第13話



「なんで神の癖に、人の飯食ってんだよ!!」


「神へ供物(くもつ)を捧げるのは、人間の使命だろ? 良いからその肉を僕に捧げなさい!!」


「やかましい! 俺知ってるんだからな! 飯食うときだけ、お前は実体があるって事を!」


「イテテ!! 頬を引っ張らないでよ! 良いじゃ無いか、一枚くらい!」


「やかましい! お前の分も用意してやってるだけ、ありがたいと思え!!」


 純とエレスは、二人で机を囲み、食事をしていた。

 エレスの皿は既に空になっており、食い足りない様子のエレスは純のおかずを狙って来たのだった。

 

「ったくよぉ……ただ飯食ってるくせに、文句言いやがって……」


「いやぁ……人間界の食事は美味しいからね、それに僕は君に力を上げてるんだよ? それに対するお礼ぐらいあっても良いじゃ無いか」


「お前がやれって言うからだろ! しかも、俺の命を人質にしやがって!」


「その表現は間違いだね、正確に言うと、人質は君本人だ」


「どや顔で言うな! 大体お前は……」


「あ、まって……近くに出たよ、さぁ行こう!」


「あぁぁ! こんな時に!!」


 近くにIDが出たらしく、エレスが何かを感じ、純に伝える。

 まだまだ言いたい事があったが、IDが出たのであれば、そっちを優先する必要がある。

 純は急いで準備をし、現場に向かった。


「んで、今回はどこだ?」


「えっと、そこの角を曲がって真っ直ぐの突き当たりだね」


「かなりの近場じゃねーか……被害が大きくなる前になんとか……」


 角を曲がった瞬間、純は思わず言葉を失った。

 角を曲がった先に居たのは、大きな恐竜……では無く、恐竜のような見た目のIDだった。

 全長は約四メートルほど、そこまで巨大と言うわけでは無いが、暴れられたら、ここら辺一体は相当な被害を受けそうだった。


「おい……なんで恐竜が居るんだよ……」


「君何を言ってるんだい? どう見てもIDじゃないか」


「始めて見たぞあんなタイプのID! しかも肉食っぽい外見の癖に草食ってんぞ!」


 恐竜のような姿のIDは、真っ黒い体に黄色い瞳をしており、公園の葉をムシャムシャ食べていた。

 恐ろしい外見とは裏腹に、そんな穏やかな姿がなんだか可愛いとさえ思えてしまった純。


「何にしても倒さないと、破壊行動を始めるかも知れないから、今のうちに倒しちゃおうよ」


「毎回簡単に言いやがって……やるのは俺なんだぞ……」


 ぶつぶつ文句を言いつつ、純は人目が無いことを確認し、装展する。

 夜と言う事もあり、人通りが少なかったので、周りをそこまで気にする必要が無く、すぐに装展が出来た。

 しかし、恐竜の姿のIDはと言うと、純に気がつく様子も無く、草を食べ続けていた。


「腹減ってんのかな?」


「恐らく、力を付けてから暴れる算段なんじゃない? 今のうちに一発で決めちゃってよ」


「だから簡単に言うなっての!」


 恐竜の姿のIDが居る場所は、大きめの公園で、戦闘には向いていた。

 広い公園内ならば、いくら暴れても被害は少なくて済む。

 純は、エレスの言う通り、食事に気が向いている間に倒してしまおうと、一気にIDに向かって行った。


「おりゃぁぁ!!」


 かけ声と共に、IDの脇腹に拳を打ち込む。

 しかし、IDは何事も無かったかのように食事を続ける。

 

「な、なんだこいつ? 効いて! 無い! のか!」


 その後も力いっぱい殴り続ける純だったが、全くダメージを与えられない。

 殴り続けられ、ようやく純に気がついたのか、IDは草を食べるのを止め、純にちらりと視線を向ける。

 そして__。


「ぎゃぁぁぁぁ!!」


 IDはしっぽを高く振り上げ、純をなぎ払い遠くに飛ばす。

 なぎ払っただけだと言うのに、その力は装展した純の力を遙かに超えていた。

 純は吹き飛ばされ、公園内木に体を打ちつけられた。


「いってぇぇ……何なんだよあいつ!」


「パワーと防御が桁違いだね~……この前のIDもそうだけど、最近のIDは格段に強く鳴ってるみたいだね」


「みたいだね。じゃねーんだよ! 何か良い作戦とか無いのか?! このままだとヤバいぞ!」


「そう言われても……この前保留にしたパワーアップでも試す?」


「それで良いよ! 十分だよ! やってくれ!!」


「じゃあ、はいこれ」


 エレスは純に、装展に使う赤い宝石と似た、別な緑色の石を取り出し、純に渡した。

 大きさは装展に使う宝石とさほど変わらないが、少し小さい。

 形も、赤い宝石は四角いキューブ状なのに、緑の宝石は多角形のクリスタルのような形だった。


「なんだこれ?」


「決まってるでしょ! 特撮番組でおなじみのパワーアップアイテムさ! それを使えば君のソルバレスは、パワーアップが可能さ!」


「おい、色々聞きたい事があるが、その前にそのソルなんちゃらってなんだ?」」


「君が今まさに身につけている武装の事だよ、言わなかったけ?」


「初耳だわ! ……まぁいい、それでパワーアップするには、どうしたら良い?」


「お馴染みの音声認識を採用したよ! さぁ、羞恥心を捨てて叫ぼう! へんし……」


「その手に乗るか! どうせ、またありきたりだからって変えたんだろ……」


「……っち……」


「舌打ちすんな!」


 そうこうしている間も、恐竜型のIDは食事を止めない。

 ムシャムシャと草を食べ続けていた。


「さっさと教えろよ! 今がチャンスなんだ!」


「はいはい……まぁ、音声認識も採用してないんだけどね……そもそも音声認識は変身するときに叫ぶから格好いいのであって、パワーアップは……」


「良いからさっさと教えろ!」


「あぁ、はいはい、わかったよ……人の話も最後まで聞けないなんて……将来が心配だね」


「その前にTPOくらい考えろ! 目の前に恐竜みたいな敵がいんだぞ!」


 純達がギャーギャーと騒いで居ると、恐竜の姿のIDは食事を終えたらしく、草を食べるのを止めた。

 そして、ゆっくりと純達の方を向き口を開ける。


「「え??」」


 そんなIDに気がついた純とエレス。

 前にもこんな事があったようなと考えながら、IDに視線を向けていると、IDが炎の玉を飛ばしてきた。


「ぎゃぁぁぁ! またか!! こんなん前にもあったぞ!」


「君がさっさとパワー-アップしないからだろ! 馬鹿なの!」


「お前がやり方を教えないからだ!」


 間一髪のところで、攻撃を避けた純だったが、IDは再びゆっくりと純に狙いを定め炎の玉を吐く。

 

「また来た! やべっ!」


 気がついた時には遅かった、避けるには時間が足りないと直感的に悟り、純は防御の構えを取り、攻撃を受ける覚悟を決め、目を瞑る。

 ……が、しかし、純に攻撃が当たる事は無かった。

 

「あ、あれ?」


 攻撃が当たってこない事に、不信感を覚えた純は恐る恐る目を開けた。

 すると純の目の前には、この前見たサイボーグ人間が、IDの攻撃を防いでいた。

 近くで、そして炎の光で純はサイボーグ人間の姿を詳しく見る事が出来た。

 そして純は思った。


(サイボーグなんかじゃ無い……こいつは……人間だ!)

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