第4話 仁義②

 ◇


「ジジィ! 負けんじゃねえー!!」


 紅の不利を悟ったのか、防戦一方に業を煮やすリュウトがマコトの隣で叫ぶ。また、真雪もこういった戦闘は物珍しそうで、食い入るように目を見開いている。その様子を横目に、マコトは両者の攻防を眺めた。

 見た目はユウヤが先行できている。それは間違いない。ユウヤの攻めに、紅は反撃の機会を得ずにいる。

 だが。


(それが果たして、先輩の実力なのか。それとも、泳がされているのか……)


 マコトは、ユウヤが攻撃向けの装備をしていないし、本人曰く攻撃銃手アタックガンナー向きではないことを聞いている。だから、抑えられている方が珍しいのだ。

 つい先日は強力な氷獣を退けることに成功したが、それはユウヤの戦略が型に填まったからに過ぎない。行動パターンが読みやすかったが故の、切り札が通ったのだ。


 マコト自身、ユウヤのことは先輩として慕っているし、自己評価、外聞以上の能力を有しているとは思っているが、それとこれとは別だ。ユウヤ曰く、仁義紅という男はユウヤを遥かに上回る実力者だ。それが、拮抗し過ぎている、或いはそれ以上に優位を取れることはあり得るのだろうか。

 成長期を伴う10代は別として、思考、体格の基盤ができた人間にとって、拭い去ることの出来ない努力が必要だろう。ユウヤがその努力に欠けているとはマコトは思わないが、些か、言葉通りに解釈するなら不自然だ。


 これは他ならぬ、訓練をしてきたマコトの戦闘勘だった。


 そもそも、初めて接触したときから、仁義紅という男には違和感があった。見た目は頼りなく、枯れきった雰囲気を醸し出していたが、そのくせ体幹は異常に安定していた。

 マコトの予想では、戦闘員をしていた頃の全盛期の彼は、より強大な能力を有していると踏んでいる。ユウヤが攻めあぐねているのが何よりの証拠だ。



 ◇


「ちっ」


 客観視していたマコトの見解は正しい。ならば、それを体感する本人はより今の戦闘状況に焦りを募らせていた。

 防御を剥がすことは難しい。ユウヤは最初からわかっていたことだが、相手が崩れる気配が全くないのだ。どうしようもない攻めに思わず舌打ちしていた。


 だからと言って、銃撃戦を諦めるのは論外だ。もう1手2手攻撃手段があれば別だが。


「ユウヤ、お前、全開装備フルアームじゃないのかい?」

「……」


 ユウヤが行き詰まっていることを何より理解した紅が戦闘の最中にも関わらず、余裕を見せながら訊ねる。だが、会話には応じず、射撃をしながら後退する。連射が止まる合間を縫って紅が突っ込んでくるのを回避するためだ。

 バッテリの残量は1本が残り半分といったところか。相当数連射しているが、エネルギー効率は小さいのでまだ十分に膂力はある。


 しかし、停滞が続くのは焦れったくもなる。装備が弱いから。確かにそうだが、だからと言って、攻勢が続けば防御はもたつく。紅の安定力はユウヤも参るばかりの強さを誇っている。


(さて、どうするか。死角はつけないし、特殊弾で隙を誘うか? いや、逆に利用されるのがオチだろう。なら、十分間合いを取って少しずつ削っていくしかない)


 しかし、ユウヤの思うところから、物事は想定通りには進まない。


「……!」


 ユウヤの気が散っていたところを読み切り、紅が前へ踏み出す。銃撃は止まないが、紅は電磁シールドを展開することでそれを無視してユウヤとの間合いを一気に詰めてきた。本来ならば、電磁シールドを使っていても銃撃には衝撃、反動は残るのだが、紅はそれを苦としない。

 このまま詰められれば、近接戦にもつれ込まれることになり、ユウヤが不利を取る。

 若干下がりながら、間合いを確保しようとするが、紅は容易くその距離を埋める。


(……ちっ)


