第9話友達。
「・・・はあ。もう一回言うけど、買い被り過ぎな。俺は別にお前の為だとかそんな事を一つでも考えていた記憶は無い。自分の為だ。傷付きたくないだけだ。それが結果的にお前の被ダメ軽減に繋がっただけだ」
もし、俺がそんな風に誰かの為に動ける人間ならば、きっと嫌われたりなんてしなかっただろうに。
「そんなこと言って、わざと私に嫌われるような言い回しをしてたのは一之瀬くんだった気がするんだけど。それは気のせい?」
「・・・どうだったかな」
「傷付きたくない人は、わざわざ自分が傷付く結果になんて寄せないと思うけど」
それを言われると弱い。覆すだけの反論を、生憎持ち合わせてはいないから。
「まあつまりあれだ、めんどくせえ。だから関わんないでください頼むから」
こうなれば直訴の他無い。天下の五十嵐も、真正面から迷惑だと訴えられたら狼狽えるよな。
狼狽えてよ?
「・・・やだっていったら?」
狼狽えないんですねーこれが。
だれだよ直訴したらワンチャンとか考えた奴。鼻にブラジリアンワックス詰め込むぞ。
しかしそうか。そう返されると、答え辛くなるのはこっちになる訳だ。・・・ずるい聞き方だなほんと。
「さあな。言われるまで答えなんて出ないだろ」
「・・・一之瀬くん手強いね」
「捻くれてるの間違いだろ」
「そうかも」
「納得すんなよ・・・」
なんとか有耶無耶にはできたけど、正直ピンチ。直訴が裏目に出た可能性大。
「ふふっ。・・・うん。一之瀬くんは癖があるけど、友達が居ないのは少し不思議」
なんて考えていたら五十嵐は口元に軽く手を置き、くすっと笑う。
「俺も不思議だ。なんせ、小学校までは普通に学生やってたからな」
「じゃあ今の一之瀬くんは何?」
「・・・学ぶ人、とか」
「確かに当たらずとも遠からずって感じかもね」
「だろ」
「じゃあ、私が友達になってあげる」
マジなトーンって奴は、よく人を動かすために使われることが多いけれど、今さっきまで他愛ない会話をしていた彼女がそう言葉を発した時、確かに心が揺れ動いていたのを感じた。
つまり、驚いた。
「は?」
「私が高校生の友達第一号に立候補してるんだよ?」
耳を疑うとはよく言ったものだ。脳にリプレイ機能が無いことを深く残念に思う。
今彼女はなんて言った?友達?友達になるって?
今までの話を聞いていたら到底でなさそうに思える結論だが。
「・・・いや。もう一回言うけど、俺は嫌われ者なの。アンダスタン?」
「私が嫌ってないから嫌われ者じゃないの。アンダスタン?」
「こいつ・・・」
もっと根本的な部分で間違ってるんだよ。
「・・・確かにお前は嫌ってないかも知れない。ありがとう。とてもありがとう。でもな、周りはそうじゃねえんだ。俺のことは皆嫌い。でもって五十嵐里穂と言う人間は皆大好き。俺とお前が友達になっても、第三者からはそうは見えないんだ」
「周りなんて気にしないよ?私」
「俺達が気にしなくても周りが気にするんだよ」
「なんで?」
「全部を許容出来る人間関係なんて、そもそも存在してないからだ」
「・・・どういうこと?一之瀬くん時々分かりづらい表現するよね」
寒々しい目を向けているのか、ジトっとした目つきで俺を覗く彼女には、言葉の意味が分からなかったようだ。
そこが、根本的な部分で違っていると言う事なのだが。理解は出来そうにない。
「主観で判断する癖、自分は中身まで見て欲しいとか、傲慢すぎるよな。食べたこと無い癖、美味しく無さそうだからと選り好みするのは日常茶飯事だよな」
「・・・うん?」
「俺達の関係がどうであれ、彼らは客観ではなく主観で俺達の関係を決める」
彼氏彼女と噂される仲良し二人組が付き合ってるかどうかは分からない。事実を否定した所で、『ただの照れ隠し』だと周りが判断すれば事実は歪曲する。
「当事者である筈の俺達には、議題の中心である筈の俺達には解答権が与えられていない。是非は出題者でも回答者でもなく、傍観者が決めるんだよ」
理不尽に思えるものだが、気付かない内に俺も五十嵐も、きっと。
同じ事をしていたはずだ。
人間の脆弱な部分だ。弱さを認められない愚かさを、気付ける奴もまた少ない。
「だから、俺達は関わったらダメなんだ」
「・・・そっか」
返事を寄越す彼女は、どこか上の空と言うか、あまり真剣には受け止めていない様だ。
論破した訳では無い。持論をぶつけただけだ。納得できなくても、理解さえ出来ていればいい。
「まあ、そう言う訳だ。お互い、不自然じゃ無い程度に距離を開けようぜ」
重たい話をしたつもりは無いが・・・なんかちょっと気まずかったりするから、出来るだけ声を明るくするよう努める。
何というか。長い一日だったな。すっごく濃い一日だった。
いやまあ今までが薄すぎたのは否めないけど。水に溶かしたら味しない位には薄かったな。
今日はあれだ、スパイスの日だったんだな。うん。晩飯はカレーで決まりだ。
ご飯を作るのは俺じゃ無い癖にそんな生意気な事を妄想していると、彼女。五十嵐はまたも耳を疑いたくなるような事を言ってきた。
「じゃあ、友達になろっか」
・・・。
あれええええ!?
