居眠りしてたらラクガオされるのって鉄板ですよね?


 給食を食べたら、眠くなる。食べてすぐ眠くなるって保育園児かって思うけれど、これは仕方がないんだ。翼と最近、夜中までオンラインゲームに没頭していたし。

 それに――翼には悪いけれど、やっぱり女子と二人で、お昼休みに話し込んでいると、周囲の視線が痛い。


「ねぇ空君、空君」


 揺すられても無理。今日は特に眠くて仕方がない。


「むー。空君のバカバカバカバカ」


 あのね、翼。バカって言ったヤツがバカなんだゾ?


「お話してくれないなら、こっちにも考えがあるからね」


 お好きなように。思考が停滞していく。意識があっさりと――水の中に沈み込むように落ちていった。




■■■





「おい、空。起きろって。もう授業が始まるし、さすがにソレは落とした方が良いぞ?」


 悪友に体を揺すられて、何とか起きる。言っている意味がわからない。寝ぼけ眼で髪を掻き上げると、女子が何故かクスクス笑う声が聞こえる。


「へ?」


 見れば、今度は男子が何故か、憤怒と嫉妬の視線を俺に注ぐ。え? 何で俺、男子のヘイトを集めてるの?


「空、ほっぺた。ほっぺた」

「は?」


 どうせ、悪友――彩翔あやとが、俺の顔に落書きでもしたんだろう。いつまでたっても行動がガキなんだって。それぐらいで動じるほど――。


「はい、空君」


 と隣の翼が、俺に手鏡を渡す。


「さんきゅ……」


 と述べた感謝の言葉は瞬時に硬直した。




■■■





 俺の頬に相合い傘が描かれている。


 そら

 つばさ


 そう名前が書かれていた。明らかに、女子の――見覚えのある字で。これ、明らかに翼の字だよね?





■■■





「はぁぁ?!」


 慌てて頬を手の甲でこするが、全然落ちない。


「無理だと思うよ。油性ペンで書いたから」


 ニコニコして翼が言う。


「なに、やってくれんの?!」

「だって。ずっと話しかけているのに、空君、全然起きてくれないんだもん。無視するなんてひどいと思う」


 ぷうぅっと可愛らしく頬を膨らませているが、それどころじゃない。


「こういうのって、第三者がするイタズラじゃん! 当事者が何してくれるの?」

「ちょっとしたイタズラだよ。今時、小学生だって本気にしないって」 


「普通、こういう落書きって、瞼の上に目を描くとか、額に肉とか。頬に猫ひげとかそんなレベルでしょ? ちょっとこれはひど――」

「空君は私と相合い傘はイヤなの?」


 むーっと翼が俺の目を覗き込んでくる。思わず俺は目を逸らしてしまった。今のように無自覚に距離が近いから、頬が熱くなる。友達の関係を崩したくなくて気を遣っているのに、翼はお構いなしなのだ。変な勘違いしたくないから、こっちも必死なのに。ちょっとは男心を察して欲しいと思う。


「ちょっと俺、顔洗ってくるから――」


 いったんこの場から抜け出そうと思った瞬間。

 無情にも、そこで授業を開始を告げるチャイムが鳴り響いたのだった。




 その後のことは……もう何も思い出したくない。

 




________________


連載小説「君がいるから呼吸ができる」

空 × 翼

あんどもあ(笑)


前回更新した「宝物をバカにされたら、ね」で

makanori様からいただいたコメント

「寝ている空君に油性筆ペンでサインをしてあげよう」に反応して思いつきで書いてみたのでした。ヤマなし、オチなし(笑)


読み手様のコメントに、答えてしまいたくなる尾岡でした。

皆さん、本当にありがとうございます(笑)

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