第27話スデキデミフス降臨。

「見てこれ一之瀬くん、顔のディテール凄くない?」

「こっちのエフェクトの凝り方もやばいぞ」

「せんぱい、これ限定品ですって!どうしよ、すっごい欲しいです」

「うおおまじかっ、すっげえ!二万五千円か、くう、高ぇ」

デパート二階。

アニメショップに入った三人は、恥ずかしげも無く我が物顔で物見遊山としゃれこんでいた。

二宮の振る舞い然り、その感はしていたのだが、やはり二宮もアニメ乃至ゲームは好きだった様だ。

見るレパートリーや守備範囲は違えど、語らう相手としては上出来なまでのオタクっぷりに、俺含め五十嵐の二宮に対する好感度はぐんぐん上昇していた。

そして好都合な事に、二宮と五十嵐が好きなアニメがかなりの確率で類似していて、未だ距離感を測っている事に変わりは無いものの、先程までの他人感は少しずつ緩和されている。

「五十嵐せんぱい、このネネカちゃんやばくないですかっ」

「ほんとだ、すっごい可愛い。あ、それに結構買える値段だね」

「ですねっ。どうしよう、買いたいけど、四千八百円かあ・・・。せんぱい、どうしましょう!」

「うーん、俺は買わないな。安くなるのを待ってネットで買う派だし」

「うわあ・・・情緒も風情もありゃしませんね」

「フィギュアに日本庭園みたいなもんを求めてんじゃねえ」

二宮の口調が残念な感じになっているのは良しとして、このマグカップとかは結構欲しいかもしれない。

今使ってるやつ、茶渋だったりコーヒー渋がこびり付いて買い替えたかったんだよな。

「お、二宮。これお前似合うんじゃないか」

言って、犬の耳を模した被り物を手渡す。

「えー・・・。こう、ですか?」

手に持つ部分があって、そこを握ると耳がひょこひょこと動く。

最近これが流行ってるのだが、うん、確かにこれは良いものだ。

「ぶっは、笑えるくらいめっちゃ似合ってるな」

「え?ほんとですかっ。どうしよ、買おっかな」

「これ三千円もすんの?馬鹿らし」

「ちょ、せんぱい辛辣・・・」

「一之瀬くんの掌返しが鮮やか過ぎて尊敬する」

「だってこんなのに三千円とか、良い飯食った方がよくね」

「うわ、一之瀬くん情緒も風情も無いね」

「お前までそれを言うか」

こんな流れ、小一時間前にもした記憶があるのだが、それは置いといて。

こう言う所って、間違いなく買い物に来てはいるんだけど、分類的には博物館とかと似てる気がする。

眺めるだけで楽しいし、いつまで居ても飽きない。俺にとっては本屋も同じ部類に入るのだけど、この感覚は結構共感出来ると思う。

結局三十分近くこの中をぶらついて、俺はマグカップ、二宮はフィギュアを買ったのだった。

五十嵐は服を買ったからだろう、今回はいいやと言って申し訳なさそうにしていた。


「なにこれ。装飾華美にも程がある」

デパート一階。

生鮮食品売り場とフードコートの中間辺り。

二、三人の客が並ぶ小さいクレープ屋さんのサンプルを見ながら呟く。

「でも美味しそうですよ?」

「クレープはチョコバナナって相場が決まってるんだよ」

一際目立った面構えのクレープに賛否する俺と二宮。

兎に角何でも詰め込みましたって感じのそいつは、わがままにも千八百円とか掲げてるのだけど、誰が買うんだ一体。

イチゴとバナナはいいのだけど、キウイやパイナップル、マンゴーまで付いてるってもう訳が分からない。

「五十嵐は?何にする?」

「イチゴホイップ」

「妥当だな」

そうそう、本来は迷う余地すらないってもんだ。

バナナかイチゴ。チョコかストロベリー。

ソースにも具にもなるイチゴって本当凄いと思う。

「二宮は?」

「スーパーデリシャス」

「もういい分かった。五十嵐とおんなじでいいな」

「なんでですか!このでっかいヤツ食べたいです!」

「お前はお盛んな幼稚園児か。絶対に後悔するからやめておけ」

「だってこんなの食べる以外に選択肢無くないですかっ」

「ケバブ食ってこれ食って、そんで夜ご飯も食ったら流石に太るぞ」

「そんな事言うせんぱいは嫌いです」

「現実を見ろ二宮。これが世の摂理だ」

「世知辛ぇ・・・」