 連射が途切れる。仕方のないことではあるが、ここに来て明確な不利となる。いや、紅のことだから、光学銃の性能もこの短い戦闘で把握したのだろう。


 距離がゼロになる。

 紅はユウヤの腹を突くように、最小限の動作で彼の固く握られた拳が飛び込む。


「──むっ!?」


 けれど、紅の鉄拳はユウヤには届かない。

 否。

 紅は驚きを漏らすと、殴打の構えを解き、咄嗟に頭上で両手をクロスさせた。


 数瞬後、ユウヤの紅の腕をとらえる。防御の上から器物が紅を襲う。

 ユウヤは乱雑に振り回すようにして、光学銃を打撃の武器として利用する。緻密に作られているものではあるが、今回はそれを無視して銃口部分を手に力を込める。もともと、先の戦闘で光学銃もボロボロだ。この戦闘が終了すれば新調するつもりでいたので多少の無理は通す。


 但し、紅へのダメージはそれほどではないことをユウヤは理解した。振り回す光学銃に対し、抵抗が働く。それが、紅の引き起こした電磁シールドによるものだとすぐにユウヤは推測できたが、だからこそ、攻撃の手は緩められない。

 電磁シールドは器物には抵抗はできるが、あまり作用されない。エネルギー弾を防御する用途なのだから当たり前だ。なのに、ここまで威力を相殺されたのは紅が何重にもシールドをかけたからだろう。


 横一線に光学銃を薙ぎ、紅との距離ができた。その距離を利用して、今度は光学銃の本来の使い方によって間合いから追い出す。紅もここまで対応されるとは思っていなかったようで、無傷ながら大人しく後退した。


「ふむ、近接戦は上々。少しは成長が見える」

「当たり前でしょう? 一体、あれから何年経ったと思ってんですか」


 構えを解き紅が感心したように呟くと、会話に応じてユウヤは笑う。光学銃の負担を軽くするためには時間を要する。

 内心、ユウヤは舌打ちした。

 距離が詰められたのはしてやられたが、その後の対応は我ながら悪くはなかった。もっと言えば、打撃が填まればその分相手にシールドを使わせることになるだろう。通らない攻撃だとしても、バッテリを必要以上に使わせるのはルール上、有意義と言えよう。ならば、もう少し組みついてでも追撃に徹すれば良かったと結論に至る。紅のシールド展開性能はエグいくらいであるが、エネルギーが有限であることには変わりない。


(……変換も結界も使ってこない。もないのは言動からお察しだ。だが、その分、仁義隊長の防御性能は崩しにくい。厄介だな)


 苦虫を噛むユウヤに対して、紅には余裕がある。

 本来なら、手数で押すか、火力で押すかの選択肢を取ればこの状況下でそこまで差はないのだが、残念なことにユウヤの装備は完全支援型だ。


 どうやって崩すか考えてはみるものの、ユウヤは既に敗北を想定に入れていた。銃撃戦は火力不足、格闘戦は紅に分がある。

 だから、ユウヤは戦闘方式を切り替えた。真っ向からの勝負に勝機がないのはほぼ確定だ。だったら、ジリ貧引き分け狙いの消耗戦が割りに合う。


 ──ふわりと。


 器物が宙を舞う。ユウヤが隠し持ち、投げたそれは高く舞い上がって、物理現象に従い放物線を描いていく。

 紅はそれを見て、重心を後ろにのせるのを確認した。殺傷系の特殊弾は禁止のため、それを投げたわけではない。けれど、紅にとっては実戦のような感覚があったらしい。当然のように後退を選択した。

 通常戦闘ではそれが最適かもしれないが、今回は違う。


 直後に器物から出てきたのは灰色の煙だった。一度、放出されたそれは、拍子で段々と噴出していく。上部へ上ることなく撒き散らされた煙は、ふたりの視界を阻む。


 そのとき、ユウヤの魂胆に気付いた紅は堪らず前に出た。紅からすれば、知覚外からの奇襲ともなればすべてがすべて防ぎきれはしないだろう。ユウヤが隠密戦闘に長けていることを、紅は知っている。

