第18話繰り返すのは過去と行為と言葉とそれと。
全ての行動に意味があることなんて、・・・まあまず無い。
何故、何の為にそれをしたのか、なんて自分でも分からないことだってある。
それらに意味を持たせようとする事は傲慢で、浅はかだろう。
だから、俺があの時した行動にだって本当は意味など――。
『――そんな事を容認するのなら、こんなシステム。崩壊してしまえ』
† † † †
「・・・は」
意味が、分からなかった。
知って・・・いる?
俺が嫌われ者であることをこいつ、二宮は知っている、だと?
そうであるのならば尚更辻褄が合わない。
どこに好き好んで嫌われ者に近付く輩が居るんだ。ここは腐れ切った学生本位の独裁国家だぞ、そんな事をしたら嫌われ者に近付くお前だって中傷の対象になる筈だ。それ位友達の居ない俺にだって分かる。
それじゃあなんでコイツは・・・わざわざ。
本当に意味が、分からなかった。
「せんぱいは、どうして自分が嫌われてるかーとか、知ってます?」
「・・・いや、知らない、けど」
「ですよねーっ。自覚してるならもうちょい楽な生活送れますもんねーっ」
「は・・・?」
「せんぱいは、自分が思ってるよりももっともーっと、周りから意識されていたんですよ?」
「それは・・・どう言う事だよ。お前は何を知ってるんだよ」
「・・・何も知らないですよやだなあ」
「はぐらかすなよ」
「あー・・・。まああれです。せんぱいは、ほら、有名人ですから噂に聞いただけですよっ」
嘘だ。
明らかな虚言だ。
しかし俺にその嘘を看破する事は出来ない。嘘を言っているという証拠が無いから。
彼女の目的は何だ。納得の出来ない俺を説得でもしようとしてるのか。
隠していることは何だ。そこに鍵があるのだろうか。
分からない。
でも、確認しておかなければならないことは一つだけ。
ただそれだけ。
「お前は、俺の意志に同調してくれる・・・のか」
俺の平穏は他人との接触を拒むことによって成されてきた。
だから今日のような事は出来るだけ避けたいのだが、彼女はどう答えてくれるのだろうか。
イレギュラーにイレギュラーを重ねた俺のわがままを、聞いてくれるのだろうか。
「せんぱいって、おしりは好きですか?」
「・・・ん?」
「だから、おしりですよーおしり」
・・・ん?
「私は好きなんですよねーおしりっ!なんて言うか、もうほんと最高だと思うんですよっ」
・・・はあ。
「むちっとしててぶりっとしてるおしりとか見るともう興奮してダメですねっ」
・・・ほう。
「最近良いおしりを見つけまして!もう彼女のおしりにぞっこんなんですよお」
・・・へえ。
「せんぱいもきっとそのおしりを見ると思わず触っちゃいますよっ?」
・・・どこからつっこんっだものか。
「良いおしりってなんだよ。悪いおしりの条件と共にご教授願いたいし。あと俺を通りすがりにけつを触る変態だとでも思ってんのか失礼な。最悪見て拝むだけだ」
「・・・あっ、拝むんですね」
「ていうか解答になってない。何雰囲気ぶち壊してくれてんの。確かに二宮に重い話は似合わないだろうけど、だからといって急に
「せんぱいはおしりとおっぱい、どっち派でs」
「おっぱいです」
「そうですか」
「・・・お前誘導尋問上手いな」
「いや、別に誘導してないですけど」
「それで。この質問の意味は何」
「つまりは、そう言う事なんですよっ。きっと」
「だから、は?」
「そっかあせんぱいはおっぱい星人だったんですねーっ。それを堂々と言っちゃう辺り流石としか言いようがないです」
「いや別に胸の大きさとかで善し悪しが分かれるわけじゃ無くてだな。もっとこう・・・相対的に。そう、バランスの問題だよ」
何を言ってるんだ俺は。
「分かりますっ。ミーアキャットの爪先立ちは見ていて癒やされるものがあります」
お前も何言ってるんだ。
「でも、そうですね。私はせんぱいとこれからも仲良くしたいと思ってますし、せんぱいが嫌だと言うのなら迷惑もあまり掛けませんのでっ」
ようやく戻ってきた答えがこれだけとか、容量の割に中身が薄すぎるんじゃないですかね。
詰まるところこれは。
「おーけーと、捉らえて良いんだよな」
あまりにも長すぎた問答の最終確認。
そこで俺に向けられた判断基準のコールアンドレスポンスに彼女は、
優しい笑みと。ただそれだけだった。
† † † †
一応最初からおさらいしておくと、だ。
俺が人と関わりたくない理由は、そもそも関われないという所に帰着する。
どう言う訳か、中学生の頃から嫌われはじめ、語らいたいと同級生と接触を試みるも避けられるという羽目。
何かのアンケートで見た、虐める理由『なんとなく』という不確かな回答を目にして以来だろうか。嫌われている事の意味を深く考えるのは諦めた。
そんなこんなで俺は他人との関わりを積極的に避け、逃げるようにサブカルへと身を投じた。
腐ったミカンは周りも腐らせると言う様に、俺と他が関わる様な事があれば、被害は俺だけに留まらない。
それ故に五十嵐の優しさが寧ろ俺の懸念点となっていた。
しかし五十嵐は上手くやるものだ。
クラスではしっかりと完璧を演じ通し、俺と居る時間は俺と同等以上のオタクへと変身する魔法少女。
クラスでメールのやり取りはするものの、ぬかりなく俺をハブいている。ハブかれて嬉しいとか思うのはおかしいだろうが。
そう、まさに完璧なカタチだった。
友達を作りたいが他人と関わりたくない俺と、自分でオタクを排除した癖にオタク友達が欲しい五十嵐。
矛盾が噛み合って良い歩幅で進めていた。
しかしそこに横槍を投げてきたのは言わずもがな二宮である。
構築していた歯車の流れをぶち壊す様に、堂々と俺に話しかけてきた。
マンツーマンではない。俺の教室。勿論公衆の面前だ。
腐ったミカンは周りも腐らせる。
俺は二宮に「腐る覚悟があるのか」と。そう言うと二宮は「腐っていることは知っている」と。そう答えた。
そして、俺の歩幅に合わせてくれると、答えてくれた。
「仲良くしたい。迷惑は掛けない」と、こうも言った。
もう一度、何度でも言う。
俺は、人と関わりたくない。
分かりやすく言うと、人の前で人と関わりたくない。
そう、伝えたはず、だよな。
「あ、遅いですよー?せんぱいっ。早くしないと遅刻しちゃいますっ。あ、自転車乗ってきて無いので後ろ乗せてくださいねっ」
家の前でひどく視線を集めながら手を振る二宮が、そこにいた。
・・・デジャブか?
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