天体観測 其の四

 もう、あの夏空を見ることは出来ない。月山は、あの星々が流れ星になって、地に帰るのを想像する。科学部としての天体観測は終わりを告げようとしている。 

 望遠鏡を眺めて、あの夏休みのことを思い出す。楽しかったな、とカタルシスに浸る間、

「キーワード、分かった?」

 と理佐は聞いた。

 頭に浮かんだのは、望遠鏡とガリレオ・ガリレイ。その二つが関連しているものだと考えられる。次の瞬間、ピンと頭に浮かんだ。

「もしかして、月?」

 にやっと笑って「正解! さすが月山だね!」と正解した本人より嬉しそう。それに苦笑いする月山は、

「何でこんなことするんだ?」

 と言った。「それは秘密! 今は、謎解きに全うして」と答えてくれなかった。

 人差し指を口元に立てて意地悪そうに、にっこり。


 地に帰ったはずの星々が輝いている。

 三年前に抱いていた鉛のような黒い塊は消えてなくなって、クリアで透き通るクリスタルガラスに変わる。そして、残り僅かだった純粋な水晶の欠片は、硼珪酸ガラスのように強く変わっていた。

 二種類のガラスで出来た胸の中にぬくもりと安心感が心地よく満ちて、くすぐったい。

 無邪気に笑う理佐を見て、こっちまで顔が綻んでしまうのは何故だろう。

 この感情の名前を教えて欲しい。しかし、誰も教えてくれない。


 でもいいや、月山は呟く。

「何か言った?」理佐がこっちを向いて、目を覗く。

 何でもない、と返事する。


 まだ、終わっていない。


「で、次の問題は?」


 理佐こいつは特別なんだと、今、気付いた。

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