第3話 仁義①
◇
「何が久しぶりだ。全く、ここに来てお前が来たんだ。尻拭いをしなきゃならない身にもなることを推奨するよ」
開口一番に紅が浴びせた言葉は、そのようなものだった。普段はのほほんとしていて押しも弱いはずなのに、以前のような接し方に、ユウヤは安堵の表情で溜め息を漏らした。
「隊長も変わりませんねえ」
「今は支部長さ。残念ながらね。というか、さっき『紅さん』とかなんとかって呼んでたろう」
「……そうでしたっけ?」
身体を起こし、そのまま胡座をかく。立つにも面倒で、相手が元上司だとしてもユウヤはその姿勢を崩さない。
視界には何がどうなっているのかと、重心が後ろ寄りに置かれた少年、リュウトが気まずそうにユウヤと紅を交互に見ている。不審者を正義の名の下に成敗しようとしていたのに、その行動に呆気なく介入されたのだ。そして、それを止めたのが恐らく知り合いであろう紅である。慌てるにも仕方ない。
「で、リュウトは何をしてたの?」
「だって、基地つまんねえし、姉ちゃんに怒られるし。外で遊ぼうとしたら、なんかこのおっさんがいたから……」
紅が呆れた口調で少年に問い掛けると、不貞腐れたようにリュウトは呟く。悪いことをしたとは認識しているらしい。けれど、自身の行動の正当性は保ちたいようだ。
けれど、そんなリュウトを諌めることはなく、再びユウヤと向かい合う。
「まあ、許してやってくれ。ただ、やんちゃなだけなんだよ。これでも、この子──リュウトは別に悪気があってやったわけではないみたいだし」
「ちげぇし。オレは……」
「はいはい。そういうわけだ」
「まあ、それは、構いませんけど」
紅が俯くリュウトの背中を軽く叩いている。
ユウヤは、彼の行動に非があるとは思っていない。少々、人の話を最後まで聞かずに突っ走る傾向があるように見えるのは直すべきだろうが、知らない人間に臆することなく立ち向かおうとすることができる人材は貴重だ。
それに、こちらは頼み事をしにここまで辿り着いたのだ。とるに足らない問題に割く気力は持ち合わせていなかった。
紅も、ユウヤの心情はある程度予測していたのか、ニヒルに笑う。
「じゃあ、早速、話を聞こうか?」
あくまで、理由をつけて対応しようとする紅に、ユウヤは苦笑する。それでも、折角うまいこと進められる兆しがあるのだ。使わない手はない。
「それなんですけど、先にしてほしい“お願い”があるんですが良いですか?」
「私物化していいものじゃないし、本来、私の権限で聞くまでもなく却下だと、話を無視して言いたいわけだが。今回はできる範囲ならやってあげるさ」
「ありがとうございます。なら、今、外にも俺の仲間がいるんです。ですが、1人、身元がわからない人がいるんですよね」
「……つまり、どこぞの誰かもわからん人間をウチの領土に踏み込ませるって? その雰囲気なら大方、私の権限でスルーさせろってことでしょう?」
紅が結論へと即座に至ったことで、ユウヤは質問に曖昧な笑みで返した。一応、真偽を明確にさせない為のものでもあるが、そのような小細工を通すのはなかなか難しいものがある。
ユウヤの言葉ない返答に、紅が頭をガシガシと掻いた。
物腰は低い男ではあるが、責任は負える人間だ。ふたつ返事にはならなかった。
「あのねえ。言いたいことはわからんでもないが、それはまずいでしょう。下手どころの話じゃない。何のために、本部が情報統制を強いていると思っている。内部崩壊でもさせる気? それに、ここに来てそれなの」
「──? 何の話です?」
紅の言い分は最もだ。身元の不明な者を自領に入れるリスクは計り知れない。
だが、
防ぎきれないからと言って、防衛体制や軍管制には細心の注意を払わなくて良いわけでもない。
頭を唸らせる紅に、ユウヤは首を傾げる。どうやら、紅は別の問題も抱え込んでいるらしいことをユウヤは察する。そして、その意味も他人事ではないだろうと考える。
