憑見酒(ツキミザケ)


 他の人に視えないと気付いた7歳。境界線が曖昧になったのが11歳。14歳になって、あの子の顔も視えなくて。

 17歳、恋をした。そしてあの子の声が聞こえなくなった。初恋はすぐに終わった。櫻が舞い、紅葉が散るを繰り返し。

 ――視たいかぇ?

 と言ったのは、お寺の住職だった。水の澄んだ清酒がいい。中秋の名月、雲ひとつない深夜に、縁の場所で。盃を呷り無心に待て。

 そして今日に至る――。

 酒を飲み干す。何が美味しいのか分からなく、頭がクラクラする。

 でも――涙で目が霞む。あの子が同じように立っていて。




 住職の声が今になって、耳につく。

 ――こちらに戻らない覚悟、あるかぇ?

 僕は躊躇わずに、境界線を跨いだ。






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第37回 twitter300字SS参加作品

テーマ「酒」

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