するまでの時間は確かに手元にあった。

 情報の共有と整理は安全な場所で行うべきだった。


「まずい! おいオマエら早く逃げ──」


 もう遅い。

 ツチノコが言い終わるよりも早く、その場にいた全員が行動するよりも速く。

 辺り一帯を破壊し尽くし、巨大セルリアンはフレンズたちを吹き飛ばした。



 6



 一瞬だった。

 吹き飛ばされ、刈り取られ、落っこちた。


「…………っ、うぅー……」


 全身が痛む。特に頭なんて鈍痛が走る上に揺れている。視界はぐにゃぐにゃと歪んでいて何処か気持ち悪い。

 必死に自分の意識を呼び起こしながら、落ちたときに壊したのであろう瓦礫の山から這い出した。


「ここ、は……」


 すぐ近くに動物が昏睡状態で眠っている。おそらく、まだ動物園の敷地内だろう。猛スピードで突進され、見知らぬ遠方の彼方に落とされたらどうしようかと肝を冷やしたが、それも杞憂だったようだ。

 しかし、そこは知らない場所だった。一通り動物園を回ったはずだが、その中で通らなかった道でもあったのだろうかと考えながら、その違和感にようやく気づく。


「……っ! みんなは!?」


 吹き飛ばされた時に散り散りになってしまったのだろう。自分以外誰もおらず、物音は何一つしない。

 世界にたった一人だけ取り残されたかのような孤独感が、サーバルを包み込む。


「取り敢えず、探さないと……」


 一刻も早く博士たちと合流しなければならない。推測だが、あの巨大セルリアンはロボリアンの運行が上手く行かなかったから作られた代用品だ。その量産はロボリアンには敵わなくとも、充分脅威であることには違いなかった。

 それを対処するためにも、立ち止まる訳にはいかないのだ。



 7



 それからしばらくして、冷や汗を垂らしながらサーバルはとある休憩場で唸っていた。

 そして、告げる。


「………………………………………………………………まよったぁー」


 通称さばんなちほーのトラブルメーカー・サーバルキャット、絶賛迷子中である。

 匂いは動物やらセルリアンやらの匂いが混ざり後を追おうにも追えず、地図も所持しておらず、その代わりを果たしていたであろう掲示板は尽く壊されていた。

 どうぞ迷子になってくださいとでも言いたげなその徹底さに為す術なく耳を垂らすしかなかった。

 歩いても歩いても見慣れない景色ばかり。それはそれで新鮮で楽しめるかと思いきや輝きが奪われてるせいで退屈でしかなく、その上知っている道に出ないことに肉体的にも精神的にも疲労が蓄積していた。

 大声を出したり、高く跳んで確かめようかとも思ったが博士たちより先にセルリアンに見つかる可能性のほうが高いと考え、実行には移せずにいた。


 このままでは埒が明かないから玉砕覚悟で叫んでみようかしらと考えていた時だった。

 目の前に、見覚えのある影が過ぎていく。


「あっ、セーバル!!」

「? あ サーバル ひとりなの?」

「うん……はぐれちゃって……」

「そっか 大変だね」


 黒サーバルは未だに動物型セルリアンを乗り物代わりにしている。

 少し考えるようにセルリアンの毛並みを整えるように撫でると、はっと顔を上げ、ポンと手を打つ。


「今なら ひとりずつやっつけられるかも!」

「やめてよ!?」


 思わず叫んだ。

 しかしそれは無意味な行動だ。黒サーバルの行動理念はかばんを重視している。彼女が排除しろと言えば、自分の姿の元になったサーバルの頼みなんて歯牙にも掛けないだろう。

 でも、そのはずなのに。


「わかった やめる」


 びっくりするくらいあっさりと、黒サーバルはそう言った。


「あれ……?」

「どうしたの?」

「いや、そんな簡単に諦めるとは思わなくて……。かばんちゃんの邪魔になるけものは排除するーって感じになると思ってたから……」

「確かに かばんちゃんの頼みが最優先だけど 今は あなたたちをどうにかしてって言われてないから 何もしないよ」


 信じるべきか、疑うべきか。それを考えながら、サーバルは視線を下にずらした。その時、今までは身につけていなかった物が視界に映る。


「あれ? ねぇセーバル、その鞄、どうしたの?」


 右肩から左の腰まで紐が垂れ下がっている、肩幅程度の鞄だった。ライオンが似たような物を使っており、博士はショルダーバッグと呼んでいたのを思い出す。その膨らみは殆ど無く、形から察するに本一冊入ってるかどうかだろうと推測できた。


