第20話なんだろう。すっごい嫌な予感。

・・・うん。気まずい。


朝から背中に後輩を乗っけて自転車登校ですよ。

それもその後輩はずば抜けて可愛いときた。

対する俺は学校が認める一番の嫌われ者。


自転車を止め、視線を集めながら校門前まで歩く二人。

内一人はそんなの知ったもんかと嫌われ者に笑顔で語りかけている。


それを玄関前で引き攣った表情でお出迎えしてくれているのが学園のアイドル様。


内情詳しい人間がこの図を上から見れば、実に爆笑物だろうね。



・・・いや、他人事じゃないから、俺。



†    †    †    †



さて。

いつも以上にひんやりと寒々しい風が吹いていた教室内では、それに伴うように痛々しい視線がとある一人に集中していた。


考えれば当然だった。

もし仮にスクールカースト上層の人間が朝からいちゃこらしながら登校してきたとする。

・・・まあ、普通にやかましいって思うよね。

それがなんとまあ友達すら居ない底辺も底辺の人間が自転車の後ろに美少女を侍らせて登校って。

俺なら殺すよね。


つまり、そう言う事である。


ひそひそと聞こえてくる『あいつは何ぞや』という囁き。

顔を少しでも動かそうものなら悲鳴がそこらを飛び交う気がしてならない。

自然とスマホに視線が吸い寄せられ、現実逃避をするも、五十嵐がそれはさせないとばかりに


五十嵐里穂:何やってんのほんと!


と、ほんと何やってんのか分からない自分にクエスチョンである。

俺は弁明も何も無く、ただただ謝罪の文を述べ、五十嵐はただただ憤慨していた。


そして、もう一度携帯が震えたと思えば、二件のメッセージが届いていた。

一つ目は。


五十嵐里穂:はあ・・・。詳しい話は昼休みに聞くけど。ほんっと何やってるのさもう・・・。


という、五十嵐からのお誘い。

詳しい話を聞くというか、説教というか。

飯を食いながら何を聞かれるのかとか想像するだけで頭痛がしてくる。


そして二件目のメッセージは意外にも五十嵐からでは無く。


まき:あ、せんぱーい、言うの忘れてたんですけど、今日の昼一緒に食べましょうっ!先輩の弁当も作ってきたんですよっ!(*ノωノ)


・・・まきと言う名前の心当たりは一人しかいないのだが。

この文面から滲み出してくる圧倒的なまでの厚かましさは――


――まあ、十中八九二宮真樹だろうな。


それにしてもあの野郎、いつの間に連絡先を入手したんだ。

というか俺のプライバシー管理の甘さがなんだかなあ。

家族以外の連絡先が当人の知らぬ間に勝手に入ってるってどんな恐怖だ。


しかし困った。人望の欠片もないこの俺がダブルブッキングになるとは。

いやまあ約束などしていないんだが、すっぽかしたら俺が非難される仕組みになっているからなあ。本当に何て可哀想なんだ俺。


どちらから対応をした方がいいだろうか・・・。

まあまず間違いなく五十嵐には渾身の土下座をする覚悟で挑まなければならないとして、二宮。ここに関しては正直ポカしてもいいように思えるが、弁当を作って来てくれているという、何ともうらやま設定な訳で。


困った。

何が困ったって、二人とも妙に頑固な所がある・・・様な気がするから何があろうと昼飯を食べにくる。

そうなると、当事者同士が初のご対面という事であって。

目に見える。非情な惨状。フビライハン。

五七五を読みたくなる気持ちも分かってほしい。真面目に神風でも起きてどちらか撤退してくれないかな。


当然、二人とも俺と関わってくれるような凄くいいやつなんだけども。

会わせたくは・・・ないよな・・・。


そんな複雑な心情を知ってか知らずか、五十嵐からメッセージが飛んでくる。


五十嵐里穂:来なかったら死刑だから。


・・・言われんでも分かってるっちゅうに・・・。

どれだけ追い打ちを掛ければ気が済むのだろうか。


何よりも、どんな返信をするのが理想だろう。

どちらか一方のお誘いを、何様のつもりかは知らんけどお断りしなくてはならない。

話が通じるのは五十嵐だ。きっと理由を説明すれば、小言は言うも分かってくれるだろう。けれど、俺は多分死刑に処される。

二宮の場合、多分理解した上でやって来る気がする。あいつはきっと俺を困らせたいんだ。その場に五十嵐が居る事を知れば、より一層厄介な手で五十嵐含め俺を翻弄するだろう。

ならば、心底不本意だが、お断りする相手は決まりだな。

すまん五十嵐・・・。最近俺はお前に負担ばかり掛けている気がしてならない。

しかし分かってくれるよな?これは今後の俺達にも関わる重大なプロセスになる事間違いないんだ。

ここで変なヘマして、クラス他に色んなあれこれがバレてしまうのは一番戴けない。

では、お断り。送信っ!


五十嵐里穂:そう。昼休み屋上で待ってるから。


五十嵐なら分かってくれると思ってた時期が俺にもありました。


一ノ瀬巴来:え、いや、だから・・・ですね。五十嵐さん?


五十嵐里穂:私、屋上で待ってるから。


一ノ瀬巴来:その・・・。ですから・・・。今日は二宮がお弁当を作ってきていまして・・・。


五十嵐里穂:来なかったら死刑だから。


・・・駄目だ。完全に怒りのボットと化している。

五十嵐も成人君主ではないのは分かっているが・・・いや、ここ最近は五十嵐に負担しか掛けていないではないか。怒り心頭も御尤もである。

ならばここはせめてもの打開策を・・・。


一ノ瀬巴来:そ、そうだ、放課後に色々話を聞くってのでどうだ。ほら、昼休みなんて限られた時間ですべてを話すのは結構大変だと思うんだ。だから、どうでしょう・・・。


五十嵐里穂:昼休み、屋上で待ってるから。放課後、校門前の松の木で待ってるから。


条件が・・・増えました。


なんと解決策だと見出した策はあろうことか駄作に終わってしまった。

それに根本的な問題の解決は一つも済んでいないと来た。

一ノ瀬ピンチ。どうしよう。


悩みに悩んだ末に、果たして結論は出なかった。


俺は左後頭部に集中する謎の熱視線もとい、五十嵐の睨みに、俺は渋々


一ノ瀬巴来:はい。すみません。


と、答える他無かった。




さて。五十嵐と二宮のダブルブッキングについては何一つ解決していない訳だが。

これまた困ったことに、この寒々しい空気感もまた、何一つ解決していない。


朝、嫌われ者が後輩を連れて登校したという今世紀最大の謎が彼らクラスメイトの頭を支配しているのだろう。


弁明の余地は無い。というか、そもそも俺に発言権など設けられていない。

もういっそのこと誰かしらが話しかけに来てくれるのが一番有難いのだが、話したことのない相手に異性関係の話題を振ると言うのはさぞハードルが高いことだろう。


結局、時間という最も偉大な存在に頼る事しか出来ず。

一時間目が始まるまで気持ちの悪い視線を浴び続けたのであった。



二宮さんよ、どうやって俺を普通にしてくれるって?

なんかもう、宝くじを当てるより難しい事始めようとしてない?

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