第5話
結局授業には遅れてしまい、先生に怒られてしまった。
「あぁ~疲れたぁ~」
「お前一体どこに行ってたんだよ?」
「ちょっとモグラが居てな」
「は? 何を言ってんだよ…それよりさっさと帰ろうぜ、お前の家に行く約束忘れて無いよな?」
「へいへい、じゃあぼちぼち行くか……」
竜也に言われ、純は帰りの身支度を整え始める。
「そういえば、姫島居たぞ」
「どこに!!」
「随分反応が替わるもんだな……」
純は弥生の名前を聞いた瞬間、飛びつくような勢いで竜也に尋ねた。
竜也は体を反らせながら、純の質問に答える。
「普通に教室に居たよ、何なら見ていくか?」
「いや、無事ならそれで良い! ただこっそり怪我が無いか気がつかれないように確認に行こう」
「そこまでするなら声掛けろよ……」
呆れた感じで肩を落としながら話す竜也。
ウキウキした様子の純と面倒くさそうな表情の竜也は、そろって弥生の居るクラス一年三組に向かう。
「居るじゃねーか」
「あぁ、そうだな……怪我が無くて良かった……良し! 帰ろう」
「待てコラ」
「うっ…襟を掴むな、苦しい」
帰ろうとする純の襟を掴み、竜也は純を引き留める。
「なんだよ…俺の家来るんだろ?」
「あぁ、お前の家には行く、だがその前にいい加減姫島に話し掛けてこい、丁度一人だ」
「お、お前は俺に死ねと言うのか!!」
「どう解釈したらそうなんだよ……昨日話し掛けようとした続きだ、一応俺はお前の恋を応援してるんだよ」
「だ、だけど…一体なんて声を掛ければ……」
「そんなの、昨日大丈夫だった? とかで良いんだよ。良いから行けって」
「押すな馬鹿! 心の準備ってもんが!!」
教室の入り口で純と竜也がじゃれ合って居ると一人の女子生徒が近づいてきた。
その女子生徒に純と竜也は驚いた。
「ねぇ、内のクラスに何か用?」
「「え……」」
そこに居たのはスクールバックを持って、今まさに帰ろうとしている弥生の姿だった。
「あ、いや……そう言う訳じゃ…」
純は顔を赤くし、アタフタしてしまう。
そんな純とは正反対に、弥生は落ち着いた様子で柔らかい笑顔を浮かべながら純と竜也に話す。
「そう言えば、昨日ゲームセンターに居たよね? 大丈夫だった?」
「え!? あ、あぁ…そっちこそ大丈夫だったの?」
「うん。でも……少し怖い思いしちゃって……」
悲しそうな表情の弥生に、純は胸が痛くなった。
あそこで敵のIDを吹き飛ばしてしまった為に、弥生が人質になってしまい、怖い思いをさせてしまった。
それは自分が考え無しに戦ってしまったからだと、純は自分を責めた。
「そっか……災難だったね……」
「あ、でも噂のあの人が助けてくれたんです!」
「え、あの噂の赤い破壊者?」
「はい! あそこに居たんですよ!」
「マジか!! 俺も見たかった!!」
赤い破壊者、それはIDと戦い街を壊すヒーローなのか敵なのか定かではない、謎の人物。
ここ最近、ネットからその噂が広まり、英雄扱いする人も居る反面、被害を拡大させるだけの迷惑な奴と言う意見もある、謎の人物だ。
竜也と弥生が赤い破壊者の話題で盛り上がっている反面、純は顔を引きつらせながらこう思っていた。
(それ…俺なんですよね……)
赤い破壊者とは、装展した純の事だった。
この噂の事を純はあまり良く思って居ない。
悪く言う人が居るからと言う理由だけで無く、人の苦労を知らないで勝手に盛り上がられるのが純は凄く嫌だった。
まさか噂がどんどん大きくなって行くとは思わず、純はため息を吐く。
「私、助けてもらったんです! 人質にされた私を助けて、そのままIDを倒してくれたんです!」
「え? 姫島って英雄派? 俺はあいつは絶対ただの破壊者だと思うんだけど? だってあいつが歩いた後は何も残らないって言われてるし」
「そんな事無いですよ! 私の事も助けてくれました!」
英雄派、破壊者派とは、赤い破壊者をどう見るかの派閥だ。
英雄派は赤い破壊者をヒーローとして見ている人たちで、破壊者派はただ被害を拡大させるだけの迷惑者と考える人たちの事を言う。
(よかった、姫島さんは英雄派で……竜也は後でぶん殴ろう)
話しを聞きながら、純はそんな事を思いながら早くこの話題が終わらないかと待った。
「そう言えば、純はどっち派なんだ?」
「え? 俺は……」
「英雄派だよね?」
目をキラキラさせながら同意を求めてくる。
そんな弥生に純は思わず答える。
「そ、そうだね……」
「だよね!」
皮肉にも、自分が嫌々でやっている事で弥生とこんなに話しが出来る事に、純は複雑な気持ちだった。
「あ、そう言えば二人ともうちのクラスに用事だったんじゃ?」
「あぁ、それは大丈夫、用事は済んだ」
「? なら良いけど、じゃ私帰るから。あ、二人とも名前は?」
「あぁ、俺は竜也でこっちが純。以後よろしくな」
「うん! じゃ、私急ぐからまたね!」
そう言って弥生は去って行った。
残った純と竜也はそんな彼女を見送る。
竜也はどや顔で純を見て「俺のおかげだぜ」と言いたげな様子だったが、純はあえてそれを無視して、帰り始める。
「おいおい、誰のおかげで話せたと思ってんだよ? てか、中学も同じだった癖に、名前も顔も覚えられて無かったっぽいな」
「感謝はするが、それ以上言うな、傷つく」
「まぁ、そこは今から進展させて行けば良いか、早速帰ってミーティングしようぜ~」
「俺の家でゲームするだけだろ……」
弥生と会話出来た事に、まだ興奮している事を必死に隠しながら純は竜也と共に自宅に向かって歩みを進める。
(あーあ、早く終わらねーかな……こんな生活)
普通の学生生活、普通の恋愛を望みながら、純は竜也と共に帰り道を歩く。
途中で通った、戦闘の後の街の様子を見ながら、純はもう少し被害を押さえられる方法はないのかと考えていた。
(もう……姫島さんにあんな思いさせたく無いしな……)
「おいおい、何ぼーっとしてるんだよ? らしくねーぞ?」
「あぁ……ちょっとな」
「おいおい、好きな子と話せて興奮するのはわかるが、妄想は帰ってベッドの上で一人でしろよ~」
「うっせ! しねーよそんな事!」
じゃれ合いながら、純と竜也は帰り道を歩いて行った。
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