何故なら、今のユウヤたちのメンバーが欠けている状況が、絶対に不透明なままではいられないからだ。
「なんでもない……なんでもないと思いたいんだが、そうだな」
紅は視線を逸らす。
しかし、それを悟らせないような動きでユウヤに背を向けた。白衣が翻り、冴えない男の哀愁をその背が語る。
それでも、彼の言葉は意思のある断言と見て正しかった。
「良いよ。ユウヤ、お前が言うんだ。昔の誼で信用してやる。そして、言っておく。私はあくまで支部長としての役割を果たすだけだと」
「……ありがとうございます」
▼
馳せる。
──目の前には小さな女の子が、蹲って泣いていた。表情は酷く崩れ、泣腫らす顔は痛々しい。堪えることの出来ない涙は、膝をびしょ濡れにしていた。でも、止まらない。時々、顔を上げるが、こちらの顔を見ると、また堪らず俯いた。
不安が、悲哀が、失望が、憤怒が、その他、負の感情が、隠されることのない真の気持ちが、伝播し肌を刺す。泣きはしないが、共に涙を流せればどんなに楽か。
絶望に近い、何もかもを諦めたような表情をする女の子に、何て声をかけたらよいかわからなかった。
──慰めは失意を思い出させるだけだった。
──励ましはその絶望から恨みを買うだけだった。
──役目を果たすつもりであったが、この先の女の子の未来を案じればそんなことは不可能だった。
だから、“親”になった。
◇
この対面がどんな影響を及ぼすのか、正直なところユウヤは不安はあった。
一方は、遠い過去に滅びた最強人種。
そして、もう一方は、『不屈』、『鉄壁』の異名を持つ、過去部隊2位に居座り続けた元隊長。
両者の性格上、争うこともなく穏便に物事が進むのではないかと予想してはいるが、真雪の特異さにイレギュラーは平気で起こり得る。もし、ユウヤの望む方向に仁義紅という男が賛同しなければ、呆気なく窮地に陥るだろう。
また、真雪にしてみても同様だ。いくら、共に行動していたとしても、身の危険があれば彼女の行動は予測不可能になる。相手は仇であるエラルティアの人間だ。紅の言動によってはこの地一帯が崩落で沈むだろう。
両者の危険性を加味しつつ、ユウヤはそれでも紅を頼ることを選択したのだ。
だが、現実は予想とは異なる形として裏切られた。
「へえ。確かに、ユウヤが私を頼るわけだ」
紅が真雪を間近で見たときに、放った言葉がそれだ。首を少しだけ横に倒して、無表情に呟く。しかし、関心は持ったらしい。
「……紅さん」
「ああ、いい。言わなくて結構だよ」
なんとかして紅の許可を取り付けたユウヤは、真雪とマコトを連れて第3支部に入ることに成功した。入国データは取らず、この場に対面の機会が出来たことに、紅の言葉の強制力を裏付ける。
「お前の慎重さが功を奏したのかな? 結果として、その選択は間違いではなかったわけだ。正しくもないけどねえ」
まだ言葉を交わしたわけでもないのに、紅は妙に不自然なくらいすんなり納得している。言質を取ることを良しとしていないのか、ユウヤにも牽制してきている。
「だからこそ、この娘は
「はい」
挨拶なしに品定めする紅に対し、真雪はユウヤの後ろに隠れるようにしていた。馴れない相手には真雪も警戒心が強いようだ。
それに、こうしてずけずけと目の前の問題の処理を優先してくる紅は、胡散臭いと言える。感情を無視しているので、冷たいと捉えることもあるかもしれない。
本人にしてみれば、ただ忘れていただけだったのだが。
「ああ、挨拶が遅れてしまっていたね。私は
「……プリシラです」
紅の言葉に、真雪は偽名を名乗る。ユウヤがそうさせたのだ。真雪の名は極東連盟に近いものがある。しかし、彼女の容姿から下手に疑われる可能性がある。いくらユウヤが頼る相手にも、出来るだけ情報が漏れないようにしているのだ。
「プリシラさん──ね。改めて歓迎するよ」
握手は交わさない。
真雪の方は、3人でいるときは余裕みたいな様子でいたのに、今はちょこんと大人しくなっている。もっと積極的な感じを予想していただけに、ユウヤは彼女の不安の一部を知った。
