第10話
サイボーグ人間を見てから数日、純はいつものように学校に通い、いつも通り授業を受けていた。
一体何者だったのだろうか?
そんな事を考えている間に時間は過ぎて行った。
ここ数日はIDの出現は無く、平和な時間が過ぎていた。
「一体あいつは……」
「ねぇ、この前からその話ばっかりじゃないかい? 助けてくれたんだから、味方ってことで良いじゃん」
「本当に味方って言う確証が無いだろ?」
純は屋上で風に当たりながら、神様…もとい、エレスとこの前の戦闘の際に見た、サイボーグ人間の話しをしていた。
「お前さ、一応神なんだから、あいつが誰なのかとわからないの?」
「あのね、僕たち天界の住人が、下界の人間全員の事を把握してると思ったら大間違いだよ? 下界に何億人の人が居ると思ってるんだよ……」
「つかえねー」
「コラ、今神である僕に向かって、使えないって言ったのかい?」
「実際つかえねーじゃん、いっつも空中に浮いてるだけで戦闘は全部俺任せだし」
欠伸をしながらエレスに言う純。
そんな純にエレスは胸を張って言う。
「僕は神だよ? 本気になれば、人間一人の運命すらも変えられてしまう神だよ? そんな僕に向かって使えないなんて言って良いのかなぁ~」
「なんだよ、俺の運命でも変えようっていうのか? 知ってるぜ、お前ら神様は下界に極力干渉出来ないんだろ? そんな脅しに、俺がびびるかよ!」
どや顔で言うエレスに、純もどや顔で答える。
エレスは、自信たっぷりに発言した純に向かって、ニヤリと笑みを浮かべ、指を鳴らした。
「ん? なんだ? 指なんか鳴らして」
「たった今、僕は君の一時間後の運命を変えたのさ!」
「は? お前確か、人間には干渉できなんじゃ……」
「君は別だよ、だって既にこうして僕と話しをして干渉しまくりじゃないか」
言われて純は考える。
エレスは他の人には見えない。
しかし、純だけは見えるし話しも出来る。
確かに干渉している。
「ちょっ! お前ふざけんな! 戻せ! 俺の運命を元に戻せ!」
「嫌だね、僕がいかに有能かを君に教えてあげようじゃないか、一時間後を楽しみにしておくと良いよ」
「くっ……完全にミスった……」
エレスは言葉を残し、そのまま消えてしまった。
一時間後、一体自分の運命はどのように変化してしまうのだろう。
一体何が起きるのか、純は不安で仕方なかった。
今は放課後、あとは帰宅するだけなので、一時間後はおそらく家に居るだろうと考える純。
「とりあえず帰るか……流石のあいつも、そこまで大した事しないだろ……」
純はそう考え、屋上を後にし荷物を持って学校を後にした。
いつも通りの帰り道、別に特別変わった事は無い。
もしかしたら、既に一時間後の出来事に対する布石が何かしら起こるのでは無いかと考えていた純だったが、いたっていつも通りだった。
「あいつの事だし……そこまで心配する事も無いか……」
どうせ駄神の事だからと、純はあまり深く考えず、いつもの通り自宅に急ぐ。
そんな時だった、考え事をしていた為、周囲に注意を向けておらず、誰かとぶつかってしまった。
「あ、すいません! 大丈夫ですか?」
ぶつかったのは、金髪の女性だった。
女性はぶつかった衝撃で転んでしまい、その場に倒れた。
純は女性に手を貸そうと、手を差し伸べる。
「いえ、こちらも余所見をしていました」
純の手を握り立ち上がる女性。
純は女性の顔を見たとたん、顔が熱くなるのを感じた。
色白で大きなブルーの瞳、そして人気際目を引く綺麗な金髪。
一言で言ってかなりの美少女だった。
長い金髪を後ろでハーフアップにしていた。
「怪我はありませんか?」
「はい、大丈夫です。貴方の方もお怪我はありませんか?」
「俺は全然大丈夫です。荷物も大丈夫ですか?」
金髪の女性は、おおきなボストンバックを持っていた。
転んだ衝撃で中の物が壊れていないかと、純は心配だった。
「大丈夫ですよ、転んで壊れるようなものは入っていませんから」
「そうですか、それは良かった…本当にすいませんでした……」
そう言って純がその場を去ろうとした時、後ろから呼び止められた。
「あ、すいません、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「はい?」
純は女性の元に戻り、話しを聞く。
「私、今日この辺りに引っ越してきたんですが、マンションの場所がわからなくて……」
「あぁ、そうなんですか。地図か何かってありますか?」
「はい、これなんですが…」
ぶつかってしまったし、なんとか力になってあげたいと考える純。
地図の場所は偶然にも、純のマンションの近くのマンションだった。
「あぁ、ここならうちの近くなので、一緒に行きましょう」
「本当ですか! よかったぁ…このまま野宿になるところでした」
そこまで複雑な道では無いのに、なんでこの人は迷ったのだろう?
もしかしてこの人は方向音痴か何かなのだろうか?
そんな事を考えながら、純は道案内を始める。
「そう言えば、自己紹介がまだでしたね、私はエレーナ・ヴァーニアス・シュリアスと申します、長いのでエレーナと呼んでください」
「わかりました、エレーナさん。俺は飯嶋純って言います、純って呼んでください。エレーナさん日本語お上手ですね」
「昔日本に住んでいた事があって、でももう10年も前の話なんですけどね」
「そうなんですか、えっと……今回はどちらから?」
「ロシアです」
「そ、それはまた遠いところから……」
外人さんと日本語で話しをしている事に違和感を覚えながらも、純とエレーナの会話は弾んだ。
どうやらエレーナは、純と同い年で来学期から日本の学校に転入するらしく、その為に転校してきたのだという。
「転校ですか、なんでまた、ロシアから日本へ?」
「昔住んでいたこの土地が懐かしくて……それに日本の文化なんかも学びたくて、留学して来たんです」
「へ~、凄いですね、海を渡って他の国に留学するなんて……俺は怖くてそんな事出来ませんよ」
「ただの好奇心ですよ。それと同い年で敬語はやめませんか?」
「それもそうですね。じゃあ、エレーナは一人暮らしなの?」
「そうだよ、色々と日用品を買ったりもしたいから、街のどこにどの店があるか見て回ってたんだけど、気がついたら場所がわからなくなってて……」
恥ずかしそうに顔をそらしながら言う彼女を見て、純は思った。
(かわいいなぁ……って、いかんいかん! 俺には姫島さんが!)
エレーナの整った顔を立ちを見ながら、純は思わずそんな事を考える。
この容姿なら、どこの学校でもさぞモテるのだろうなと考えながら、純はエレーナの隣を歩く。
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