第3話美少女転校生とかいうテンプレ。
「えー、今日はね、新しい子が転校して来ました。入っていいよ」
8時40分。
待ってましたと言わんばかりに時間ぴったりの登場をかましてくれた担任教師が、挨拶の後、呆けた面をした生徒にそう言い放つ。
理解が及ばずぼけーっとしてる者、オーバーリアクションに「えっ!?」などと叫ぶ者、「誰?男?」と出会いが欲しい者達がざわざわとし始める。
転校生か。まぁ時期的にも有り得なくはないな。
廊下側後方二番目の席に座る俺は読み終えた小説の次巻を取り出し読みながらそんな事を思っていた。
それにしても転校生に過度な期待をするな若人よ。俺みたいなやつが転校して来たらどうだ。萎えるだろ?そういう事だ。
どういう事だとツッコミたいのは俺も同じだから突っ込まないでね?
教壇から手招きしている先生はやけに爽やかな笑顔を送っているけど、どうしたの。
「イケメンだったらどうしよーっ!」
などと騒いでいた女子達にざまあみろと言わんばかりのタイミングで
「はい」
とおなごの声が耳に届く。
キラキラと輝いていた女子達の瞳から光が失われていくようなその感じ、ご飯3杯いけます。
代わりに男共が「ウホッ」と興奮しているのは見ていて気持ち悪い。
ガラガラっとアルミの引き戸が開き、一人の少女が髪を靡かせながら登場した。
「…えっ」
「やばっ、可愛くねっ」
「えーっ、やばいやばいっ」
「やばっ」
語彙力の無い高校生諸君、いったん黙っていろ。
ただ、彼らの語彙が消滅するのはすぐに理解できたのだ。
一目見て思うものが「可愛い」であった。
サラサラなブラウンの長い髪、後からでも分かる反り返った睫毛、仄蒼い大きな瞳、小さな顔、小ぶりな鼻、そこそこ発育のいい胸元、引き締まったウエストライン、いい肉付きの太もも、長い脚。
一言で言うなれば天性の美少女、ここに爆誕!といった所か。
全てにおいて完璧と言わざるを得ないその見た目は、確かに惹き込まれる何かを持っていた。
「それじゃ、自己紹介お願いします」
「…はい。
五十嵐と名乗った転校生は、挨拶の最後、ニコッと微笑んだ。
その何気無い行動に、男子生徒教師含め皆が唸っていた。
† † † †
…うん、とてもうるさい。
今は渡鳥先生の代表作、『僕がいる』を読んでいるのだが、外野連中が騒がしい。
丁度100ページ目、一段落ついた所で本を閉じ、そのパリピ製造機に目を向ける。
「へー!そうなんだ!ねぇ、りほって呼んでいい?」
「あ、うん、いいよー」
「ねぇ、五十嵐さんって彼氏居たりする?」
「高木、その質問キモすぎー」
「えぇ、いないよー?」
「まっじ!んじゃ俺ワンチャンあったりする!?」
「ど、どうかなー・・・」
「うっわ高木きっも!」
転校早々大人気な事だ。
これじゃ一時間目の授業は潰れるな。有難い。
そのルックスと、話しかけやすさだろう。既にカーストトップ臭がぷんぷんしやがる。
俺とは全く別次元。ん、別次元?別次元・・・?別・・・2、2次元・・・?
