第13話
*
「なんで神の癖に、人の飯食ってんだよ!!」
「神へ供物(くもつ)を捧げるのは、人間の使命だろ? 良いからその肉を僕に捧げなさい!!」
「やかましい! 俺知ってるんだからな! 飯食うときだけ、お前は実体があるって事を!」
「イテテ!! 頬を引っ張らないでよ! 良いじゃ無いか、一枚くらい!」
「やかましい! お前の分も用意してやってるだけ、ありがたいと思え!!」
純とエレスは、二人で机を囲み、食事をしていた。
エレスの皿は既に空になっており、食い足りない様子のエレスは純のおかずを狙って来たのだった。
「ったくよぉ……ただ飯食ってるくせに、文句言いやがって……」
「いやぁ……人間界の食事は美味しいからね、それに僕は君に力を上げてるんだよ? それに対するお礼ぐらいあっても良いじゃ無いか」
「お前がやれって言うからだろ! しかも、俺の命を人質にしやがって!」
「その表現は間違いだね、正確に言うと、人質は君本人だ」
「どや顔で言うな! 大体お前は……」
「あ、まって……近くに出たよ、さぁ行こう!」
「あぁぁ! こんな時に!!」
近くにIDが出たらしく、エレスが何かを感じ、純に伝える。
まだまだ言いたい事があったが、IDが出たのであれば、そっちを優先する必要がある。
純は急いで準備をし、現場に向かった。
「んで、今回はどこだ?」
「えっと、そこの角を曲がって真っ直ぐの突き当たりだね」
「かなりの近場じゃねーか……被害が大きくなる前になんとか……」
角を曲がった瞬間、純は思わず言葉を失った。
角を曲がった先に居たのは、大きな恐竜……では無く、恐竜のような見た目のIDだった。
全長は約四メートルほど、そこまで巨大と言うわけでは無いが、暴れられたら、ここら辺一体は相当な被害を受けそうだった。
「おい……なんで恐竜が居るんだよ……」
「君何を言ってるんだい? どう見てもIDじゃないか」
「始めて見たぞあんなタイプのID! しかも肉食っぽい外見の癖に草食ってんぞ!」
恐竜のような姿のIDは、真っ黒い体に黄色い瞳をしており、公園の葉をムシャムシャ食べていた。
恐ろしい外見とは裏腹に、そんな穏やかな姿がなんだか可愛いとさえ思えてしまった純。
「何にしても倒さないと、破壊行動を始めるかも知れないから、今のうちに倒しちゃおうよ」
「毎回簡単に言いやがって……やるのは俺なんだぞ……」
ぶつぶつ文句を言いつつ、純は人目が無いことを確認し、装展する。
夜と言う事もあり、人通りが少なかったので、周りをそこまで気にする必要が無く、すぐに装展が出来た。
しかし、恐竜の姿のIDはと言うと、純に気がつく様子も無く、草を食べ続けていた。
「腹減ってんのかな?」
「恐らく、力を付けてから暴れる算段なんじゃない? 今のうちに一発で決めちゃってよ」
「だから簡単に言うなっての!」
恐竜の姿のIDが居る場所は、大きめの公園で、戦闘には向いていた。
広い公園内ならば、いくら暴れても被害は少なくて済む。
純は、エレスの言う通り、食事に気が向いている間に倒してしまおうと、一気にIDに向かって行った。
「おりゃぁぁ!!」
かけ声と共に、IDの脇腹に拳を打ち込む。
しかし、IDは何事も無かったかのように食事を続ける。
「な、なんだこいつ? 効いて! 無い! のか!」
その後も力いっぱい殴り続ける純だったが、全くダメージを与えられない。
殴り続けられ、ようやく純に気がついたのか、IDは草を食べるのを止め、純にちらりと視線を向ける。
そして__。
「ぎゃぁぁぁぁ!!」
IDはしっぽを高く振り上げ、純をなぎ払い遠くに飛ばす。
なぎ払っただけだと言うのに、その力は装展した純の力を遙かに超えていた。
純は吹き飛ばされ、公園内木に体を打ちつけられた。
「いってぇぇ……何なんだよあいつ!」
「パワーと防御が桁違いだね~……この前のIDもそうだけど、最近のIDは格段に強く鳴ってるみたいだね」
「みたいだね。じゃねーんだよ! 何か良い作戦とか無いのか?! このままだとヤバいぞ!」
「そう言われても……この前保留にしたパワーアップでも試す?」
「それで良いよ! 十分だよ! やってくれ!!」
「じゃあ、はいこれ」
エレスは純に、装展に使う赤い宝石と似た、別な緑色の石を取り出し、純に渡した。
大きさは装展に使う宝石とさほど変わらないが、少し小さい。
形も、赤い宝石は四角いキューブ状なのに、緑の宝石は多角形のクリスタルのような形だった。
「なんだこれ?」
「決まってるでしょ! 特撮番組でおなじみのパワーアップアイテムさ! それを使えば君のソルバレスは、パワーアップが可能さ!」
「おい、色々聞きたい事があるが、その前にそのソルなんちゃらってなんだ?」」
「君が今まさに身につけている武装の事だよ、言わなかったけ?」
「初耳だわ! ……まぁいい、それでパワーアップするには、どうしたら良い?」
「お馴染みの音声認識を採用したよ! さぁ、羞恥心を捨てて叫ぼう! へんし……」
「その手に乗るか! どうせ、またありきたりだからって変えたんだろ……」
「……っち……」
「舌打ちすんな!」
そうこうしている間も、恐竜型のIDは食事を止めない。
ムシャムシャと草を食べ続けていた。
「さっさと教えろよ! 今がチャンスなんだ!」
「はいはい……まぁ、音声認識も採用してないんだけどね……そもそも音声認識は変身するときに叫ぶから格好いいのであって、パワーアップは……」
「良いからさっさと教えろ!」
「あぁ、はいはい、わかったよ……人の話も最後まで聞けないなんて……将来が心配だね」
「その前にTPOくらい考えろ! 目の前に恐竜みたいな敵がいんだぞ!」
純達がギャーギャーと騒いで居ると、恐竜の姿のIDは食事を終えたらしく、草を食べるのを止めた。
そして、ゆっくりと純達の方を向き口を開ける。
「「え??」」
そんなIDに気がついた純とエレス。
前にもこんな事があったようなと考えながら、IDに視線を向けていると、IDが炎の玉を飛ばしてきた。
「ぎゃぁぁぁ! またか!! こんなん前にもあったぞ!」
「君がさっさとパワー-アップしないからだろ! 馬鹿なの!」
「お前がやり方を教えないからだ!」
間一髪のところで、攻撃を避けた純だったが、IDは再びゆっくりと純に狙いを定め炎の玉を吐く。
「また来た! やべっ!」
気がついた時には遅かった、避けるには時間が足りないと直感的に悟り、純は防御の構えを取り、攻撃を受ける覚悟を決め、目を瞑る。
……が、しかし、純に攻撃が当たる事は無かった。
「あ、あれ?」
攻撃が当たってこない事に、不信感を覚えた純は恐る恐る目を開けた。
すると純の目の前には、この前見たサイボーグ人間が、IDの攻撃を防いでいた。
近くで、そして炎の光で純はサイボーグ人間の姿を詳しく見る事が出来た。
そして純は思った。
(サイボーグなんかじゃ無い……こいつは……人間だ!)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます