第19話結末は決意と気概で。

「ねぇ亜栖華あすかぁ。帰りカラオケ行かない?」

「あー・・・。ごめん。今日も呼ばれてるから無理」

「えーまたぁ?そろそろ決着つけないとまずくない?」

「もう、分かってるよそんな事くらい。でも相手があれだから変に動けないって言うか」

「まあね。それにしても亜栖華、今すっごい贅沢な事言ってるって自覚ある?」

「私にとっては迷惑なの」

「うわあ、そんな事言ってみたい」

「茶化さないでってば。・・・じゃあ私行くから」

「はいはいご武運を~」




はあ。疲れた。また帰るの遅くなったし。向こうから誘ってきた癖に割り勘だし。

「ただいま」

「おう。おかえり」

もう八時前なのにまだお母さんもお父さんも帰ってきてない。

居るのは兄だけって。

「・・・きも」

「酷い」

「うるさい」

二千円どうしよ。毎月お小遣い六千円なのに。なんでわざわざ行きたくも無いとこ連れ回されて散財してんの私。

お兄ちゃんにお金貸してもらうとかほんと無いしどうしよう。

でもとりあえずお腹すいた。なんか食べないと死ぬ。

「・・・にー」

「・・・何」

「お腹すいた」

「帰り遅かったのお前だろ・・・。カップ麺でも食べてろよ・・・」

「なんで」

あり得ない。折角お兄ちゃんに甘えてあげたのにカップ麺食えとか。何、言わないと私の気持ち伝わんないの?意味分かんない。

「にー」

「なんだよ・・・」

「早く」

「え、何それ怖い。俺強請ゆすられてんの今」

ほんと気が利かないこの馬鹿。

お腹減ったって言ってるんだから意味くらい分かってよね。

「ごはんつくって」

「・・・え、めんどい」

「死ね」

「ただいまお作りいたします」

よろしい。

「はぁ・・・でも作るっても六時に炊いた米保温切ってるから冷めてんぞ」

「何でもいい。早くして」

「・・・チャーハン」

「飽きた」

「もうその時点で何でもよくねぇんだよな・・・」

「チャーハン以外なら別に何でもいいって言ってんじゃん」

「はいはいすみませんでした。んじゃちょっと待ってろ」

「ん」


ソファに座りぼんやりとバラエティ番組を眺める。

後ろのキッチンでガチャガチャ音を立てながら料理をしてるお兄ちゃんは、学校でとても有名人。

それは言わずもがな悪い意味で、だけれど。

家でのお兄ちゃんは噂ほどダメじゃないように思うけど、趣味は・・・あれはダメだ。時々部屋から「なんでだよぉ~・・・」とか呻き声が聞こえるのはまじでキモい。

でも作る料理はお母さんよりも美味しい。腹立つ。

基本的には優しい兄だ、困っていれば手を差し伸べてくれるだろう。

だから、相談。してみようかな・・・。


「・・・にぃ」

「出来たぞ」

・・・タイミング悪すぎ。話してあげようとしてんだからそのくらい分かってよねほんと。

「・・・ん、なんか言ってた?」

「言ってない。うるさい。死ね」

「こき使わされてこの態度だもんな・・・。お兄ちゃんそろそろしんどいんだけど・・・」

ちょっと言い過ぎたかな。やれやれって顔してる。

あや・・・まってあげようかな。

確かに言い方きつかったかもしれないし・・・さ。

「あ」

「それじゃ、食い終わったらシンクに水つけて入れといて。後で洗うから」

「・・・えっ、は、どこいくの」

「部屋」

あーもう。なんなのほんと。あり得ない。

もう良い、謝ってなんかやんない。ばーか。

溜息を吐きながら丸まった背中でリビングを出て行くお兄ちゃんは、リストラされたサラリーマンみたいな哀愁を漂わせていた。



†    †    †    †



「・・・お前は馬鹿だ」

朝。何故コイツと会うのか。俺には全くもって理解が出来なかった。

「なんて事を言うんですかせんぱいっ。あれですよ、これ、あれですよっ」

「どれだよわかんねーよ・・・。お前昨日のアレは何だったんだよ・・・」

意味の分かんない指示代名詞ばっか並べ立てながら何かを伝えようとする二宮だが、悪い。俺に理解力が無いだけなのか、さっぱり分からん。

それよりもコイツ、本当に昨日の話聞いてたんだろうな。

「いやだなあ、別に迷惑を掛けてるつもりは無いですよ?ただ可愛い後輩のちょっとした悪戯心ってだけです」

「悪意の塊じゃねえか。・・・まあ、俺は別に良いんだけど。お前、良いのか」

コイツが俺と一緒に行動するって事は、そう言う事だ。

嫌われ者なんかと一緒に居るヤツは、大抵悪い者扱いされて、白い目で見られる。

俺は良い。少し悪戯が過ぎるが、人懐っこい可愛い後輩と肩を並べて登校だよ。

こんなの男の夢だ。素晴らしい理想だ。

でも。

「私は良いんですよっ。だって、私から接触したんですよ?私だけリスクを避けて仲良くしようなんて、都合がよすぎます」

「・・・大人だな。お前」

「えへへ、惚れました?」

「ああ。俺がこんなにも捻くれて無かったら惚れてたかもな」

「へ、へえ・・・。ま、まあ!?わら、私は大人なので、歴然とした態度で受け止めますけど!?」

「ばかみてえに動揺してんじゃねえか・・・」

自分から揺さぶり掛けた癖に、いざ思ってた解答と違ったら目回して焦ってやがる。

「そ、そんな事は無いです」

・・・こんなヤツだからこそ。

「俺は、お前に普通の生活を送って欲しかった」

俺が関わってる癖に俺の手の届かない所で誰かが、・・・この場合二宮が傷ついていくのはとても不本意だ。納得できない。

最も、そんな愚かな選択しかできない自分が一番腹が立つが。

「それはせんぱいっ、私も一緒ですよっ」

俺が押してきた自転車の後ろにそそくさと移動し、跨りながら二宮は言う。

「・・・はあ。まあ、俺だって普通の生活が送れるなら送ってみたいけどだな」

クラスの男子と昨日見たテレビの話とかで盛り上がれたらそりゃ楽しいだろうな、とか考えたことくらいはある、けど。

と言うか、自然すぎたから突っ込めなかったけどお前当たり前のように自転車に乗ってんじゃねえ・・・。

「じゃあ、私とせんぱいの目標、目的は一緒なんですねっ」

「一緒か?・・・なんか若干・・・というかかなり違うような気がするんだけど」


「だって、私に普通の生活を送ってほしいせんぱいと、せんぱいに普通の生活を送ってほしい私、ですから」


「物は言いようだな。その二つは似てるようで全くの別物なんだからよ」

「えへへ、ばれちゃいました?」

「当たり前だ。二宮が普通の生活を送れる条件は二つあるだろ?でも、俺が普通・・・まあ、今みたいなものじゃなく、クラスの友人と気兼ねなく話せるようになる為の方法は一つしかない訳だからな」

「確かに私は先輩から離れるって選択肢をとれば容易に普通の生活に戻れます。・・・でも、私はその生活に先輩がいればもっと楽しいかなって、思ってしまったので」

自転車から降りる気はないみたいだったから仕方なく俺はサドルに跨りペダルを踏みこんだ。

遠慮しているのか、脇腹に手を置く二宮。しがみつかれるのも覚悟してたんだけど、彼女もそこまで頭がアレでは無いみたいだ。

頭がアレとか二宮には絶対言えないけど。

「・・・まあ、思っちゃったなら仕方ないな」

「はいっ。仕方ないんですっ」


俺から離れることで二宮の日常は約束される訳だが、それでは納得できないようだ。

まあ確かに二宮の理屈も間違いではない。

俺が普通の生活を送ることが出来たのであれば、必然的に二宮も普通の生活をすることが出来る訳だ。

当然、前者の方が楽に決まっている。しかし二宮はそれを分かった上で俺と進むと決めたようだ。

何故こうまでして俺と居てくれるのかは分からないが、そんなことは後でゆっくり考えればいい。


・・・さて。五十嵐にどう説明したものかな。




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