第21話電話に出んわ・・・なんちゃって

一時間目終了。

やはり時間とは素晴らしいもので、一時間授業に集中しただけで周りの人間の会話内容から、俺という存在はほとんど消えていた。

所詮嫌われ者というのはどうでもいい人間の事であって?嫌う理由というのも『周りが嫌っているから』という、下らない集団心理が働いているだけに過ぎないのだ。

しかし気を緩めてはいけない。

変に目立つ行動をするとすぐにいろんな所から噂が飛んでくる。迷惑なほど面倒な仕組みである。

それも『立つ』という種族的に普通の行為ですら、ぼっちで嫌われ者の俺にとっては、周りからすれば変に目立つ行動だと思われる事すらままある。

『おい、あいつ立ったぞ』『ウケる』ウケねえよ。

こんな事言う連中は俺をなんだと理解してんだよ。UMAか。宇宙人か。俺普段四足歩行とかしてんのか。してねえよ。

だからこそぼっちは確実に身に着けているスキル、透明人間を駆使して、さー・・・っと消えるのである。


俺のようなぼっちの上位種は右ポケットに本が入っているし、内ポケットにはモバイルバッテリーがコード付きで仕込まれている。

遭難した時は、最悪本を食べれば二日は生きていける。・・・気がする。

そもそもどんな状況でぼっちが遭難するのかは知らんが。

それがどうしたと聞かれれば、つまりはぼっちなる種族は、暇つぶしに特化しているのだ。


「さて・・・と」

消費MPゼロのスキル、透明人間を解除し、誰にも悟られぬままトイレについた俺は、いつものように便座へ座り、本を取り出す。

挟んだ栞を最後のページにかませ、続きから読み始める。

「・・・」

当然だが、本を読んでいる時に、何かを考える事は無い。

無心でただ読み続け、ふとした瞬間に笑ったり、ストーリー展開の状況で難しい顔を浮かべてみたり。

しかし周りからすれば、唐突に笑い出しやがったぞアイツ。となる為、本を読んでいる時に表情を変えない訓練をする必要があると考える。

そうしなければ、リビングのソファに座る妹から「・・・きも」と言われて、メンタル面に多大な影響を及ぼしちゃう可能性が出てくる。


「・・・あれ、どこまで読んだっけ」

今一度言うが、本を読んでいる時、何かを考える事は無い。

只今現在進行形で本を読みながら考え事をしているが、これは本を読んでいない。

本を眺めているに過ぎない。

だから内容が入ってこなくてどこまで読んだか分からなくなる。

たまにある『勉強したのに答えが思い出せない』というテストあるあるの現象には、必ずと言っていい程、教科書を眺めている時間が存在している訳だ。

きっと『今日の夕飯はハンバーグがいいな・・・』とか『あのレイドボス倒し方分かんなかったけど装備を変えてバフは守備力に傾ければ耐久戦で押し切れるかも』とか考えている時に、テストで思い出せなかった部分を勉強していたのだろう。


唐突にこんな話を始めたのは、昨日の抜き打ちテストで一問解けなかった問題があったからとかじゃない。絶対違う。


そんな事を考えていたら、普段まったく聞かない曲が左ポケットから放送される。

バイブレーションを起こすスマホを取り出すと、何の真似か、今は見たくもない名前が表示されていた。


「・・・もしもし」

『あ、せんぱーい。もしもーし』


言うまでもない。二宮だった。


「ごめんなさい。俺、知らない人と話しちゃいけないってお母さんかもしくは知らない誰かに言われてたような気がしないでもないので、切ってもよろしいですか」

『そんなこと言われてたんですか、可哀想な人ですね・・・。むしろ私は、知らない人にも積極的に話掛けて迷惑を掛けなさいって言われてましたよ?』

そんなばかな話があってたまるか。

と言うか迷惑を掛ける前提自体が間違い過ぎている。

「・・・何の用だよ二宮。悪いけど、放課後にパフェとかは行かないからな」

『あ、それいいですね、行きましょうっ。まあ、用って程ではないんですけど、せんぱい、いやらしいこととかすきでs』

「大好きです」

『即答ですねっ、引きました!引きついでにせんぱい、お昼はどこで食べましょう?私的には、二人っきりになれるベストスポットでいただきたいのですがー』

「・・・まあ、話がつながってないのは置いといて。二宮、昼を一緒に食べるのは無理そうだ。俺にも用事ってものがあってだな」

『せんぱい可哀想・・・。お昼にパシリをやらされるんですね・・・。仕方がありません、私がせんぱいをパシらせる不埒物に正義の鉄槌を下してきますよっ』

「うん、何もかもが間違ってるからとりあえず落ち着こうな二宮。理由は説明できない。けれど、お前と食事は出来ない。・・・そうだ、明日ならきっと一緒に食べられる。だから、明日まで待ってくれないか?そうすれば俺のできる限りを尽くして二宮に尽くす事をここに誓う。どうだ?」

『うーん・・・魅力的な提案ですね・・・』

「だろ?だったら」

『でもせんぱい、そうなると今日私は弁当を二つ食べる羽目になってしまいます。そんなことになったら私がまるで食いしん坊みたいじゃないですかっ』

「いいんじゃないか?なんかこう・・・キャラが立ってて」

『いえ、そんなキャラは望んでないです』

「・・・そうですか」

『だからせんぱい、今日は何としてでも一緒に食べてもらいますからねっ。あ、場所は今決めました。屋上にしますね。それじゃあそろそろ移動教室なのでっ。ではでは』

「あ、おい」


プー。プー。


くそ、勝ち逃げされた。

それに連絡先を何故知っているのかを聞くのを忘れていた。


流れるように忙しない電話が終わり、残ったのは敗北感と任務だった。

だめだ、どうブッキングを回避しようと動いても外堀が埋められていくだけだ。こういうのを何て言うんだっけ。蟻地獄?それはちょっとニュアンスが違うか。

それにしても二人して屋上をご指名とか。大人気だな屋上。ラノベの主人公にでもなればいいよ。


それから教室に戻り、席に着いてからは時間があっと言う間に過ぎ去り、クラスメイトもみんな、いつも通り俺を鳩の糞程度の認識にランクダウンさせていた。

時計の秒針が刻々と昼を目指して進む中、俺は黒板の文章なんかに目もくれず、ただひたすらに『行かないで!行かないで!』と、さながら新幹線に飛び乗る涙目の彼女を追うが如し、心の中で秒針目掛け手を伸ばせるだけ伸ばしていた。

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