第10話イチノセは『会話』を手に入れた。
「・・・は?」
さて。
もしも友達の居ないぼっちに、スクールカーストトップの女子が話しかけてきたとしたらどうするか。
周りは喧騒に包まれてはいるが、自分の耳には何も入ってこない。
ワンマンでもマンツーマンでもなく、理路整然と並べられた机達に疎らで座るクラスメイト達だっている。
踊り場まで駆り出された時ともまた別。
ここで少し奇妙な言い回しをしてみよう。
朝、席に着いた俺に五十嵐の方から挨拶を投げかけられた。
俺、びっくり。
慌てて五十嵐の方に振り返るが、彼女は女子グループ内で笑い合っている。
当然俺の方など見ていない。だから誰一人も俺と五十嵐の動向には注目しない。
問題。ではどう話しかけてきた?
・・・なんて言う茶番は置いといて、俺は再び震え出すスマホに目を向ける。
SNSアプリの左上に①と表示され、画面の上部から通知が降りてくる。
そこには、『りほ』と表記された人物からメッセージが届いたという旨が記されていた。
以下、朝のホームルームまで続いたやりとりの内容。
りほ:やほ、登録したよー!
りほ:一之瀬くんも私の登録しといてねー
りほ:既読
りほ:早く見ないと死刑だよ?
一之瀬巴来:は?
りほ:あ、やっと見た
りほ:登録してくれた?
一之瀬巴来:まあ
りほ:一之瀬くんの下の名前ってなんて読むの?少し凝った名前だねー
一之瀬巴来:はく
りほ:はくくんって言うんだ!少し変わってるけど良い名前じゃん!
一之瀬巴来:・・・なんの用だよ。てかなんでお前のが俺の携帯に入ってるんだよ。
一之瀬巴来:昨日のあれといい、何がしたいんですかね。あれですか、誘惑に釣られたぼっち君が祭り上げられて血祭りのお祭り騒ぎですか
りほ:何言ってるか分かんない
りほ:そうじゃなくて、ただ話したいだけだよ?
りほ:昨日スマホ渡してくれた時に追加した。それ以外に貸してもらう理由ないよ笑
一之瀬巴来:わざわざ連絡先交換する事はないだろ・・・
りほ:じゃあ今から話しかけに行って良い?いいなら私の削除してもいいよ
一之瀬巴来:すみませんやめてください何でもしますから
りほ:笑
りほ:皆の前で話しかけたらダメなんでしょ?だからこれで妥協したの!
りほ:感謝してよね!
一之瀬巴来:ツンデレか。そりゃどーも。それじゃ寝るから。
りほ:え、だめ。
りほ:今日の放課後も昨日の踊り場まできてね
一之瀬巴来:やだよ
りほ:来なかったら死刑だから♡
一之瀬巴来:・・・
りほ:あっ、一応スマホは授業中マナーモードにしなきゃだめだよ?
一之瀬巴来:言われなくてもそうする
一之瀬巴来:と言うか電源落とす
りほ:それだめ
りほ:マナーモードにしといて
一之瀬巴来:なんでだよ・・・
りほ:それじゃ、よろしく♡
† † † †
理由は単純だった。
それはもう、ものすごく単純だった。
三時間目の授業もそろそろ終わると言う頃、何かの通知か、スマホが小刻みにバイブレーションを起こし、『ウイィィ~』と小さな声を上げた。
教室は普段より少し元気だった事が功を奏し、教師を含め誰もこの音には気付いていないようだ。
鞄では無くポケットに入れていたことも幸運だった。
まあ、なんかネットの割引がどうのこうのとかって言うやつだろ。契約会社のパッケージが云々とか。
そう考えていた最中、再びスマホががなり立て始めた。
なんの騒ぎだ?一円でも安くの価格競争でも勃発してるのか?百円下がったらパッケージを変えないでも無い。うん。
払うのどうせ俺じゃ無いけど。
価格競争と言うことで納得していた俺に横槍を入れるように、またしても携帯が『ウェェェ~↑』と鳴き始めやがった。
どうしたんだよ本当に。
あっ、あれか、五十嵐の奴本当に不幸のメールが届くようにしたとか、そんな事・・・?
疑問を胸に秘め、恐る恐る五十嵐へと振り返ると。
判決、ギルティー。
あの野郎、こっち見てニコニコしてやがる。
ほんとに送りつけてる訳じゃ無いだろうな。
恨めしやーと怨念が飛んでいるであろう俺の視線をものともせず、ニコニコと五十嵐が自分のスマホを指さした。
あ、なんだ?スマホを見ろって事か?
五十嵐がしているように、俺も教師からは死角になっている机の下で細心の注意を払いながらポケットからスマホを取り出し目をやった。
『新着のメッセージが三件あります。』
と表示されたスマホの画面からそのままSNSアプリまで飛び、内容を確認。
りほ:今日の昼休み一緒にご飯食べよ?
りほ:場所は屋上が良いんだけど空いてるかなー
りほ:はやくみろ
怖、この女怖い。
送られた文の間隔なんて十秒あるかないかくらいの速度だろうに。
今時のJKは一分も待てないせっかちが多いのか。
一之瀬巴来:見た
一之瀬巴来:食べません
一之瀬巴来:空いてません
まあ正確には空いてはいるけど教師の許可が必要、だけど。
でもまあ返信としてはこれでいい。なんかもう変に返すと面倒だし。
りほ:じゃあ昨日の踊り場でいいや
りほ:待ってるから来てね?
嫌だ、と送りたい所だけどコイツのことだ。まーた何かしらで脅してくるに違いない。
と言うか昼の誘いなら四時間目にすれば良いのに。・・・いや待て。なんで授業中に送ること前提で考えてたんだ俺は。だめ。授業中に携帯いじるのダメゼッタイ。
一之瀬巴来:・・・はあ。てか授業中に携帯いじるのやめようね?次からは俺も返信しないからね?
りほ:先生見てないしいーの。バレなきゃ何やってもいーの。
りほ:あっ、先生来たからまた後で
フラグ回収早っ!
あとバレなきゃいいとか犯罪者な考え方はやめようね。
なんにせよ流れから俺は踊り場に行かないと処刑されるんだろうな。巻き込んでるのアイツの癖に痛い思いするのは俺だけか。あー怖い怖い。
† † † †
時間と言うのは思ってるよりかはだいぶ少なく短いもんで、一時間のドラマを見るだけで二十四分の一も一日の時間を消費している訳だ。
アニメで計算すれば、一話が大体二十四分だから六十話見れば一日丸々アニメ三昧だ。
あ、いや、でもそう考えると一日って結構長いんじゃ?とか考えちゃうあたり脳がアニメに支配されてるのが分かる。
一日が短いせいか、あっという間に終わってしまった四時間目が、今となっては愛おしくてたまらない。
二時間三時間あっても面倒くさいだけだが、五十嵐と二人きりになるのを想像するよりは幾分か楽。
ほら、友達にかるーく謝ってニコニコしながら廊下側に歩き出す五十嵐の顔といったら。
あー・・・。目眩する。
いいよ、俺と昼食べなくて。いつもの友達と食ってろよ・・・。
今からでも引き返して友達と食ってくれねえかな、とか願ってた俺をよそにポケットの中身が振動した。
りほ:早く行こ
・・・はい。
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