これだけは言える
「私は見たんだからね」
と彼女が言う。表情が険しい。彼女はいつも感情的になる。僕は表立って、感情に出さない。だから日頃は面白いなぁと思って見るのだが、火の粉がこちらに飛び火してくるとなれば、また話は別だ。
「あんな風に優しそうに、私には笑ってくれない」
「……」
もっと周囲に気を遣って、笑顔の一つでも見せてみろ、と言ったのは君なんだけどね。その言い付けに従って、少し笑ってみた。普段、無表情な僕が笑うことが、女子はよっぽど新鮮だったのか、キャーキャー言っていたが、僕には騒音にしか聞こえない。
だいたい、僕は他人には興味がないのだ。誰が何をしようが関係ない。どう思っていようが関係ない。関わらなければ傷なんかつかない。僕はそれを学習した――はずだった。
登校拒否をしていた僕に、彼女は学級委員長として、過分なまでに余計なお世話をしてくれた。
まぁ、今となればそれも悪くはない。
だいたいにして、彼女は面倒臭い。
「これだけは言えるんだけどさ――」
「え?」
僕は彼女を覗き込む。。
「君以外に、興味はないからね」
その一言で、君は頰を赤く染めて俯く。だいたい、こういう事に免疫がないくせに、ムキになったり感情的になったりする。
少しイタズラしたくなった僕は、とっておきの本心を囁いた。
「もっと言うとさ――」
ボソリと言葉にする。
俯く彼女の肩が心なし、震えている。
「ズルい、今、そんな事を言うなんて」
僕はニンマリと笑む。
「ズルい、今そんな風に笑うなんて――」
面倒臭いので、彼女の唇を塞いでやった。
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