 ならば、面倒になる前に落とすのが合理的発想になる。


 両者がまだお互いを認知している間に、距離は詰まる。それでも、煙に逃れようとはユウヤはしなかった。

 迎え撃つラインに、銃口を向ける。


「煙の中で火力戦はユウヤそっちの方が不利だろう? 選択ミスかい?」


 ご丁寧に、紅が叫んだ。紅の眼にはユウヤの愚行が映っていることだろう。

 確かに、煙幕が張られている中では光学弾を主装備メインアームとする銃手ガンナーにとって、煙の影響で光学エネルギーが分散する銃撃は威力が落ちる。紅のような防御よりの相手では煙幕は対処が難しくなりやすい。現に、その手法も絡めた上で昔の仁義隊は無類の強さを誇っていた。つまり、本来であれば、紅側が煙幕を用いていたことだろう。


 構わず、狙いを定めて、1発射つ。

 狙いは紅ではない。それよりも手前に、紅の進行を予測して射つ。紅は止まらない。無理な小細工では難なく処理できる自信があるからだ。

 そして、ユウヤの放ったものはその特殊弾小細工だった。





「──!」


 地面にドスリと、床を叩く鈍い音が響いた。光学弾ではない物の弾丸に、紅は急停止する。直撃すればなかなかのダメージを受けると思われたその弾丸だが、どうやら外したらしい。


(……無駄撃ちか? それとも)


 不自然な発砲に、紅は動けない。ユウヤの行動には何かしら意図がある。それを読みきれなければ、彼の思う壺だと紅は予測する。

 けれど、今回は、に沿ったものだった。


「……むっ!?」


 紅の眼前で、何か1本の線が走る。最初は煙の中であるため、気のせいかのように思われたが、を思い返せば簡単だった。

 反応するにも遅かった。紅は反射神経にしても、持久力にしても、そこまで速い動きは得意ではない。1本の線は紅へと距離を縮め、接触した。しかし、上部に流れていく線は紅を通りすぎていく。


(ワイヤー! 絡繰弾からくりだんか──)


 紅の身体は抵抗装置の役目を果たし、紅の前方床に打ち付けられた基点へと上部のワイヤーは引き戻されるように、重力に従い落下しながら紅へと向かってくる。

 視界が悪いが、恐らく、戻ってくる先端にも基点のものと同様なものが付いているに違いない。軌道を予測して躱すことには成功した。

 けれど、ワイヤーは紅の右肩に巻き付くことで、行動を阻害する。


 ──紅は


 抜け出すのは簡単だが、それではを用意しているユウヤの攻撃は避けられない。

 故に、右腕は無視する。

 視覚の効かない中で、眼を閉じ、他の感覚器官に訴えかける。


 そして──。


 ドスンと。

 紅の左の拳骨は、的確に向かってくるユウヤの腹を寸分の狂いもなく捉えた。


「でも、まだ、甘いんだよねえ。これが戦闘経験の差さ」


 視界の悪い煙の中で、ユウヤが転がっていく音と共に、戦闘を楽しむ壮年は不敵に笑った。



 ◇


「もう3手ほど足りないかな。それでも、私には届かないだろうが、だけに拍子抜けではある」


 紅の呟きがトリガーになるように、段々と煙が晴れていく。ユウヤが床で悶え、のたうち回っているのを、マコトは認める。


「これで一旦終わりだね。残念だがユウヤ、お前はまだまだ私には届かないかな。手法はなかなか驚くものだったし、決して悪いものではなかったが、対面戦闘ならば手数が足りない。普段、慎重さを売りにしているお前にしてみれば、反省点は既にわかっているんじゃないかな?」


 ユウヤが見上げる先には、余裕の表情を見せる紅が立っている。ユウヤはゆっくりと体勢を整えると、そのまま地面に座る。


「参りました」

「素直なのは、よろしい。些か、呆気ないものだったが、楽しませてはもらったよ。だが、敗北は敗北だ。そうだね、今の戦闘の構築と推移、それに反省点と課題、及び集団戦闘への流用性に応用性とメリットデメリットをレポートにして提出してもらうことにしよう」