「ちょくちょく口調がおかしくなるのやめろ」

そもそもこの商品名がおかしい。

何?スーパーデリシャスキングデラックスミックスファイヤースペシャル改2って。

何が入ってるかを書け。改造前は何だったんだよ。大砲か。核ミサイルか。

対人兵器がクレープになるような経緯は知らんけど、もうそんな感じで大体あってるだろこれに関しては。

「でも・・・食べたいんですもん」

「・・・はあ。分かったよ。じゃあこれでいいんだな」

なんでこう、シュンとするかなコイツは。そんな態度取られると、男はどうしようもないんだよ。

「・・・!はいっ!それでいいですっ」

嬉しそうにしやがって。

ああもう、買ってやる甲斐があるなもう。

「すみません、えっと、イチゴホイップと、チョコバナナと、す、スーパー・・・なんだかってヤツ一つずつお願いします」

「かしこまりましたっ!イチゴホイップと、チョコバナナと、スデキデミフス改2ですねっ!」

「もっと良い訳し方無かったのかよ」

「二千六百四十円ですっ!」

スデキデミフス改2って。絶対言いにくいだろうに。それで二千六百円て。高すぎだろ馬鹿野郎。

訳し方が独特過ぎて店員さんに向かって思わずツッコむ辺り、五十嵐や二宮に鍛えられた事が露顕して恥ずかしい。

と言うかこの二人がボケ多い。特に二宮。こいつに至ってはもう存在がボケまである。

「あざすっ!丁度!いただきましたっ!脇にずれておん待ちくぅださい!」

独特過ぎる。

五十嵐、二宮と適当に会話しながら五分ほど待ち、癖のある店員に呼ばれる。

「おん待たせしましたっ!こちらバナナです!そしてこちらがイチゴですっ!そして、これが改2ですねっ!まったおこしくうださい!」

もうめんどくさくなったんだろうなこの人。

「ありゃしたーあっ!」


「せんぱーい・・・」

ほら、言わんこっちゃない。

「なんだ。場合によっては怒るからな」

「げっ。な、なんでもないです・・・」

「・・・はあ。半分寄越せ」

「せんぱい・・・!」

俺と五十嵐は既に食べ終えて暇を持て余していた。

暇つぶしに五十嵐とソシャゲのオンライン協力で遊んでいたところに、まだ三分の一も食べ終えていない二宮が、既にお腹いっぱいそうにしながら救援を求める。

「うーん、何か味がごっちゃごちゃでよくわかんないな」

別段不味い訳でもないが。

「だから後悔するって言ったんだ。でもよかったな、これで勉強したろ。次はちゃんと食べれる量のヤツを選ぶようにすんだぞ」

「せんぱい優しいっ!せんぱい結婚しませんか?」

「黙れ」

「辛辣ぅ・・・」

ちぃっ!と分かりやすく拗ねて見せる二宮。

それに対して呆れたように振舞う俺は、当然ドキドキしている。

いや、うん。童貞がこんな事言われたら勘違いしてもおかしくないと思うんだ。意識しても仕方ないと思うんだ。

だけど二宮には舐められたくない一心で自制してる純情な男心を理解してください。

「ふう。やっぱり結構お腹に来るな。二宮、夜ご飯は入るのか?」

「はいっ、夜ご飯は別腹です!」

「それは強い」

普通デザートが別腹な気もするが、きっとこいつはフードファイターにでもなるつもりなんだろう。陰ながら応援してやる。

「お、亜栖華からか」

携帯が震える。


亜栖華:迎えに来て

亜栖華:お願い


なんだ、妹にしては弱弱しい口調だ。


一之瀬巴来:分かった。少し待ってろ。


亜栖華:早く来て


一之瀬巴来:善処する


スマホを閉じ、少し考える。

いろんな状況、今までの雰囲気。

なんか気がかりがあるのだけど、何だ。

いや、そんな事は後だ。とりあえず待ってるはずの妹を迎えに行くのが優先だ。

「妹から連絡来た。迎えに行ってくる」

「あ、私も行くよ」

「・・・分かった、けど急ぐから靴に構ってる暇はないかも知れない。ごめんな」

「気にしないで。慣れてるから」

「はっ、慣れってのはすごいもんだな」

「でしょ」

そうして三人は急ぎ気味で駅前まで向かう。

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