第24話妹の連絡は唐突に。
「亜栖華、遅かったな。何してたんだよ」
「は、はあ。すみません」
また名前・・・。何勝手に呼び捨てしてんだろこの人。彼氏でも何でもないのにこの距離の詰め方はまじできもい。
「今日はカラオケな。友達も呼んでっから一緒に行こうぜ」
「カラオケですか。・・・私、歌うのはちょっと」
「何、もしかして苦手?んでももう友達呼んでるしな。どうすっかな」
「じゃあ私帰るので、楽しんできてください」
「は?待てよ」
踵を返し、帰路に就こうとした私の腕を掴む。
急な事で驚き、心臓が跳ねた。
力が強くて、本能的に恐怖を感じる。
「一緒に来いよ。大丈夫だって、どうせすぐ楽しくなるから」
何を根拠にこんな事言ってんだろう。独善的すぎて呆れる。
「わ、分かったから放してください。・・・でも、初対面の人と話すのとか苦手なので」
「いや初対面じゃねーから大丈夫だって。槇原と矢野。前会ったことあるよね?」
ああ。あのチャラチャラしたのがかっこいいと思ってる人達か。
「あの時は私の友達も一緒だったから行っただけです」
「お前そんな事言ってて楽しい?大丈夫だって。俺が付いてっから。な?」
は?
何言ってんのコイツ。自分勝手に振舞って、私が付き合ってあげてるだけなのになんでこんな上から目線なの。ほんっと無理。
お前が付いてるからなんだよ。お前が居るから大丈夫じゃないって言ってんだよ。
まじできもい。
なんでこんなやつが学校で人気なわけ?香奈もこんな人諦めた方がいいよ絶対。
「・・・今日家族とご飯行くので、少しだけですけど」
でも、そんな事言えない。
この人怒ったら殴ってきそうだし。適当に振舞って、こっちが大人になろ。
「照れないで最初っから素直にそういえば良いんだよ。な?」
・・・ッチ。
† † † †
「いやまあ、ばれたくないってのは理解できるよ」
家から少し歩いたところにあるバス停にて。
「だけど、それは怪しすぎるだろ」
「だって、まだ結構うちの学校の人歩いてるし」
「ふんふん」
サングラスにマスクの不審者セットで佇む二人の美少女が居た。
「唯一まともなのが俺って、普段と逆転しすぎで最早恐怖だよ」
「せんぱいはどっちかというと不審者面なので、みんな不審者ですねっ!」
「お前それ次言ったらもみあげの毛一本抜くからな」
「一之瀬くん、せっかく髪セットして、服もいい感じに着替えたんだからその猫背直してよ」
「痛った!おい馬鹿やめろ!無理やり真っすぐにすんな、背骨折れる」
「せんぱい、胸張ると背筋が伸びますよ?」
「お、おう」
言われた通り、胸を張ってみると。
「・・・ぶふっ」
「おいお前今笑いやがったな」
「あ、バス来たよ。早く乗って」
「まだ走行中だろうが引かれに行くつもりかよ」
「せんぱいなんかお笑い芸人に居そうですねそれ」
「・・・え、今俺あんな感じになってるの」
・・・そりゃバス停にあんな奴が居たら笑うしかねえわ。
それにしても、本当に不思議だな。
少し前まで知り合いなんかいない、嫌われ者のぼっちだったのに、今はこうして放課後に飯食いに行くまでのヤツが出来た。
友達・・・と言うのかはまだ定かじゃないけれど、凄く新鮮だ。
そんな事を思いながら、一行はバスに乗るのだ。
「なんかいつもより背高いと思ったら、そう言う事か。歩きにくくないのか?それ」
バスの段差にやや息を漏らして踏み込む五十嵐の靴を見やった。
「うん、そこまで歩きにくくないよ。慣れたし」
底が分厚く、五センチくらいあるのだろうか。家に来た時に足が異様に長く感じたのはこれの所為だったのかもしれない。
慣れたとは言ってるけれど、ちょっとした段差でも簡単にこけそうだから、今日はゆっくり歩くか。
「二宮はヒールなんだな。靴だけで大分大人っぽくなるもんだな」
後部座席に座り、左に二宮、右に五十嵐が座る。
「えへへ、似合ってますか?」
「おう。でもお前ら、そんな恰好でゲーセン行くとか勇者だな。服も動きにくそうだし、靴も二人とも辛いだろ」
毎回思うのだが、ヒールって単につま先立ちしてるのと同じようなもんだよな。外反母趾の原因になるって言うし、こんなんで歩きまわすのは流石に気が引ける。
「あー・・・。ゲーセンも無し・・・かな」
「え、まじかよ。シューティングゲームできると思って結構わくわくしてたのに」
「うん、でもちょっと服見たいな・・・って」
「服?俺二人分の服買えるだけのお金は持ってきてねえぞ。安いのはまだしも、デパートのって結構するだろ」
「あ、服は自分で買うよ流石に。ちょっとだけ付き合ってもらおっかなって」
「まあ、そう言う事なら。でも、二宮は大丈夫か?もし歩くの疲れたら言えよ」
「あはは、大丈夫ですよせんぱい、私も慣れてるので」
「そっか」
会話が途切れた所で、左ポケットが振動する。
亜栖華:夜ご飯
見やると、珍しく妹から連絡が入っていた。
なんだ、夜ご飯要らないのか?
