第9話
「フン!」
純は高くジャンプし、上空のIDに攻撃を仕掛けるが、空中での攻撃は踏ん張りも効かず、思うように攻撃が出来ない。
しかも、飛んでいるIDと違って、純は高くジャンプできるだけであり、重力の影響ですぐに地面に落下する。
「くそ! 上手く攻撃を与えられない!」
「あのさ、今思ったんだけどさぁ~」
「なんだよ! こんな時に!」
「今は良いけど、敵が更に上空に飛翔し始めたら、いくら君のジャンプでも届かないんじゃない?」
「そう思うならなんとかしてくれよ! お前の神パワーとやらで!」
純はIDの攻撃をよけつつ、神様に向かって言い放つ。
IDは口から紫色の液体や、糸を出して誠実を攻撃してくる為、上を取られている純は、よけるのも一苦労だった。
「あ! じゃあ、ここで貯まってた神コインでも使ってみる?」
「神コイン?! てか! このコインって! そんな! 名前なのかよ!」
「あぁ、神様になんでも一つ願いを聞いてもらえるコイン、それを使えばパワーアップだって可能だよ」
「じゃあ! とりあえず! 空を! 飛べるようにしてくれ!」
「オッケー、じゃあ君の願い、神である僕、エレスが叶えてあげよう」
「エレス? お前の名前、エレスって言うのか?」
「細かい事は良いからさ~、ちょっとジッとしててね~」
「この状況で! そんなん出来るか!」
IDは雨を降らせるかの如く、液体と糸をを純に向かってばらまく。
それをギリギリのところで回避している純には、そんな暇など一切無かった。
「ジッとしてくれなきゃ、君の力を高められないよ……あぁ! もう! めんどくせ……」
「おい! お前今面倒くさいって言ったよな! こっちは命掛かってんだぞ!」
「うるさいなぁ~、さっきまで彼女に夢中だった癖に……」
「お前が休んで良いって言ったからだろうが! それでも来てやったんだから感謝しろい! この堕神(だしん)が!」
「堕神!? 堕落した神って事?! 僕のどこが堕落してるって言うんだよ!」
「全部だ馬鹿! 良いからさっさと……え?」
言い争っている間に、IDは大きな口を開け、純と神様に近づいて来ていた。
「「ぎゃぁぁぁ!!」」
神様と純が抱き合うようにして死を覚悟していると、一筋の青い線香がIDの体を打ち抜いた。
「え? なに? 何?」
「生きてはいるっぽいな……てか、お前は神なんだから、叫ぶ必要無いだろ? どうせ実体じゃないんだし」
「わかっていてもあれは怖いよ……」
「それに関しては同感だが……しかし、一体誰が……」
住民は避難しているはずだし、周りには警察や自衛隊がいないことは確認済みだった。 それでは、あの攻撃は誰が行ったのか、そのことが純は気になった。
IDは一時的に動けなくなっていたが、再び大きな羽を広げて空に飛び立った。
「あいつまた飛ぶ気か!」
IDを目で追っていると、ビルの屋上に見知らぬ人影が見えた。
「誰だ?」
「誰かいるね~、警察でも自衛隊でもなさそうだけど……」
人だと言うことはわかったが、身なりが異質だった。
体のあちこちが機械のようで、右手には大型のライフルを持っている。
しかも背中にはウイングのような物がついており、見ただけで普通の人間ではない事が良くわかった。
「なんだあいつ?」
「なんか、ロボットみたいだよね~?」
神様と純が話しをしながら様子を見ていると、ビルの屋上にいるそのサイボーグのような人間はライフルをIDに向け攻撃を開始した。
青い線香がIDの羽を貫き、IDを地上に落とす。
「あいつが……」
「威力も高いねぇ~」
自分たちを救ったのが、あのサイボーグ人間だとわかると、純は目が離せなくなった。
装展した自分と同等かそれ以上の力を持っている人間。
それだけでも興味があった。
「いまのうちに決めちゃってよ、今なら君のパンチで片が付くでしょ?」
「あ、あぁ……はぁ!」
純はいつものように、高速でIDの元に近づき、力一杯IDを殴り消滅させる。
(あいつ……なんでとどめを刺さなかったんだ……)
あのライフルで、追撃を掛ければ、このIDを倒していたのは、自分では無くあのサイボーグだっただろうと考えながら、純はもう一度ビルの上を見る。
「居ない……」
一体何者だったのだろうか?
そんな事を考えてぼーっとしていると、神様がやってきて純に一言。
「どうでも良いけど、囲まれてるよ?」
「え?」
気がつくと、辺り警察と自衛隊員でいっぱいになっており、純は囲まれてしまった。
「君は完全に包囲されている、大人しく、我々の言うとおりにすれば、君に危害は加えない。我々と共に来てもらおう」
「えぇ……早すぎでしょ……こんなに隠れてたなら、ID倒すの手伝えよ……」
おそらくこの中で一番偉いのであろうおじさんが、装展した純に向かってメガホンで呼びかける。
捕まれば、正直何をされるかわからない上に、最悪破壊した建物の損害賠償の請求が
来るかもしれない。
そんな恐ろしい事ばかり考えてしまう純が取った行動はただ一つだった。
「逃げろ!」
「あ! こら! 待ちなさい!!」
純は空高くジャンプし、ビルの上を逃げて行った。
神様は他の人間には見えていないので、空中に横になり欠伸をしながら純について行く。
「結構危なかったね~」
「やかましい! お前がさっさとパワーアップさせねーから!」
「まぁまぁ、勝てたんだし良いじゃん? あのサイボーグ君は何者だったんだろうねぇ~?」
「……あぁ、確かにそうだな……」
あのサイボーグに助けられなければ、自分は死んで居たかもしれない。
一体あいつは何者なのだろう。
そんな事を考えながら、純は弥生と一緒に居た、店の近くに戻り、装展を解除し弥生を探した。
避難警報も解除されたようで、シェルターから続々と人が出てきていた。
「あ、純君!」
シェルターの近くで待っていると、弥生が心配そうな表情で純の元にやってきた。
「どこに行ってたの? いくら待ってもシェルターに来ないから、心配したよ!」
「あ、いやぁ~、実は別のシェルターに避難してたんだ、トイレがそこからの方が近くて……」
弥生の無事も確認し、純は一安心する。
「そうなの? なら良いけど……」
純は笑いながら弥生をごまかし、早く帰宅した方が良いと提案し、駅で弥生と分かれた。
分かれた後、純が考えたのは、弥生と今日一日の楽しい思い出では無く、あのサイボーグの事ばかりだった。
「味方……なのか?」
純は赤く染まった夕焼けを背に、一人空を見上げて考える。
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