「……わかりました」


 何が駄目だったのか自分でもわかっている分、反論の余地はなかったのだろう。

 そんな項垂れるユウヤを無視して、紅はマコトを呼ぶ。


「というわけだ。君は私と一緒に来てくれないか? ユウヤは今、忙しいし」

「はい、承知しました」

「お嬢さんはリュウトを連れていってくれないかな? 私の家では自由にしてもらって構わない。少々、マコトとともに支部へ行ってくるから、それまでの留守番を頼むよ」

「……はい」


 マコトはユウヤを気にかけるが、どんどん先を行く紅の後を追うようになった。


「悪いね」

「はい?」


 マコトが紅に追いつくと、彼は他に聴く者がいないことを確認して謝罪を述べた。


「君はユウヤのあんな姿を見たくはなかったのでは、と思ってね。同じ部隊の軍人だ。あそこまでやられるのを見るのは、気持ちの良いものではないだろう」

「いえ、そういうことは」

「──ないかい? 確かに、ユウヤの戦闘スタイルには私もビックリしたものだよ」


 マコトの言葉を引き継いで、紅は呟く。しかし、マコトは首を傾げるばかりだった。


「その様子じゃあ、昔のユウヤについて詳しく知らないみたいだ。と言うことは、彼があの戦闘スタイルに移行したのはここ最近の話ってことになるのかな」

「……どういうことです?」


 本気でわからなかったのだが、そんなマコトに紅はクスリと笑った。


「まあ、ユウヤは話していないみたいだから、本来なら私の方からこれを言うのは筋ではないんだけどね。でも、知っておいた方が良いわけだからという理由で、ここは私の責任で話しておこうと思う」

「……?」


 回りくどく言い訳を宣う紅の様子に、マコトは一層、訝しむが、紅の言葉によって眼を大きく開いた。


「彼ね、元は攻撃銃手アタックガンナーだったんだよ。知ってたかい?」

「──! いえ」

「やはりね。今は支援銃手サポートガンナーをやっているところかな? 道理で手法が多彩になっているわけだ。そのつもりで模擬戦をやったわけでもないから、正直、驚いたよ」

「そうなんですか?」

「ああ。信じられないようだが、彼は元々、生粋の攻撃職を専門としていてね。無茶はよくやるし、なかなかなやんちゃ具合だったものだから、今はどうなっていたか心配だったんだよねえ。まあ、それも理由の一部に過ぎなかったんだけど」


 マコトの知らないユウヤの姿を、この男は知っているのだ。同じ部隊にいたわけだから、知っているのも無理はないのだが、それでも少々疎外感が芽生えた。


「ふふふ。別にそこまで気にするものではないさ。それに、割を喰ったのは恐らく、君だけじゃない」

「えっ?」

「……君たちの今の隊長である髙村という者。恐らく、その者もユウヤのを買っていたんじゃないかと思う。こんなことを奴の前で言うつもりもないが、ユウヤは仁義隊ウチの起爆剤だったからね。実力者が揃っていたこともあるが、ユウヤの功績も大きい。君たちの隊長もその頃のユウヤが目に止まり、スカウトしたのだろう。だが、配属された途端、スタイルがまるで違うわけだ。現状を見てみれば、変えるよう命令しても本人には気がなかったみたいだから、その隊長は不憫とも言える。配属後、数ヵ月は変更ができないはずだから、良い人材と巡り会えなければそのままになるわけだ。髙村という隊長は人を見る目はあるようだが、欲が裏目に出たのかな? ユウヤの隠密能力が優秀ではあるから及第点はつけられるのだろうが、それでも、使隊員を手元に置くのは苛立たしいことだろうさ」


