「じゃんぎょーしたら、おにわにしょとだよ!」



「やべぇぇっっ! やらかした!」

 本日、節分の日。すっかり忘れていた。


 ――パパ、今日は豆まきだよ! 残業じゃんぎょーしたら、お庭にしょとだよ!


 うん、鬼は外ね。

 脳裏にそんな言葉が過る。緊急のクレーム対応で時間は22時。2歳の栞はきっと寝落ちしている。


 かちゃん。

 ドアを開けようとして、チェーンロックが俺を阻む。その奥から、奥さんの冷ややかな視線。

 とチェーンロックが外された。その瞬間、引き寄せられ、唇で唇を塞がれる。

「んっ――」

「バカ。遅くなる時はあれほど連絡をしろって言ったでしょ?」

 そう言われたら言葉もない。ようやく唇が離れ――。

 と、トテトテ。可愛い足音が響いた。






「お庭にしょとっ!!」

 豆――じゃなくて、恵方巻が放り込まれた。

 



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第14回毎月300字小説企画参加作品

テーマ「忘」でした。

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