第2話自分語りのスペシャリスト。

「ほいただいま」

「んー、んかえり」

妹の要望だった十五分を大きく更新し、九分で帰ってきた俺。ちょー偉い。

もしかして俺、よしよしとかされちゃう?

「んじゃ、上行っていいよ」

ですよね・・・。知ってた。別に期待とかしてない。一切してないから。

ほんとだよ?

「・・・何」

「いや、なんでも・・・」

期待なんてしてないからっ!


ミシッと軋みを上げる半螺旋階段を上がり、一番奥、突き当たりに見える窓の左側に位置する扉を廊下側に引けば、中にデスクトップパソコンの置かれた机、本が出版社種類あいうえお順に置かれた本棚、毛布が乱雑に放置されたシングルベッド、シンプルな背の低めの丸机が俺を出迎える。

ポスターだったりが張り巡らされて居るわけでも無く、ただ普通の部屋。

中高と嫌われている理由が『アニオタ臭がする』と言う理由ならまず矛盾する。

趣味を話すわけも無く家に人を入れるでも無く、気付かれる証拠となる物が一切介在しない中、嫌われていたとなるともうそれは俺がアニメなのではないか。

ああそうか、俺がアニメだからアニオタ臭がしたのか、それなら仕方ない。

こんな現実逃避紛いの妄想なら幾億と重ねてきたけど、毎回思うのが『俺はアホなんでは」という結論のみで、ただ自分を自傷するだけだからもうしたくない。

じゃあなんでしたんだよ。Mか。自分で虐められるんだから省エネでいいな。何言ってんだ。

本の種類やゲームカセットなどの細かい物品はともかく、ただ一見して嫌われる要素が俺自体にあるか、と問われれば無いと思いたい。

性格が悪い?ああ、なるほどな。死にたい。


そんな俺が、翌日から妙な事に巻き込まれるとは思いもしなかった。



†    †    †    †



「やべー・・・。風呂入ってねー・・・」

翌朝4時。

朝と言うには差し支える外の夜景。

真っ暗なのは言うまでも無く、春とかほざいてやがる癖に気温様はドSにも1度を記録していた。

流石北海道。本州じゃ二桁だろうに未だ白い息が立ち上るじゃねえか。

暦とか言う謎の基準に中指立てたくなる気持ちを抑え、音を立てないようにつま先から足を置き階段を降りる。

リビングに入りキッチンの隣の扉を開き、服を脱ぐ。

洗濯カゴに着ていた服を投げ入れ、寝ぼけ眼を擦りながら磨りガラスの引き戸を開け、水浴び開始。

最初出る冷たい水で一気に眠気をぶっ飛ばし、徐々に温まるお湯で眠くなる。

何この悪循環。いや循環して無いからこれはただの悪。そうか、シャワーは悪なのか。

ほーらみろまた変なこと考えてる。悪癖ってのはそう簡単に治るもんじゃねえって事だな。

垂れる前髪をシャンプーのコマーシャルの如く後ろへ掻き上げ、「ふう・・・っ」なんて呟いてみる。

・・・これほどまでに格好の付かない人間はいるだろうか。これでコマーシャルなんか出たら制作会社にシャンプー投げつけられるレベルの醜態。


もっさい男のシャワーシーンにこれだけの描写は需要が無さ過ぎるが、延々風景について雑学的引用を用いた解説をするよりかは幾分かマシ。

適当な服に着替え、なんとなく冷蔵庫から麦茶を取り出し直飲み。

口を付けないように飲むやり方は小学の頃サッカー少年団で水筒を回し飲みした時に会得した至難の業。

そのサッカーも中学二年の夏頃から段々とフェードアウトしていって冬には完全に幽霊部員だったな。

少年団の頃が一番楽しかった。やっぱり部になってくると色々変わるからやりづらいのなんの。

冷蔵庫のポケットに麦茶を戻し、昨日妹がだらしなく延びてたソファに座る。

キッチンを背に座る形で正面にはA4用紙をでっかくしたみたいな形の短足テーブルと今流行の4Kテレビ。ご飯を食べるときはキッチンに隣接した四人掛けテーブルの方。

昨日はなんで誰も夕飯だぞと起こしに来てくれなかったんだ。家族にまで嫌われてるのだとしたら俺マジで死すべき。

テーブルの角に寄せられたリモコンを手に取り、テレビを付けると何だかよく分らない海の映像が映し出された。

20秒ほど眺めたところで俺は無言で電源を落とす。


・・・これからどうするかな・・・。

朝過ぎて寧ろ行動が制限される。どうしたものか。

ここで俺は何を思ったか散歩をしようとウィンドブレーカーを羽織る。

これで犬でも連れていれば完全におじいちゃん。

靴べらを使って紐靴に無理矢理足をねじ込み後は微調整。いやあほんと靴べらって便利。考えた人天才。いちいち結び直すのめんどくさい紐靴が楽ちんに履けてしまう驚きの商品。お値段なんと108円。是非お買い求めください。

外へ出ると、薄ら明るくなり始めた空が街を映す。

暗いけど暗くないような、何とも言い難い空。夕方とは違う、陽のないあかり。

明け方とあって人の姿は無い。街灯もまだ灯っている。

靴底が砂利を撫でる音がここら一帯を支配し、今この世界には俺しかいないのではないか、とかいうもしそうだったら最高にガッツポーズを掲げるであろう妄想をしてみる。

・・・俺は冷めている、と言う風にも捉えられるのかもしれない。

どれだけ想像を重ねても、家族が消え、世界から人間が消えた未来が到来した後、俺だけ残ったとしても泣き叫ぶような自分の姿が想像できない。

無関心というか人間に興味が無いような、こういう所が他人を寄せ付けない嫌われる原因なのかもしれない。

そんな何にもならないユーズレスな考えをしてる間に、もうコンビニの近くまで歩いていた。

年中無休24時間を謳っているコンビニは本当にご苦労様を言ってあげたい。

長めの連休の時には夜中に訪れる事もある。本当に助かるサービス。

今は一銭も所持していない。だから入るつもりは無いのだけれど、なんとなくその膨大な光の前に立ち尽くしていた。



† † † †



読み終えた小説を閉じ、机に置いた。

8時20分。

チャイムの鳴る10分前。にも関わらず着席している生徒は愚か登校している生徒数が疎らなのは校風が自由過ぎるが所以か否か。

残りの時間をどう過ごすか、これは悩みどころだ。

そこかしこで談笑している女子達に、気さくに「やあ、僕も混ぜておくれ」って話しかければ何か変わるだろうか。

あー、めっちゃ変化するわ。ぼっちの嫌われ者から嫌われ者の変態にジョブチェンジするわ。

そうそう、ぼっちってのは話しかけるだけで害悪なものとして捉えられるから。

悲しい自問自答に溜息を吐きながら、流れる時間をただ瞑想していた。




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