第11話

「あ、ここだよ」


 話しながら歩いていると、目的のマンションに到着した。

 到着したマンションは、純の家のマンションよりも立派で大きく、高級感があった。

 本当にこんな立派なマンションに一人で暮らすのだろうか?

 そんな疑問を抱く純だった。


「どうもありがとう。何かお礼を……」


「お礼なんていらないよ、道案内をしただけだし、じゃあ俺はそろそろこの辺で……」


 今度こそ家に帰宅しようとする純。

 しかし、またしてもエレーナが純を呼び止める。


「あ、あの! 重ね重ね申し訳ないんですが……」


「はい?」


「コインランドリーはどこに……」


 純は思った、きっとエレーナはこの辺りの地理が全くわからないのだ。

 しかも恐らくは方向音痴、これは放っておいたら、また自宅に戻れなくなりそうだと、純はエレーナがなんだか心配になった。


「街、案内しましょうか?」


「う、うん! 是非!」


 コインランドリーだけ教えるなんてケチ臭い事は言わず、純はついでだからと、街を案内する事にした。


「じゃあ、バックを置いてくるから、すこし待っててもらっても良い?」


「おう、ここで待ってるから」


 そう言ってエレーナは、駆け足でマンションの中に入っていった。

 きっと一人で他の国にやってきて不安だったのだろう、純が待ちを案内すると言った時のエレーナは本当に嬉しそうな表情をしていた。

 少しして、エレーナがやってきた。


「エレーナ、そう言えばスマホとか持ってないの?」


「そ、それが……ここに来る前に落として壊して……」


「あぁ……じゃあ、案内しながら携帯ショップに行くか? スマホ無いと不便だろ?」


「お願いします。これじゃあ連絡も出来ないので……」


 純は画面がバキバキに割れた、エレーナのスマホを見て携帯ショップに行くことを提案する。

 スマホさえあれば、地図アプリもあるし、近くに何があるかもわかる。

 純はエレーナを連れて歩き出した。

 

「あの、ごめんね……見ず知らずの私にこんな……」


「気にしないでいいよ、それに知らない土地で不安な気持ちはわかるよ。俺も小学生の時は転校ばっかりだったから……」


 純の両親は、転勤や移動が多く、転校を繰り返していた。

 中学では落ち着いたのだが、高校の入学が決まった時、またしても両親が転勤になり、色々と相談した末、純が一人だけ今のアパートに残る事になった。

 エレーナがそんな昔の自分と似ていたので、純は色々と面倒をみたくなってしまったのだ。

「知らない土地になる度に、不安でさ……エレーナは凄いよな、一人で国を出て来て……」


「そ、そんな事ないよ、誰でも出来るよ」


 話しをしつつ、純は街を案内した。

 一番近いコンビニに始まり、スーパーや家電量販店、美容室や飲食店など、様々な店の場所を案内した。

 街を歩くと、エレーナは凄く目立った。

 それもそのはず、外人と言うだけでも目立つのに、エレーナは美少女だ。

 目立たない訳が無い。


「と、まぁこれくらいにして、スマホ直しに行くか」


「ありがとう、おかげで大分ここら辺の事がわかってきたよ」


 純はエレーナに、一通り街の中を案内し終え、今度は携帯ショップに向かうために歩き始める。

 そんな時、純はふと、何かを忘れているような気がしてならなかった。


(何かを忘れているような……何だっけ? 確か……)


「純君? どうかしました?」


 ぼーっと考え込んでいた純を見て、エレーナが不思議に思い尋ねる。

 

「あぁ、ごめんごめん、早く行こうか」


 忘れるって事は、それほど重要な事でもないのだろうと、純は考えるのをやめて、エレーナと共に携帯ショップに向かう為、街中を歩き始めた。

 そんな時だった、純は思いも掛けない人物と、ばったり会ってしまった。


「あれ? 純君?」


 純達が歩く向かい側から、私服姿の弥生が歩いてくる。


「ひ、姫島さん! なんでこんなとこに……」


「ちょっと買い物でね、純君は……もしかしてデート?」


「ち、違うって! この子は……」

 

 ニヤニヤしながら、純に尋ねる弥生。

 この前いい感じで話しが出来た後だと言うのに、ここで変に誤解されてはまずいと、純はエレーナを弥生に紹介する。


「へぇ~、じゃあ今日引っ越してきたんだ!」


「そうなの、道に迷っていたところを彼に助けてもらって……」


 どうにか誤解が解けて安心する純。

 しかし、純の苦難はこれだけでは無かった。


「弥生と純は付き合っているの?」


(何を聞いてくれちゃってんのぉぉぉぉぉぉ!!)


 突然のエレーナの発言に、純は声にならない叫びを上げる。

 なんで一番触れて欲しくない、デリケートな部分をピンポイントで狙ったかのように聞いてくるのか純は凄く不思議だった。

 女子は恋バナが好きだと言うが、それにしても出会って数分で、そんな話題を出さなくても、と純はエレーナに言いたかった。


「違うよ、友達だよ。実を言うと話しをするようになったのも最近なんだぁ~」


「そうなんだ、私はてっきり……」


 一体てっきりなんだと思ったんだ?

 純はそう思い、エレーナに聞きたかったが、口を閉じた。


「あ、ごめんね、私行かなくちゃ! じゃあ、純君また明日~」


「あ、あぁ……」


 弥生はそう言い、その場を離れて街の中に消えて行った。

 たったの数分だったのに、なぜだかどっと疲れてしまった純。

 とりあえず、誤解も解けたから結果オーライかと考え、再びエレーナと共に歩き出す。


「可愛い子だったわね、もしかして純君、狙ってる?」


「は、はぁ? そ、そんな訳ないだろ……」


「思いっきり動揺してるわね……」


 なんでこんなにもエレーナは感が良いのだろうか?

 そんな事を考えながら、エレーナを見る純。

 エレーナは純を見ながら、キラキラした表情で話し始める。


「え、嘘? ほんとに!?」


「なんでそんな嬉しそうなんだ……」


「私、恋バナって好きなのよ! ねぇ、いつから? どんなとこが好きなの?」


 先ほどまでとは違い、次々に質問を投げかけてくるエレーナ。

 その後、携帯ショップに着くまで、エレーナの質問攻めは続いた。

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