ヒーローは年中無休
第6話
休日の朝、純はマンションの自室でごろごろしていた。
「休みの日は家に引きこもってられるから、楽だわなぁ~」
ベッドに寝転びながら、スマホで動画を見ながら、純は休日の有り難みを感じていた。
神様も今日はまだ現れておらず、純にとっては至福のひとときだった。
「さて、動画見るのも飽きたし、テレビでも見るか……」
純はベッドから起き上がり、自室のテレビを付ける。
何か面白い番組は無いかと、適当にチャンネルを回していると、丁度ワイドショーでIDについての話題が持ち上がっていた。
純は少し気になり、ワイドショーを見始め。
『…しかしですな、なんとかならないんですかね、あの怪物は』
『自衛隊や警察もでは対応しきれなくなって居ますからね……ここはやはり軍備の増強などが必要ではないんでしょうかね……』
偉そうなおじさん達が、IDの被害を防ぐにはどうしたら良いのかを話し合っていた。
『噂の人物となんとかコンタクトが取れないものなんですかねぇ~』
『ネットでも毎日のように論議されている、赤い破壊者の事ですか?』
『えぇ、地面を割ったり、建物を破壊したり、被害を拡大させているのでは無いかと言う意見もありますが、結果としてIDを撃退している訳ですし……』
純は赤い破壊者の話題が出てきた瞬間、深いため息をついた。
まさかテレビに出るまでになっているとは思っても見なかったうえに、今は話しをしている話題のタイトルも「赤き破壊者は敵か味方か?」と言った内容のものだった。
『結果としてはそうかもしれませんが、あの人物がこれまで破壊した建造物や道路の修繕の費用を考えた事がありますか? あれはいくら何でもやり過ぎです!』
(破壊って……ほとんどIDが壊してんだよ……)
『それに、我が自衛隊の隊員が攻撃を受けたとの報告もあります! やはりあの人物はただの破壊者! 決して英雄では無いのです!』
(それはお前らが攻撃してくるからだろ……)
これ以上見ているのも不愉快なので、純はテレビを消して再びベッドに寝転んだ。
「はぁ~、早くこんなこと終わんないかなぁ~」
破壊者と言われても気分が悪いし、かといって英雄扱いされるのも鬱陶しい、それが純の本音だった。
普通に生きて行ければそれで良いと思っている純に取って、この力は邪魔だった。
しかし、本当の意味でこれからも生きる為には、あの神の言うとおりにIDを倒してまわらなければならない。
「くそっ! あいつ本当に神様かよ……」
「呼んだ~?」
「うぉ!!」
突然目の前に神様が現れ、純は驚いてベッドから転がり落ちる。
「何やってんの?」
「お前のせいだよ! 突然現れんな!」
「なんだよ~、テレビ出演のお祝いに来たのに~」
「いらない、帰れ!」
「なんだよぉ~、どうせ暇だろ?」
「余計なお世話だ!」
折角の至福のひとときが、最悪な形で終わりを告げてしまい、純は深くため息をつく。
「あれ? 出かけるの?」
「気分転換だ、ついて来んなよ」
純は着替えて外に出かけようと準備をする。
行き先は決まっては居ないが、寝てばかり居るのももったいないので、純はブラブラ駅前に向かいはじめた。
「本屋にでも行くか……」
特別行きたいところも無いので、純は本屋で立ち読みでもしようと歩みを進めた。
駅前は休日と言うこともあり、多くの人で賑わっていた。
「人多いなぁ……」
家族連れやカップル、子供から大人まで幅広い年代の人達が駅前を歩いていた。
つい数日前に近くでIDの被害があったと言うのに、数日経てばいつもの平和な日常が戻る。 そんな人達を見ていると、IDを撃退してよかったと思う純。
面倒だし、怪我もするし、色々と後処理が面倒だが、こういう平和な光景を見ると、嫌な事でもやってよかったと思えてくる。
「やっぱり平和が一番だな……」
そんな事を呟きながら、純は本屋に到着し店内で本を探し始める。
「漫画は……」
お目当ての漫画の新刊が出て居ないかと探している途中、文庫本のコーナーで純は思いがけない人物の姿を目にした。
「ひ、姫島さん……」
咄嗟に本棚の隠れてしまう純。
真剣な顔で本を選んでいるのは、純の思い人であり、先日少し良い感じで話しが出来た弥生だった。
「こ、これはチャンスなのではないか?!」
休日に弥生に会えた上に、彼女は現在一人、しかもこの前話しをする事が出来た為、話しかけても全く不自然では無い。
今日の自分はついていると思いながら、純はなんと言って弥生に声を掛けるか考えていると__。
「あれ? えっと……確か……純君だったよね?」
「ひ、姫島さん!!」
考えている間に、弥生の方が純に気がつき純に声を掛けてきた。
突然声を掛けられ、純は驚き数歩後ろに下がってしまった。
「偶然だね、何してるの?」
「あ、いや……俺は暇だから立ち読みに……姫島さんは?」
「私は今日発売の本を買いにね、今日は竜也君は一緒じゃないの?」
「いっつも一緒って訳じゃないよ、多分あいつは今バイトだろうし」
「へぇ~、竜也君ってアルバイトしてるんだぁ~」
休日のお昼前、純は本日に二度目の至福のひとときを過ごし始めた。
弥生の服装は、キュロットスカートに白いカーディガンと落ち着いた感じの服装で、純は制服以外の弥生の服装にドキドキしていた。
薄らと化粧もしているようで、学校で見る以上に可愛かった。
「良かったら少し話しでもしない?」
「え! い、良いけどなぜ?」
「なんでって言われても…う~ん……暇だし!」
「あ、そうですね……」
若干期待を込めて質問した純だったが、よくよく考えて見ればそうだよなと気がつく。
しかし、これは仲良くなるチャンスだった。
普通だったら、これでさようならだったが、思いがけないチャンスに巡り会った。
「じゃあ、近くにファミレスあるし、会計終わったら一緒に行こう」
そう言って弥生はレジに向かって行った。
純は本屋の外で待つことにし、本屋を出て店先でガッツポーズをした。
「よし!!」
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