第7話

 純と弥生は二人揃って近くのおしゃれなカフェに来ていた。

 なんでも弥生のお気に入りのお店らしく、常連になりつつある店らしい。

 店に入り、純はアイスコーヒーを注文し、弥生はアイスカフェオレを注文した。


「それにしても、今日は少し熱いよね~」


 二月も下旬にさしかかり、日差しが強く気温が高くなる日が続く今日この頃。

 既に服装は冬服から春服に替わり始め、飲み物もホットよりもアイスの方が美味しい季節になり始めていた。


「実は私さ……純君と話ししてみたかったんだよね……」


「え? 俺と?」


 弥生からのうれしい発言に、純はにやけそうになる顔を必死でこらえていた。


「うん、だって中学校も一緒だったのに私たちって一回も話ししたことないでしょ? だから、この前うちのクラスに純君が来たとき、思い切って話し掛けてみようと思って、声かけたんだ~」


「そ、そうだったんだ……いや、俺らってほらクラスも別だし、あんまり接点ないから……」


「そうだよね~、中学時代も一切関わりなかったからね~」


「あはは、そうだねぇ……」


(それはつまり、中学時代も俺の存在には興味がなかったって事ですか……)


 話しをしながら若干傷つきながらも、純と弥生の会話は続いた。

 主に中学時代の教師の噂話だったりとか、学校の行事なんかについての話しだったのだが、純は話題に困らなくて良かったと、心から安心していた。

 

「……あの先生がまさか結婚するなんて思わなかったよ」


「だよね! だってあの頭だよ?! しかも10歳も歳の離れた人だって! 世の中何があるかわからないね~」


「だな……ん、もう一時間か……時間大丈夫か?」


「私は別に大丈夫だよ? そう言えばおなか空いたね、お昼もついでに一緒に食べる? ここのパスタおいしいんだよ!」


(あ……幸せってこういう事を言うんだろうなぁ……)


 メニューを純に見せながら、笑顔でパスタをすすめてくる。

 純はそんな弥生を見ながら顔を赤く染め、勢いよく立ち上がる。


「ちょ、ちょっとトイレに行ってくる!!」


「あ、了解。じゃあ先にメニュー決めとくね~」


 ひらひらと手を振り、トイレに立つ純を見送る弥生。

 純はと言うと、トイレの個室で一人ニヤニヤと顔を歪めていた。


(楽しい! なんだこれ、めっちゃ楽しいぞ!! 良いのか今日の俺! めっちゃついてる

じゃん!!)


 トイレの個室でガッツポーズを繰り返しながら、純はニヤニヤと顔を歪める。


「え~なにその顔きもーい」


「どわっ! だからいきなり出て来んな!」


 ニヤニヤと顔を歪める純の目の前に、神様がすました顔で突然姿を現した。

 純は思わず、体を仰け反らせ、半歩ほど後ろに下がる。


「なんだよ急に……まさかと思うが……」


 神様の出現、それが何を意味するのか、純はなんとなくわかっていた。

 そしてこの楽しい時間も終わりなんだと言う事実に気がつく。


「うん、IDが出たよ」


「マジかよ……折角良い感じだったのに……」


 純は肩をがっくりと落として表情を曇らせる。

 神様が現れた時点で大体察しは付いていた純だが、それでも改めて現実を突きつけられとショックは大きかった。


「あ、今回は君行かなくても良いよ?」


「え? なぜに?」


 思いがけない神様の一言に純は思わず聞き返した。

 神様は空中に横になった状態で、純に説明を始める。


「なんか、今回のIDは自衛隊と警察でなんとかなりそうなんだよ、だから君は出ても出なくてもどっちでも大丈夫だよ」


「本当かよ? そんなに弱いのか?」


「うん、多分今まで最弱、万が一さえなければ、君の出る幕はないよ。それに僕言ったろ?」


「なんてだよ?」


「片手間で良いって君に最初に言ったろ? いざとなったら、僕の神パワーでなんとかするから」


「ん? お前は人間に干渉出来ないんじゃないのか?」


「基本はね、でも深くさえ干渉しなければ、少しは干渉できるんだよ。ま、今日の相手に限ってはそれも要らないだろうけど、じゃあ僕は行くから、君は彼女とよろしくやっててよ。あ、あとしばらく念話出来ないと思うから、じゃーねー」


 そう言って神様は姿を消した。

 一人になったトイレの個室で、純は神様の言葉を整理する。


「要するに……今日は出番なしか………よっしゃぁぁぁぁぁ!!」


 本当に今日はついている、そう感じながら、純はトイレを出て弥生のいる席に戻る。


「ごめんお待たせ」


「大丈夫だよ、それより何にする?」


「じゃあ、俺は……」


 メニューを選び再び注文を済ませ、純と弥生は再び会話を再会する。


「あ! そう言えばさっき、スマホに警報来てたけど見た?」


「警報? あぁ、IDの出現を知らせるやつの事?」


 弥生の言う警報とは、自分のいる地域にIDが出現すると、スマホの緊急ID災害速報が鳴り、近くにいる人間に避難を呼びかけるシステムの事だ。


「結構近いみたいだよ? あ、ネットのニュースにライブ配信で中継されてるよ!」


 そう言って弥生は自分のスマホを横にし、純にライブ配信の様子を見せる。

 そこには土煙が立ちこめる中で、ヘルメットを被った男性のリポーターが現地の様子を説明していた。


『こ、こちら現場です! ただいま自衛隊と警察の特殊部隊がIDを取り囲み交戦しております!! 確認されたIDは芋虫のような姿をしており、糸のようなものを吐き出しながら建物を破壊して下りましたが、今は自衛隊と警察の特殊部隊の攻撃により、動きを止めています。また……』


 確かに自分が行かなくても大丈夫そうだと、純は配信を見ながらそう思った。

 動画をみる限り、警察の特殊部隊と自衛隊の攻撃により、芋虫のようなIDは完全に動きを止めている。

 あと少しで息の根も止まりそうな勢いなので、今回は本当についていると実感した。


「今日は現れないのかな?」


「え……誰が?」


 純は弥生の言葉に、ドキッとしつつ尋ねる。


「赤い破壊者さん……でも、今回はあの人の出番なさそうだね」


 やっぱりかと純は思った。

 もしやと思い、純は弥生に気になっている事を尋ねてみる事にした。


「姫島さんってさ……」


「ん?」


 純が弥生に質問をしようとしたそのとき、弥生のスマホから大きな音が聞こえてきた。


『あぁ! み、見てください!! IDが体から未知の液体を出し地面に潜りました!! ん? あ! 更に自ら出した糸のような物で体を覆い、繭の用な形に変化しています!!』


 リポーターの声に、純と弥生は思わず視線をスマホに戻す。

 一体何が起きているのか、画面越しではわかりずらかった。


「え、どうしたんだろ?」


「わからないけど、さっきと違って攻撃が効いてる感じがしない……一体何が……」

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