第12話

「ねぇ! それで告白はしたの?!」


「するわけ無いだろ……さっきも言ったけど、話し始めたのも最近で……」


「日本の男性ってなんでそんなに奥手なの? ロシアの男性は積極的よ?」


「ロシアのイケメンと、俺みたいな日本の高校生を比べないでくれ……」


 やっと携帯ショップに到着し、純はエレーナの質問攻めから開放された。

 店内に入ったエレーナはショップの店員と色々な手続きをしていた。

 その間、純は何もやることがないので、店内を見て時間を潰していた。


「お待たせ」


「あぁ、どうだった?」


「折角だから機種変したわ、その方がすぐに使えるし」


「それもそうだな、修理だと時間も掛かるしな。じゃあ行くか」


 純とエレーナは、二人揃って店を出た。

 時間はもう夕方になっており、日が落ち始めていた。

 純はエレーナを自宅まで送り届ける為、本日二度目の高級マンションに向かう。


「じゃあ、俺はこの辺りで」


「今日は色々とありがとう、助かったわ」


 マンションの前で別れを済ませ、純は今度こそはと帰宅しようとする。

 

「あ、ちょっと待って」


 呼び止められのは、今日で何度目であろうか。

 またしてもエレーナが純を呼び止めた。

 今度は何だろう、そう思いながら振り向くと、エレーナが先ほどの携帯ショップで特典として貰った思われる、メモ帳に何かを書いていた。


「はい、これ私の連絡先」


「え、あ……いいのか?」


「何が?」


「いや、俺に教えて……」


「もう友達でしょ? それに困った時はまた頼らせて欲しいし……」


 確かに、今日出会ったばかりなのに、もう既に純とエレーナは結構仲の良い間柄になっていた。

 確かにエレーナの言うとおりかもしれないなと、純もそう思いながら、エレーナの連絡先の書かれたメモ用紙を受け取った。


「最後の方が本音っぽいけど……まぁ、そうだな、また何かあったら言ってくれ、じゃあ今度こそ」


「うん、またね」


 まさか、道でぶつかった人とこうして仲良くなって、連絡先を受け取るなんて思いもしなかった純。

 連絡先が書かれたメモ用紙を大事にしまい、純は自宅に帰って行った。


「ただいまぁ~……」


 真っ暗な部屋の中、純は一人で呟く。

 電気を付け、リビングのテレビの電源を入れ、ソファーに座る。

 

「はぁ……なんかつかれたなぁ……」


「ふっふっふ……そんなにお疲れだったのかい?」


「……もうお前が急に出て来ても、驚かない俺がいるよ……」


 純の隣に兄食わぬ顔で現れるエレス。

 エレスは、笑みを浮かべながら、純の方を見ていた。

 何を笑っているのだろう、そう思った純だったが、そこでようやくエレスが運命を変えた事を思い出す。


「あ! そう言えばお前よくも!」


「あはっはっはっは! 僕を馬鹿にするからだよ。で、一体何が起こったんだい?」


「え……えっと………そう言えば特別悪いことは無かったような……」


「え? 嘘? あれ?」


「いや、お前が運命変えたのに、なんで内容を把握してないんだよ…」


「だから、言ってるだろ? そんな僕の思うとおりに運命を変えたら、人間世界に大きく干渉しちゃうよ。だから、軽ーく運命の糸を弄っただけなんだよ」


「いや、意味がわかんねーし、わかるように説明しろよ」


 純の言葉に、エレスはやれやれと言った様子で、仕方なく説明を始める。

 どこからか取り出したスケッチブックに図を書きながら、エレスは純に話し始める。


「いいかい? この人の運命は複数の運命の糸の組み合わせで決まっているんだ。本来、誰かの運命を僕たち神様が、思い通りにしようとしたら、強力な神パワーを使わなきゃ行けない。それがどんなに小さい運命だとしても」


「ふむふむ」


「でも、この運命の糸を少し組み替える事で、簡単に人の運命を変えることが出来る。でもどんな運命になるかはわからないんだ」


「なるほどな、神パワーってやつも使ってないから、神が人間の世界に干渉したことにならないって訳か?」


「まぁ、そういう感じ。それに運命の糸は、時々組み変わるんだ、だからそこに僕の手が加わったとしても、誰もわからないからね」


「なんでも良いけど、今後は絶対に俺の運命を変えるなよ? ただでさえお前と出会って、運命が変わりまくってんだから」


 とりあえず、人間からしたらたまったもんでは無い事に気がつき、純はエレスに念を押す。 しかし、エレスに純の言葉は届いておらず、何かを考え込んでいた。


「う~ん、確かに運命の糸を組み替えたはずなんだけど……」


「組み替えられた運命の方が、良い運命って事だったんだろ? 今度からは勘弁してくれよ」


 考え込むエレスに、純はそう言い、夕飯の支度を始めた。

 




「はぁ……エレーナさん……綺麗だったなぁ…」


 私、姫島弥生は悩んでいた。

 その理由は、街で見かけた同級生の男の子についてだった。

 彼は綺麗な外国人の女の子と一緒に街を歩いていた。

 そんな彼の姿を見た私の心中は、先ほどから大荒れだった。


「はぁ……最近ようやく話しが出来て、この前は一緒にご飯も食べたのに……」


 最近良いことがありすぎたからだろうか、今日は良くない事がおきてしまった。

 私は彼の事が中学時代から好きだった。

 でも、クラスが同じになった事もないし、委員会や部活も別。

 一切接点が無く、ずっと片思いをしていた。

 

「最近ようやく話せるようになったのに……」


 自室のベッドで横になりながら、私は今日の彼の顔を思い出す。

 エレーナと言う少女と楽しげに話しをするその顔を……。


「う~……ずるい」


 別にエレーナが悪くないのはわかっていた。

 しかし、自分以外の女性に楽しそうに笑いかける彼を見ると、心がモヤモヤした。


「はぁ……行動して来なかった私も悪いけどさ……勝てるきがしないなぁ……」


 エレーナがもしもライバルになったら、そう考えるだけで、私はため息が出た。

 絶対に勝てない。

 同じ女としてそう思ったからだ。


「あぁ! もう!」


 行き場の無い不満を枕にぶつける。

 こんな事なら、食事に行ったときに連絡先を交換しておくべきだったと、弥生は後悔した。 そもそも、純君も純君だ。

 ばったり会った男の子を普通は簡単にお茶になんか誘わない。

 すこし位、私の事を気にしてくれても良いと思ったのに……。


「あれから、今日の放課後まで、会話らしい会話も無かったし……」


 私は再びため息を吐き、そのまま睡魔に負けて、夢の中に落ちて行った。

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