第23話衝撃の事実。

プルルル・・・ガチャ。

『あ、せんぱい。もうそろそろで着きます』

「おう。鍵開いてるから勝手に入って来てくれ」

プー。プー。


プルルル・・・ガチャ。

『あと少しで着く』

「ん。鍵開いてる」

『わかった』

プー。プー。



放課後。

色々話し合った結果、制服のままだと色々まずいだろ、という事になり一時帰宅。

全員私服に着替えての合流となった。

待ってても人目に付きにくく、集まりやすい場所・・・という事で、二人とも来たことがあり、且つ学校から近く人目にはつかないだろう俺の家に集合して、そこから街まで行くのらしい。

「おう。二宮ならもう来てるぞ」

インターホンが鳴り、扉まで出迎えた。

「うん。お邪魔します」

うわ、脚長いな・・・。

上がり込んだ五十嵐の服装に目をやった。

下はタイトなパンツを履き、上はゆとりのある、袖の広がった何かを着ていた。

服の名称なんて詳しい訳ないけれど、もう少しまともな情報は持っておきたかった。

右肩にベージュの小さいショルダーバッグを掛けているのだが、出かける度にリュックを背負う俺からしたら、何のために持っているのかが分からなくて仕方が無かった。

まあ、今日は飯食ってゲーセンで遊ぶだけだし、こんなものか。

「なんか飲むか?」

「ううん、いい」

「そっか」

言いながらリビングに入る。

「せんぱい、コーラ飲みたい」

「おいこら勝手に人んちの冷蔵庫を漁るな」

「あれ、一之瀬くん猫飼ってたんだ」

「おう。でもそいつすっげえ毛抜けるから触らん方が吉」

「へー。名前は?」

「ラテ。・・・て、めっちゃ触ってるし」

「私もさっきまで抱っこしてました」

「うわ、おい二宮毛だらけじゃねえか」

「あはは」

「ちょっと待ってろ・・・ほら、コロコロ」

「どもども」

「・・・あれ、五十嵐香水つけてんのか」

「うん。気付いたんだ」

「まあな。結構柑橘系の香り好きだからな」

「そ、そう」

「うう、せんぱい~・・・」

「分かったよ。貸せ。後ろ向け。・・・なんで背中まで毛だらけなんだよ」


そんなこんなで時間が経ち、出かける準備に取り掛かった。

「ほら行くぞ五十嵐。いつまでうちの猫に顔埋めてるつもりだ」

「ん~・・・。もう少し・・・」

「はあ。二宮も、出した漫画片付けろよ」

「はーい。せんぱい、髪の毛そのままで行くんですか?」

「おう。なんか変か?」

「いえ、いつも通りですけど、セットとかしないのかな、なんて」

「とんこつ食いに行くんならそこまでしなくてもな」

「もう、分かってないですねーっ。デートなんですよ?デート。私たちだけ着飾ってせんぱいが平凡だったら意味ないじゃないですか」

そういう二宮の服装は、なんか白くてふわふわしていた。

おしゃれなんだろうけど、男からしてみれば、どういう構造なのか理解が出来ない。しかしまあ、こういう格好は清潔感があって好ましい。

・・・けど、とんこつ食いに行くって言ってこの格好は絶対に相応しくない。跳ねたら落とすの大変だろうに。

「そうは言ってもな・・・。セットとかしたことないし、分からないんだよ」

「あ、とんこつらーめんやめた」

「なんだそれ・・・。んじゃあどこ行くんだよ五十嵐」

「駅のデパートの中にお店できたじゃん、あそこ行ってみたい」

「あああそこな。カフェなのかレストランなのかよくわからんあそこな。てか、こっち来たばっかでよく知ってたな」

「うん。友達が話してた」

「ふーん」

色々あったから大分長い付き合いな気がしてたけれど、そういえばコイツ、まだ引っ越してきて一か月ちょいくらいなんだもんな。

「ならなおさら髪の毛いじらないと駄目ですよー。せんぱい」

「うーん、どうしよっか」

「せんぱい、ワックスってありますか?」

「あー、父親が使ってるのなら。後は母さんと妹が色々持ってるな」

「じゃあそれで。私が軽くセットしてあげるので、一緒に洗面台行きますよ」

「あ、おい」

手を引かれ、洗面台の前に。

二宮に他意は無いのだろうが、手を握るのはなんて言うか、少し緊張した。

くそ、二宮のくせに。

「ほらすわってください。・・・せんぱい、結構髪の毛柔らかいんですね」

「そ、そうなのか。なんか背筋がぞわっとするから、出来れば早くしてくれ・・・」

「はーい」

そう言って髪の毛を若干濡らした後、父親のワックスを手に付け、何やらガシガシといじり始めた。

後輩に髪の毛をいじられている緊張感から、口を線にして、腕もまっすぐに体を硬直させる。

ちらっと鏡に映る二宮の顔を見やると、何とも言い難い、不思議な面持ちだったのだ。

ミステリアスというか、アンニュイというか。自然と目を奪われるような、そんな顔。

「出来ましたよ、せんぱい。・・・あれ、なんですか?どうしました?」

「あ、いや、ごめん」

ちらりと見ていたつもりが、気が付けば目はずっと二宮を追っていた。

なんだ、どうした俺。

「いえいえっ。それよりもどうですか?結構良くないですかっ?」

「あー、おう。お前凄いな。なんつうか、髪の毛だけでだいぶ印象変わるんだな」

「ですよね!今のせんぱい、結構いけてますっ。雰囲気イケメンってやつですね!」

「・・・お前それ褒めて無くないか」


「悪い五十嵐。待たせた」

「ううん。・・・一之瀬くん、毎朝セットして学校行きなよ」

「学校ワックス禁止だろ。・・・でもそうだな、少し意識してみてもいいかもな」

「うん。なんか、良い感じだね。雰囲気イケメンってやつかな」

「お前までそれを言うか」


時刻は四時半を回った。

靴を履きながら、そういえば、と続けて問う。

「お前ら自転車で来たのか?街までバスと自転車どっちで行く?」

「私は歩きですよ?」

「私も歩いてきた」

「そうなのか。でも、結構遠くないのか?五十嵐とか家と逆方向じゃなかったっけ」

「私はそこの交差点を右に曲がったらもう家ですっ」

「私も、一之瀬くんより少しだけ学校側ってだけ。歩いて三分くらいだよ」

「・・・めっちゃ近所じゃねえかお前ら・・・」

五十嵐と二宮の丁度中間に俺の家があるとは知らなかったが・・・。

そりゃ、ここが一番集まりやすいわ。ちけえし。

「・・・バスで行くか」

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