そんなユウヤを他所に、紅はにこりと真雪へ笑いかける。
「さて、君の素性は私の同僚の言で聞かないから安心して良いよ。もっとも、君の方から話してくれるのであれば別だけどね。君の個人情報もきっちり法の下に遵守することを誓おう。故に、ここでの生活も保証する。なに、経費はこの
「……おい」
「しかし、条件は付けさせてもらう。簡単な話だ。君がここにいることを望むなら、君は相応にこちらのルールを守ってもらうことになる。出来なければ、心苦しいが敵と見做すことになってしまう。そう身構えずとも、理不尽なものではないよ。駄目なものならば駄目と言うし、秩序を乱したらの話だから厳しく取り締まるつもりもない。あとは、君のことは知るべき人には知ってもらうことになる。例えば、私の家族だ。隠蔽し続けることは不可能に近いからね。それに、
「はい」
必要事項を本人の言う通り長々と連ねていく紅に対し、真雪は即答する。警戒はしているが、紅の言葉に不平等性が含まれていないことを即座に汲み取ったらしい。よく、ユウヤやマコトの会話について来ない(来れない)彼女ではあるが、学は意外と高いのがわかる。
紅は真雪の眼に納得すると、ユウヤとマコトへと視線を変えた。同時に、マコトが前に出る。
「白峰マコト第3階位です。ここにいるユウヤ先輩と同部隊に所属している者です」
「先輩って……、ユウヤ、昇級したの?」
「いや、俺はずっと第2階位のままですよ。年齢や勤続年数、経験を加味してのことみたいですが」
首を傾げる紅に、ユウヤは補足をいれる。本来、階級が上の者が指示を出す立場になるが、マコトはそれをユウヤへ委譲している形を取っているのだ。あくまで形としての認識なので、マコトに思うところがあればすぐに破棄できるものである。
「階位制度、ね。私としては上位5国が取り決めている将官制度の方が望ましいとは思っているが……。まあ、認識の問題か。それにしても、ユウヤが指示する立場になっているとは、なかなか成長したようだ。ただの経年による結果だとしても上等だ」
「俺もあまりって感じですがね。一応、訂正しておきますと、部隊上での権限は俺は持っていませんよ。下っ端もいいところです」
ユウヤは遠い目をする。階位に興味は薄いが、兵士を動かせる力はそれなりにこれからの自分を左右させる。もし、独裁的な人間の下に就こうものならば、自分の命がいくつあっても足りなくなるだろう。
「……今は何隊にいるんだっけ?」
「髙村隊というところです」
ユウヤの回答に、紅は肩を竦める。
「知らんなあ。誰か、知ってる人はいる?」
「マキノさんは知ってます?」
「マキノって、
紅の推察に、ユウヤも舌を巻く。
情報は落としているつもりもないのだが、この男は経験則で人柄や思惑を推測してみせたのだ。想像豊かと言えばそれまでだが、自身の考えを披露するのは余程の自信があるからか。何にしても、仁義紅の推察は的を射ているものだった。
口にも、表情にも出すことはないが、その様子を見て紅は楽しそうに笑った。
「別に、悪く言うつもりはないさ。嘗ての部下が生きていればそれでいい。いつも言ってるだろう、自分の生命を最優先にするんだよって」
一を言えば、十を返してくる。この全てを見透かしたような男に、ユウヤは目を閉じて応対した。流石と思う反面、恐怖、嫉妬、不快感は微妙に内在している。それを見透かされないように、ユウヤは沈黙で応える。
「そして、君がユウヤのツレのひとりってわけか」
マコトへと身体を向けて、紅は顎を撫でる。
「ふむ。なかなかの潜在的な能力を秘めていると見える。今はその半分も活かしきれていないようだがね。銃系統の武装隊員かな? ……そうだね。体幹のバランスを見て、
「……先輩」
「はあ。紅さん。その辺にしておいてくれますか」
驚愕の表情でユウヤを見る同僚に、溜め息をつき紅を睨む。
