地動説 其の一
懸想が募り、太陽が沈もうとする。
二学期の秋ごろ、理佐と月山の仲は、一目置かれるほどになった。それも、二人が知らない間に風の便りが校内中に広がっていた。
ある日、二人の会話の間に数人の女子生徒が割り込んできて、
「ねぇねぇ、二人って付き合ってるの?」
と聞いてきた。
理佐は、目を丸くした。唐突だったものだから、うまく言葉が見つからない。理佐は、月山の方に目をやると、
「付き合ってないよ」
と答え、女子生徒達は「嘘でしょ」などと言って騒いだ。
キィンと、耳鳴りがした。女子生徒達が騒ぎ、音波がうなる。理佐は、反射的に耳を触った。いつの間にか、自分だけが切り離されたように、月山と女子生徒達の会話は進んでいた。理佐の胸が、重い石のような塊によって圧迫されているような気持ち悪さが襲い、下を向く。その塊が何なのか考えている。しかし、女子生徒の憎い声だけが頭の中で響き、視界が黒く染まっていく。
何だこれは。今までに体感したことのない感情と苦しさ。こんな感情知らない。
そして、この場に居たくない。
月山は、女子生徒と話していて楽しいのだろうか。喜んでいるのだろうか。
そうだとしたら、尚更ここに居たくない。
――うるさい、黙れ!
はっ、と我に帰った。顔を上げ、月山と女子生徒達の表情を覗く。変わらず、私を除いて楽しそうに話している。どうやら、声に出してはいないようだった。
理佐は、一息吐き、また思考回路の渦へ戻る。
さっきの感情は何だったのだろう。他人には興味はないし、人がどう思っているのかどうでもいいと思ってたのに。何故だろう。怒りではない歯がゆさで息が切れそうになる。風邪でもひいたのだろうか。しかし、咳もしてないし、関節も痛くない。体に異常はない。風邪でないなら、何の病気なのだろうか。
二回ほど、瞬時に瞬きをすると、月山が理佐の表情を覗いていた。ぼんやりしていた理佐の目の前で、手を振っていたことと、女子生徒達が去ったことを後から気づいた。
「ぼーっとしてるけど、大丈夫?」
ビクッと体に稲妻が走ったように震えた。急に恥ずかしくなって、反射的に大丈夫と笑顔を作って言った。
その恥ずかしさは、自分の愚かさなのか、それとも、月山の顔が近かったからなのか。理佐は、篭もった熱を冷ましながら、考えたが、全く分からなかった。
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