「これはね あの後 かばんちゃんがくれたんだよ」

「かばんちゃんが……?」

「うん! えーっとね」


 嬉しそうに笑いながら、動物型セルリアンからその体を下ろす。黒サーバルはそのまま鞄の口を開き、中にある一冊の本を取り出した。黒っぽい一羽の雛が表紙に描かれており、題名と思われる文字が上部に印刷されているが、サーバルには読めない。


「これ! わたしが大好きな絵本なの! わたし 文字が読めないから 内容は確認できないけど それでも かばんちゃんがわたしにくれた 大事な思い出なんだよ!」


 目をキラキラさせながら、黒サーバルは本をペラペラと捲っていく。中身は簡単な絵がついた、何かの物語のようだった。サーバルも限られた文字しか読めないため、内容はわからない。しかし挿絵の内容から察するに、どうやら最後はハッピーエンドで終わったようだ。

 絵本を眺めている間、黒サーバルはずっと笑顔だった。

 聞きたいことは色々あった。でも、全部の質問に答えてくれるとは限らない。博士たちと合流しなければいけないし、あのセルリアンが現れる可能性もある。

 そして何より、こうしてる間もかばんの侵攻は進んでいる。

 だから絞った。他の疑問は片隅に置いといた。

 投げかける。胸の中にある疑問を、バッグの中へ絵本を仕舞おうとしている黒サーバルへ。


「ねぇセーバル、あなたは一体何者なの……?」


 ピタリと、その動きが止まり表情から感情も消え失せる。無表情で、無感情で、睨むように目玉だけ動かしてじっとその赤い瞳を向けていた。

 質問に対する回答のためか、黒サーバルが口を開く。

 その時だった。


 ゴオォッッ!! と一筋の雷光が黒サーバルの頭目掛けて通過する。

 それを眉一つ動かすことなく、黒サーバルはその攻撃を真っ黒な爪で弾き飛ばした。

 ギロリとその方向を睨む。


「……ちっ、遠距離からの狙撃なら上手くいくと思ったんだがな。風上から撃ってもダメか」


 聞き慣れた声が聞こえてくると、奥から一人のフレンズが姿を現す。

 その者はフードを深くかぶり、その隙間から青い髪を覗かせて、手をポケットに突っ込みながら下駄の音を鳴らして近寄ってきた。


「ツチノコ……! 無事だったんだね!!」

「そうでもないさ。これでも全身傷だらけだ。まともに動けるのは咄嗟に受け身をとったのが幸いしたって感じだな。オマエも元気そうで何よりだ」


 朗らかな二人に対し、黒サーバルの態度は変わらない。爪を二、三回振ると改めてツチノコを睨む。


「攻撃するってことは 戦うの? いいよ かばんちゃんから頼まれてないから 絶対ってわけじゃないけど そっちがその気なら 相手をしてあげる」

「いや、さっきの不意打ちがオレにとって一番勝算がある攻撃だった。その一撃も防がれちまったんだ。もう戦う気になれねぇよ」

「そっか」


 険しい顔を元に戻し、敵意も感じなくなった。先程明らかに妨害の意思を持つサーバルたちと親しげに話しかけてきたり、不意打ちの攻撃を行ったツチノコに対しきっぱりと割り切れるのを鑑みるに、黒サーバルは物事に頓着しない性格なのかもしれない。

 やがて、ツチノコは言った。


「工場の時と同様、作戦会議の時間だ。博士たちはいないが、合流できない以上仕方がない」



 8



 一方で、博士たちは動物園の一角を駆け抜けていた。


「心配して損したのですよ! まさかセルリアンの討伐数で競い合うとは思わなかったのです! いっそのこと頭を打ち付けてショック療法でその脳筋が治っていれば良かったのですよ!!」