「いやいや。別に警戒させるつもりはなかったんだよねえ。不快に思ったのならば謝罪しよう。ただ、マコト隊員が少々油断していると思っていてね。こんなことも出来るのだよという、ちょっとした忠告をしたまでさ。長期間の国外移動から解放されて安心しきっているようだったから、気を引き締めさせる意味合いでもある。それに、付け加えるとするならば、マコト隊員は
滔々と語る元隊長に、ユウヤは再度溜め息を吐いた。何が探りは入れないようにする、だ。下手に行動すれば、それだけで情報を与えてしまうというリスクがわかっただけに、警戒レベルは上がる。それは、真雪にしても慎重な言動をさせなければならないことと同義だ。
(いや、警戒は十分にしておけってことか)
紅が敵となることは、自身の考えを躊躇せず開示する言動上、低いと見られる。ならば、敢えて伝えることで、体験も加味した指導と考えるのが自然になる。
恐らくは、それが今、紅の抱える問題に繋がることになる。
そんな、勘繰るユウヤに、紅は話を180度転換させた。
「そう言えば、お前と会うのは久々になるなあ。4年くらいだっけ?」
「……? それがどうかしましたか」
疑問符を浮かべるユウヤに、紅は楽しそうに笑った。
「ブースへ行くぞ。ユウヤ、お前の今の実力を計り直そうと思う。模擬戦だ」
突然の紅の言葉に、ユウヤは静かな興奮と共に、鳥肌を立てた。ユウヤにとっては、それが願ってもない話だったからだ。
◇
「金かかってそうですね」
手続きは良いのかと問う前に、強引に紅は3人とリュウトを家に引き込んだ。
紅の住まいには、下核領域へと繋がる階段が備え付けられているらしく、5人は連れられるように地下へと潜る。
下核領域では死にかけたせいもあって身体が勝手に強張るが、辿り着いた先はそこが下核領域とは思えない巨大なシェルターだった。コンクリートで固められた、広々とした空間には驚くばかりだ。
「訓練場と避難所と兼ねているんだよ。ここで明かすことは出来ないが、氷獣も介入できないレベルの軍本部へと繋がる避難経路に、複雑化したマップ、トラップが備え付けられている。なかなか面白いだろう?」
部屋の話はそこで区切りを付けて、紅は早速といったように準備運動をしている。そんな様子に、ユウヤはふとからかってみたくなったらしい。
「隊長とこうして模擬戦闘やるなんて久しぶりですねえ。本当にやるんですか?」
「私は最近は身体すら動かしてなかったから。怪我から回復してないお前にはそれで十分でしょう?」
ユウヤのジャブには応じず、紅は冷静に応じ、あまつさえ、カウンターを繰り出した。
「ほうほう。大きく出ましたなあ。身体を動かしていない癖にまだ、勝てると思い込んでいるんですか? 言っておきますけど、俺の怪我ももう癒えてきているんですからね」
「馬鹿言え。ユウヤにゃ、私に勝つなんざ到底無理だろうよ。少しは自分の実力を正確に計れるようになってから吠えてみな」
「……過去に縋り付きすぎて、静かに隠居できないおっさんよりかは吠えてみせるさ」
「……この糞餓鬼が!」
「ああ゛っ!?」
ユウヤと真雪、あとはリュウトが端から見ているなかで、ユウヤと紅は最初は穏やかな会話だったのに、あとから段々と物言いが強くなってきていた。それほど昔からの間柄であったのだろうと窺えるが、それにしても、マコトはこんなに通常で感情を出すユウヤを見たことがなかった。第一、気を遣っていたのか、さん付けをしていたのが隊長呼びに変わっている。
両者は一定の距離を保って位置につくと、構えを取る。ユウヤは光学銃を、対して、紅は武器は見えない。
「いつも通りのルールで行こうじゃないか。基本なんでもありで、使えるバッテリは私が1本で、お前が2本だ。怪我は怖いから出力は通常の威力の10分の1だ。特殊弾は殺傷力のあるものは禁止。それ以外も使用制限としてそれぞれ2本までとする。勝敗判定はどちらかのバッテリが尽きるか、実戦レベルに換算して戦闘不能判定となるかってことで、それで良いでしょう?」