話聞いてたこの子!
あれだよ、これ、無限ループだよ!?
俺さっきまで『ふう・・・終わった(キラーン)』とか考えてたんだけど!?
「い、いやまて、あのな?今までの俺の話って、聞いてた?」
「うん。聞いてたけど」
じゃあどうしてそうなるんだよおい!
という突っ込みが喉を裂いて出るのを一端我慢しよう。
冷静に、冷静になれ俺。
これはあれだ、無限ループを甘んじて受け入れよう・・・。
「もう一回言うけど、俺は嫌われ者なの。アンダスタン?」
「それさっき聞いた。いいよ、別に。友達になろうよ」
待て待て待ってくれ。・・・ん?俺がおかしいのか?いやいや、おかしいのは彼女だよな?今友達になれない理由をこれでもかって程言ったんだけど。もうこんな話聞いたら友達になれねえよって位のめんどくさいこと言ったよ俺?
だめだ混乱してきた。おかしいのは俺か?それとも彼女か?いや、そもそもどちらも間違っていないのかもしれない、でもだとしたら俺の説明に不備があったとかそんな何某・・・。
混乱しすぎて何を考えているのか自分ですら全く把握し切れていない所に、追い打ちを掛けるが如く五十嵐が手を俺の前に出し、言葉を続ける。
「それよりスマホある?ちょっと貸して?」
スマホを貸せ?なんでこんなタイミングでそんな事を口にする?
だめだ分からない。何かの隠語か?
スマホ、スマホ、スマホ・・・。
ス、ス・・・『すぐに前髪ホットドッグ』・・・みたいな?
いやなんだそれ。待て、あながち間違いじゃないかもしれないぞ・・・。
無いか?無いな。
流石に混乱しすぎだ、少し落ち着け。
ここでスマホを渡す事を拒んだら不自然か?
分からない。でも、別に見られて困るような何かがある訳でも無い。
これは賭けだ。素直に渡してみて、反応を伺おう。
「お、おう」
ポケットをまさぐり、スマホを手渡す。
「ん、ありがとー。・・・躊躇無くスマホ渡せるって凄いね?私だったら多分渡せないかなぁ」
・・・。
躊躇したし!めっちゃ葛藤したし!
色んな事考えてようやく出した答えなのに軽視されるのはすげえむかつくんだけど!?
すぐに前髪ホットドッグとか言ってた奴が何を今更とか言うな。傷付いちゃうぞっ。
おい吐くなよ、我慢しろ。
「何が目的だよ」
「うーん、ちょっとねー。スマホ渡せるのも驚いたけど、何にもロック掛かってないのってちょっとセキュリティ甘くない?まあ、私は楽だから良いんだけどさ」
何だよいいだろこの野郎。
連絡先は家族と親戚のちょっとくらいしかはいってないし。無くして困るのはアプリのデータくらいだ。
あー・・・。アプリのデータ消えたらすっごい困るから一応ロックくらいはしておこっかな・・・。
「はいっ、終わったよー」
セキュリティに危機感を覚えていた俺に、彼女はスマホを差し出す。
「お、おう・・・」
「今日は呼び出してごめんね?来てくれてありがとっ。それじゃあまた明日ね、バイバイ!・・・あっ、一応時間ずらして下校してね?一緒に出てくとかあり得ないし!」
「お、おい・・・」
行ってしまった。
何をしたのか、何がしたかったのか、全然聞けなかった。
もしかしてあれか、スマホ渡した時にウイルスでも流して不幸のメールが一日五通も届くようにしたとか。
内容は『このメールを五分以内に三人の友達に回さないと明日からハブかれます。回したら明日必ず好きな人に告られます!』みたいな。
嫌だなあ、不幸のメール。三人に回せるかなあ。
あっ、俺友達居ないんだった。テヘっ。
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