「五体満足っていう喜ばしい状況なのに随分な物言いじゃないか! 否定はしないがな!!」

「競争以外に頭を使え反省しろって言ってんだよ博士は! お願いだから頭冷やして私にゴロゴロする時間を頂戴よ!!」


 三者三様、阿鼻叫喚。それぞれが思い思いに叫ぶせいで居場所が特定されるわ雪崩のようにセルリアンが迫りくるわで心身ともに疲労する博士とライオンだったが、元凶のヘラジカは笑ったままである。

 因みにその誘いを断りきれずついさっきまでヘラジカとともにセルリアンの群れを蹴散らしていたライオンも同罪なのだが、当の本人にその自覚があるのか定かではない。

 そんなこんなで逃走中。ヒトの縄張りでセルリアンよりも仲間の行動に頭を抱えることが多くなってきたような気がしないでもない博士が、普段なら似つかわしくない悲痛の叫びを上げることになった。


「サーバルもツチノコもどこにいるのですか! 誰でもいいからこの状況を何とかしてほしいのですよ!!」



 9



 そんなことは露知らず、サーバルたちは作戦会議のために休憩所のベンチに腰掛けていた。

 サーバルと、ツチノコ。


 そして何故かまだいる黒サーバル。


「何でまだいるんだよ!」

「面白そうだったから わたしも こういうのやってみたかったんだっ」


 胸の前で拳を作りるんるんであった。

 下手に拒絶して暴れられても対処できないため、ツチノコは渋々許可を出す。


「あの大きいセルリアンを倒すんだったら まず あの突進を何とかする方法を考えないと 倒せないと思うよ」

「だな。幸い予備動作は分かっているから突っ込んでくるタイミングは何となく分かるが……走り出されたら躱せないのが辛いところだ」

「ロープとかで足を引っ掛けてみるとか……あっ、でも千切れちゃうかな?」


 ロボリアンの時と同じ。力を見定め、対処する方法を思案する。提案しては没にするのを繰り返していた。

 そしてぶつかる問題は、やはり前回と同じそれ。


「石が見当たらない……。パークの黒セルリアンはフィルターみたいに石を覆って、ロボリアンは歯車で隠し、ヒトを取り込んだセルリアンは内部に沈んでいった。だから、石が無いっていうことは無いと思うが……」

「でもロボリアンは石を壊しても復活したよね? 壊すだけじゃダメなんじゃないの?」

「そこだ。石はセルリアンの核なのに破壊しても復活するっていうのはどういう理屈なんだ……?」


 その時、黒サーバルは大きな耳を揺らしながら明確に頭を傾けた。


「石を壊しても 倒せないの?」

「あぁ。ロボリアン……工場の巨大セルリアンはそうだった。知らないのか? あれ、オマエが作ったんだろ?」

「そうなんだけど 何でだろ かばんちゃん また 何かしたのかな?」


 かばんの側近のような存在である黒サーバルでも知らないことが多い。それが偶然なのか、何か狙いがあるのか……。もしかしたら、かばんは黒サーバルすら信用していないのかもしれない。

 そんなことを考えているとサーバルが妙な顔をしていた。


「どうした、腹でも痛いのか? それかぶつけた箇所が痛むとか」

「そういうわけじゃないんだけど……あのセルリアンにも名前をつけよっかなって思ってっ」

「オマっ、オマエ……! こっちが頑張って考えてる時に……ッ!!」

「わ、わたしだって考えてるもん! でも巨大セルリアンってやっぱり長いよ!」


 正直一理あると思った。固有名があったほうが分かりやすいのは確かだ。尤も、その場にいる全員がその名称を知っていることが前提だが。


「名前かぁ……。動物型のセルリアンをたくさん産むからママリアンでどうだ?」

「ツチノコ……それはちょっと単純すぎると思う」

「お前が言うんじゃねぇ!!」

「えっ ママリアン? キメリアンとかじゃなくて? えぇ?」

「オマエもオマエでガチで困惑すんじゃねぇーよ! 恥ずかしくなってくるだろうが!!」


 ツチノコは理不尽に憤って、サーバルは汗を垂らしながらそれを宥め、敵であるはずの黒サーバルは楽しそうに笑った。

 何故か和気あいあいと、作戦会議は続いていく。






 結局、動物型セルリアンを産み出すセルリアンの名前を付けるのは保留になった。

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