君と夢を見ていた
ぐちゃぐちゃの机の上で
また、か。
半ば呆れながら、徹夜で作業するのは仕方ない。もうコレは諦めた。どうせ姐御は言っても聞かないし、思いついたが吉日で研究に没頭する。僕は、姐御の研究が心置きなく行えるよう金策をして――そして、商品を売り出す。
鳴り止まない目覚まし時計を止めて。
どうせ、こんなモノじゃ姐御は起きない。
彼女の唇に、自分の唇を重ねて。
彼女の甘い吐息。本能的に、彼女の唇が僕を探し求めるが――僕はそっと離れる。
コーヒー豆をミルでゆっくりと挽きながら。
仄かな香りが立ち込める。
自然と、彼女が起き上がるのを待つのだ。
「ここまで来るなんて正直、思ってなかったよね」
僕は一人コーヒーを啜りながら、呟く。
ここまできたのだ。
竜の鱗、その力を借りて。
人類が空を飛ぶ。
――なんだ、そのため息は。
彼女の話を聞いたあの時の僕を、誰が責められようか。みんなきっと同じ反応をするはずだ。大それた夢、そう言える。それでも彼女は言い切ったのだ。今は夢でも、いずれ現実になる。お前はずっとポーションを売り続けるか? それとも人類に夢を売り出すか? どっちか選んでみないか?
なんて人だ、と思いながら。けれど――。
さすがの彼女も今回は驚くだろう。
イメージトレーニングをしておく。つい、ニヤニヤしてしまいそうだから。
「王国騎士団が空軍設立を創案。その船を全面的に姐御に委託するそうです。報告は以上です――」
だ、ダメだ。ニヤけた表情筋がおさまらない。
夢を見ていた。
人を空に羽ばたかせる、そんな夢を。
コーヒーの香りに満たされながら。
彼女はまだ起きない。
それで良い。起きるまでもう少し――その寝顔が見れるのも僕の特権だ。
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第155回 二代目フリーワンライ企画参加作品。
お題:
「鳴り止まない目覚まし時計」
「机の上はぐちゃぐちゃ」
「大それた夢」
「なんだそのため息は」
「報告は以上です」
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