「……ああ」
紅のルール説明に、ユウヤは二つ返事で頷く。既に、戦闘態勢に入っているようで、ユウヤから感情が消えていく。
更に、ユウヤたちを取り囲むように、四方100メートルの巨大な電磁シールドで覆われた空間ができる。それにより、視界の先にいるユウヤたちの姿や背景が微妙に黄色く染まった。
そこで、真雪が首を捻る。
「バッテリって、よく知らないけど。あれでしょ? エネルギー弾射つやつ。ふたりの使用できる本数が違うけど、それって良いの? フェアじゃなくない?」
真雪の疑問は素人目ではもっともだが、マコトの方でも疑問には思うところだ。ただ、その制限によって両者の用いる武器が根本的にことなることをマコトは気付いた。
銃系統の武器はバッテリにあるエネルギーを放出するため、消費効率は高いと言えよう。それに対して、ブレード系統の武器はその場に保持するため、銃ほどエネルギー消費は激しくはならない。
しかし、それでは消費量の多い銃が有利となろう。はじめから距離を取って開始する戦闘では、間合いを広く攻撃が可能な銃が適当だ。そもそも、近接系統は文字通り近付かなくては攻撃が当たらない。そこに不利有利が表れる。
もっと言えば、開始前から相手の姿を捕捉できているのが大きい。トラップにさえ注意していれば、相手の間合いの外から攻撃しているだけで十分なのだ。
それでは、やはり、戦闘は公平ではない。条件を平等にしなければ、それは実戦形式とは言えない。けれど、本来ならば真っ先に平等性を謳いそうなユウヤは沈黙を保っている。
ここで、マコトが言えることは1つだけだった。
「よくわからないけれど、取り敢えず先輩に任せておきましょう」
これで負けたら何かあるわけでもなし。姫野ユウヤと仁義紅のことは、後々聞けば良い。
「ジジィ、負けんなよぉ!!」
傍らで子供が叫んでいる。へらず口の効かない少年ではあるが、知り合いの負けは我慢ならないらしい。模擬戦なのに少年の方がいやに力が入っていた。
お互いにらみ合い、言葉がなくなる。
開始の合図はなかった。お互いを知っているからこそであろうが、戦闘は突如始まった。全くの同時。示し合わせた風もなく、ふたりは動き出す。
先手を取るように攻撃を開始したのは、当然のようにユウヤであった。待機状態にあった光学銃を紅へと向けて、勢いよく乱射する。
紅はその動きを見つつ、最小限の動作でそれを待ち構える。躊躇ないユウヤの弾幕が、紅を襲う。外から見れば、それ以前に行動が少ない紅がこのあと蜂の巣にされると予測することだろう。
だが、光学エネルギー弾は紅へは届かない。確実に捉えている射線を無視して、寸前のところで弾は阻まれる。
電磁シールドである。もとは光学銃や光学剣と同様のエネルギーを使用して、電磁力でできた防御幕を展開させるものだ。大きい質量をもつ物体の攻撃を防ぐことは難しいが、エネルギー弾に限っては攻撃を遮断できるという性能だ。
紅の行動は攻撃意思ではなく、防御意思であったのだ。
但し、ユウヤも紅の戦闘スタイルを理解している。乱発する光学弾にはエネルギーを必要とするが、それは常時展開の電磁シールドでも同じことである。だから、いつかは破れるし、なんならシールドの耐えられない高威力での射出によって突破することも可能だ。
そして。
(本来の仁義隊長の戦闘は近接メインだ。だから、絶対にどこかで近付いてくる。その情報を如何に操作でき、間合いを保てれば俺の勝ちだ。仁義隊長もわざわざ模擬戦闘でアレを持ち出しては来ないだろう)
間合いを支配すれば、ユウヤに分がある。問題なのは、バッテリ残量を正確に把握することに限る。こちらは戦闘技術がものをいうだろう。紅もそれを見越しての模擬戦闘と見ているはずだ。ユウヤがどれだけ成長したか、紅へ納得させるのが根底にあるのだ。
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