救世の勇者

 救世の勇者。今や叛逆者と為政者達から烙印を押されていた。

 ちゃぷん。釣り糸が揺れる。竿を引き上げるのと、黒衣に身を包んだ人が接近したのは同時だった。


 スローライフすら、許してくれないのか。

 と剣を振る。ずれたフードから覗く青い瞳。


「皇女殿下?」

「やっと会えた……」


 その表情が、涙で歪む。

 と、本命の黒衣集団が足音なく俺達を囲み、殿下にまで殺意を送る。つまり、そういうことか。


「殿下に笑って欲しかっただけ」


 冷血皇女と言われた殿下に、俺が何度救われたことか。世界を救ったのは、そのついでだ。


 殿下を蔑ろにするなら、そんな世界はいらない。

 だから――迷いなく俺は剣を疾らせた。 




________________


(300字)

第81回 Twitter300字SS

テーマ「救う」でした。

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