 そこまでユウヤを卑下する紅に、マコトは堪らず反論しようとした。

 けれど、その前に紅が制止する。


「すまないね。別に悪気があって言っているわけではないんだよ。集団戦闘をする上で大切なのは、個々の能力を正確に理解することだ。いくら軍隊に個は存在しないと謳っていても、限界はある。まずは一人ひとりが、自分が何ができるかも正確に把握することが、成長の1歩目に繋がるものなんだよ。だから、厳しいようではあるが、ユウヤをそう評価した。幸い、少しだけ省みる時間があるのだから、言わないなんて選択肢もない。やろうとしていることは間違っていないしね」


 紅の言うことは正論だった。まるで反論が出来ない。だから、マコトは別に質問をする。


「……何故、先輩に直接言わなかったんですか?」

「もう気付いているからさ。自身の評価というものは案外、自分でもわかるものだよ。ある程度の経験をしてきた者ならね」

「貴方は、今の先輩をどう思っているのですか?」

「随分と抽象的な質問だね。……そうだね、私としては彼に思うところは正直ない。『死ぬな』とは思うがね。但し、それはあくまでも技術的な問題に対しての回答さ。戦闘補助を目的としているのはと思うところだし、少しずつ身にしているようだ。あれはどこまでも凡人だが、少しは頭が回る。きっかけを与えれば、自分で見つけ出す。人の言葉を甘んじて受け入れるような安っぽい軍人でもないし、敢えて煽る形を取らせてもらった」


 後ろから、紅の肩が下がるのが見えた。憎まれ口を叩く姿は印象が悪いのだが、彼は彼で重荷を背負う側なのだ。

 だから、マコトは訊いてみたくなる。


「貴方は──」

「残念ながら、その質問には答えられない」


 訊ねる前に、制止をかけられる。


「……そうだね。ここは『私の権限を行使して』というのを理由にしておこうか。君にも質問する場を与えたが、生憎、こちらから話せるものは何もないよ。機密に抵触する可能性もあるしね。私から話す分には問題ないが、『権限』を使って君からの質問にはこれ以上受け付けない。しかし、私からはいつ、どこででも質問はさせてもらうよ。ユウヤのことは信頼してはいるが、私はまだ、君たちを信用しきれていない」


 理不尽な回答だった。

 それでも、マコトが拒否することは出来ない。紅の肩書きは支部長だ。それは極東連盟軍の幹部レベルの権限を持つことを意味する。下手に話ができる立場には、マコトはいないのだ。

 気安さが先行していて、そのことを忘れていた。マコトの方からも気を遣う必要があるのに、こんなにずけずけと踏み入る真似をするのは無礼に当たる。理不尽さよりも、マコトは自身の失態を恥じる。


「別に、君が気を揉むことはないさ」

「……ですが」

「私は今でこそ、この役職を戴いているが、軍本部からすれば抑止力みたいなものさ。それに、柄ではないからね。何人もの人の上に立つのは私には合わないのさ。仕事はするが、それ以上のことはしない。本部にしてみてもその方が都合が良いだろうし。だから、君の言動を咎めるつもりはないよ。深入りは注意した方が良いということだけは助言とさせてもらうがね」

「はい」


 紅という男が、思った以上の曲者であるとマコトは感じた。器量も、力量も、今のマコトでは到底、正確に計りきれない。飄々とした性格も、作り物ではないかと疑いが出てくる。

 ユウヤはよく、この男の下で働いていたなとすら思う。


 沈黙。

 話も終わり、目的地へと進むだけになった。家から出れば、日の光が瞼を焼き付ける。雪道を踏む音だけが響き、淡々と支部を目指すこととなった。

 マコトから質問ができなければ、あとは紅次第だ。沈黙は嫌ではないが、話の後では悶々とする。逆に、整理する時間が取れたと考えもするので、良かったとも言えた。


 しかし、支部に入ろうかとする手前で、紅は立ち止まった。すると、思い出したように振り向きマコトを見据える。


「そう言えば、君にも訊いてみたいことがあるんだった。ああ、そう畏まらなくても大丈夫だよ。もし、答えたくなければそれでも構わない。ちょっとした興味さ」

「……はい」

「君のお姉さんは元気かい」

「…………えっ?」

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