練習


 鏡の前で、練習をする。

 表情筋を意識して。残したい結果はただ一つだけ。上手くいくのか、いかないのか。雑念ばかりが頭の中をよぎっていく。ベストを尽くす。ベストを尽くすしかないのだ。結果はどうだって良い。自分にとっての最善のアクションをするしかない。

 だって後悔はしたくないから。

 後で振り返って、中途半端なアクションをして後悔するぐらいだったら、真っ白になってやり尽くしたほうがよっぽど良くて。

 まして行動できず、縮こまっていたくなくて。

 負けても良い。

 今の自分のベストを本番で――。



「す、す――」

 背筋をのばして。深呼吸をして。言葉を吐き出そうとした私より、彼の言葉のほうが少し早かった。

「好きだよ」

 そんなに大きな声じゃないし。私のようにガサツでもなくて。囁くように。でも一音、一音が心臓に響いて。

 練習が台無しだ。

 カッコよく。ストレートに言いたかったのに。

 私は顔を真っ赤にして、頷くことしかできなくて。

 そんな私に向けて、彼は言葉を重ね、唇を重ねて――。




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書き下ろしー。衝動的に書いてみました。420字。

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