俺お得意のぶっ飛んだ発想はともかく、彼女が今後俺と関わる事は無いな。
クラス内視聴率100%の彼女をよそに、トイレで小説を読むべく、徐に立ち上がった。
「ふぅ・・・」
トイレって落ち着く。とても静か。個室なら静かに小説を楽しめる。
「それでさぁ、俺のクラスの転校生が——」
読書、終了。
本当間が悪いと言うかなんと言うか。こういう所がマジで俺って感じ。
「絶世の美女だった」
おい五十嵐さんや。あなた一世紀背負ってしまってるぞ。
別に聞き耳たてる訳じゃ無いが、聞こえてくるものは仕方がない。BGM代わりにでもしておこう。
「マジで?え、この後お前のクラス寄るわ」
「あん、マジで可愛いからな。俺1週間後位に告ってみるわ」
「やっばマジ?え、そんな可愛いん?」
「マジマジ。あんなのと付き合えるなら俺全財産貢ぐわ」
「やっばー!でもさ、そんな可愛いんなら峯岸先輩と付き合うんじゃね」
「あー・・・。てか、峯岸先輩サッカー出来てイケメンだからってちょっと調子乗り過ぎ感はあるよな」
「おま、誰かに聞かれて告げ口されたら終わるぞマジ」
「でも実際そうじゃん?」
「まーな。ゲーム中フットワーク乱れてオフェンスに玉奪われてゴール決められたら『バック働けや』って人のせいにするしな」
「それ!味方がゴール逃した時とかも『今の俺にパス出せばガラ空きだったろ周り見ろ』って自分が出来てないこと言ってるからな」
「ほんとそれな。やば、なんかヘイト溜まってきたわ」
「草。・・・やば、話し過ぎた。そろそろ行かねぇと里穂ちゃん見れないよ」
「うわやっば、行こうぜ」
・・・これは、特ダネですかね。
峯岸ってあれか、サッカー部のキャプテンだっけか。イケメンだから美女と付き合う。まー、当然っちゃあ当然のシナリオだな。
あと里穂ちゃんって。お前まだそんな仲じゃねぇだろうに。誰か知らんが。
元より用を足しに来た訳じゃ無かった為、何にも出していない俺はチャイムギリギリになるまでトイレに篭もり、今度こそと小説を読み進めた。
† † † †
「あの子か・・・まじ可愛いな」
「だろ?やべぇって」
2時間目終了後。彼女の存在は常識となりつつある。
他学年他クラスから芋洗いの如く廊下の前を占拠する有象無象は往々にして可愛い可愛いと連呼する。
彼女が目立つ分にはどうだっていいが、これではクラスが見せ物みたいになっている。
流石の俺もこの群衆の中ライトノベルを読む事が出来る自信が無い。
ブックカバーで表紙は隠せるが、挿絵が出てきてしまったらもう御臨終。
キモオタのレッテルを貼られたまま灰色の学園生活どころか、白黒のピクセル最低画素数生活。
その為俺は机に突っ伏せ横目がちに彼女を観察することにした。
「えぇ、そんなぁ」「いやいいよぉ」「そーなんだ!知らなかったぁ」「うんっ!一緒に行きたいね!」「それはー、嫌かなぁ?」「えへへ、そーでしょー?」「なんでさ!」
大変そうだな・・・。聞かれる質問事に百面相して声色も声音も変えて。リアクションもとりながら痛々しくならない様に最近のJKらしさを出していく。仕事にすれば一儲けできるレベル。
もし俺にあんな群がってきたら「ご、ごめんっ、俺眠いわ!寝るな!」って元気よく言いそう。
それじゃ眠くねぇだろって突っ込まれてぼっちだな。いや結局ぼっちなのかよ。
あーゆーのは放課後駅近くのカラオケ屋とか行って部活終わりのエースと肩を並べて帰りながらふいに立ち寄った公園のブランコでキスして「大好き・・・っ」て呟き愛を確認するんだろうな。
どうした俺。昭和生まれか?
何にせよ彼女は薔薇色の無限×無限ピクセル生活を送るんだろうな。いいな。薔薇色。
なんて、強くてニューゲーム状態の彼女に嫉妬していると。
あー、やば。
咄嗟に顔を机と睨めっこさせたが、多分遅かった。
今、完全に目が合ってしまった。
人当たりの良さそうな性格だ。目が合ったからって話しかけてこなければ良いのだが。
「…ね」
キーンコーンカーンコーン。
キーンコーンカーンコーン。
キーンコーンカーンコーン。
キーンコーンカーンコーン。
案の定話し掛けようとした彼女だったが、助かった。神タイミングでチャイムが俺を救ってくれた。
愛してるチャイム。結婚しよう。
それから授業中、チラチラと俺の方を気にしてくれていたが、やめてくれ。次の休み時間話しかけるとかいう未来が見えるから授業が終わったらトイレへ遁走しよう。
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