一之瀬巴来:分かった。あんま遅くなるなよ
亜栖華:違う
一之瀬巴来:あ?作っとけって事か。俺も出かけてるからいつ帰るか分からんけど、先に帰ったら連絡入れる
亜栖華:一緒に食べに行こ
一之瀬巴来:は?どうしたんだよ急に。珍しいな
亜栖華:うるさい。用事終わったら駅前で待ってるから
一之瀬巴来:おい待て、俺も外食するんだけど
亜栖華:じゃあそこ混ぜて
一之瀬巴来:ええ・・・
「どうしたの?」
「ああ、なんか妹から珍しく連絡来てな。何か飯食いたくて仕方ないみたいなんだわ。妹も一緒に食べていいか?」
「そうなんだ、私は全然いいよ」
「すまんな、ありがとう」
こんなにもまともに妹と連絡したのは何か月ぶりだったかな、なんて思いながら、妹に頼られて少し兄冥利に尽きる俺だった。
「せんぱい、手、いいですか?」
「あー?ああ、おう。ほら」
駅前に到着した一行は、ようやくその犯罪的な装飾品を取り外し、べらぼうに美人な相貌を表に出す。
不審で目立っていた先程と反対に、今度は振り返るほどの美少女と言う事で目立ちそうだな。
「えへへ、ありがとうございます」
ヒールだからバスの階段が怖いのだろう。手を持ち下りの補助をする。
上りはまだしも、下りでヒールは結構危ない。ヒールでこけたらケガだけじゃ済まないかもしれないしな。
「えーっと。それじゃあどこ行くんだっけ」
「うーん、あ、せんぱい、クレープ食べに行きましょうっ」
「あ?パフェじゃないのかよ」
「生地以外パフェみたいなものですって」
「全国のクレープ職人がバナナ持って暴動起こすぞ」
「でも、アイスが入ったクレープとかもありますし」
「まじ?そんなもんあるんだ」
「一之瀬くん、それ生まれる前からある」
「はえ~、本州は発展してんだな」
「せんぱいが発展途上なだけでは・・・」
「は?お前なめんなよ、ケバブって知ってるか?肉を削ぎ落す食いもんなんだけどな?つい最近日本に上陸したらしい」
「・・・」
どうやら二宮は知らなかったらしいな。ぐうの音も出ねえでやがる。まあ、北海道には上陸してないからな、こんな最新の情報を持ってる人間はそういない。
「大丈夫だよ一之瀬くん。私たちが付いてる」
「あ、なんだよ急に。それよりもケバブはな」
「誰も間違いを否定してくれなかったんですね・・・。ぼっち辛い、ぼっちかわいそう」
「え、お前まで何。けど二宮に関しては侮辱じゃねえか?」
言いながら五十嵐が癌を告げる医者のような面持ちで、答えるのだ。
「一之瀬くん、それ生まれる前からある」
「は~・・・え?お前、冗談にしても」
そんな呑気な事を言う五十嵐を鼻で笑ってやろうと思ったのだが、見やるに五十嵐と二宮、本気で言っている。
「俺発展途上だな」
もう何なら開き直るくらいに納得したのだった。
「どう、ケバブ美味しい?」
「・・・おいしい」
すぐ近くのケバブ屋に連れていかれた。
・・・北海道上陸してんじゃねえか。
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