第12話 ユレイヤ


  ◆


 遥か昔から連なる世界の歴史。その一端にはある時から顔を出すようになった1つの種族がいた。


 ──ユレイヤ。


 史実を語るにはなくてはならない存在である。

 初出はもう3万年前ほどにもなる。それから姿を消しては現れての繰り返しで、一部では伝説上の存在にまで持ち上げられるようになった種族である。


 ユレイヤの存在はいつも戦争の渦中にある。


 世界を揺るがすほどの劇場に、ユレイヤは介入する。

 あるときは世界を左右する戦争に現れ、両者を滅ぼした。あるときは亜獣戦争で苦しむ人種を助け、戦争の終わりを告げた。またあるときは、たまたま通りかかった戦争でその場を凍りづけにして、帰って行った。

 世界の分岐点の多くにはユレイヤの姿が映るのだ。


 それほどの実力が確かにあったのだ。


 ユレイヤは数少ない異能力を生まれたときから纏う"雪"の一族として知れ渡っていた。大気中の水分を操り、氷雪を自在に変化させるのだ。一般人には到底なし得ない芸当を平然とやってのける集団である。

 どうしてそんな異能が開花したのかは未知の領域だ。そもそも実験サンプルとしての存在、或いはDNAを入手することは困難を極めていたし、そんなことをしようとした愚かな輩はユレイヤ本人たちによって悉く滅びの途を辿ったのだ。おいそれと手を出せるものではない。


 また、ユレイヤという部族を神の使徒として崇め奉る存在が台頭してきたことにより、その扱いは最早別次元での戦争にまで発展していくことになる。その圧倒的な強さに人々は感動し、神の種族と敬虔の眼差しを向ける。強さの象徴としても世界の上に君臨し、崇められる地位にいたのだ。


 但し、無闇矢鱈と姿を現す存在というわけではなかった。陽の目を浴びることは避けていたし、ちょっとやそっとのいざこざでは見る影すらない。介入の場はいつだって歴史の分岐点なのだ。


 その影響で、あるときは伝説上の存在だと信じられていたものであるし、そもそもここ数千年ではユレイヤの存在を目視できた人物は聞いたことがないということもあった。既に滅びの途を辿っているのではないかと疑う時代はいつでも発せられる。どこにも所属せず、共闘せず、いきなりやってきては場を荒らし、身を潜めていく存在であるため、血眼になって探しても見つからないのは仕方のないことではあるが。


 その存在は未知数であり、力は強大だ。彼らの意に反するはどんな人種、獣種も死を待つのみ。

 圧倒的な力を謳われていた最強人種。それがユレイヤである。


 だが、その種も神格化させてできた宗教を遺して、学術上では既に滅んだと言われている。



 ▽


 信じられない。


 迎撃の準備は調えてきたはずだ。ジィはそう捉えて指示を出してきたつもりだったのだ。自身が今率いている部隊は国外領域に選抜されるくらいには優秀な者の集まり、謂わばエリートだ。そして、相応の武器が与えられ相応の行動を、国への忠誠を義務とされる。だからこそ、彼らは使命が為に優秀なのだ。失敗などあるはずがない。


 だが、どうだろう。

 目の前の氷獣かいぶつを見て同じことをもう一度言えるのか。多対1で、攻勢もこちらにあるというのに、均衡が保たれている。

 ジィはつい数分前の自分自身を呪う。だが、そうも言っていられまい。自身には課せられた役割があるのだと言い聞かせる。


「いいか! やつを包囲した状態で斉射するんだ。少しでもやつの攻撃モーションの時間を与えるな」


 戦況は拮抗状態だ。寧ろ圧してすらある。制の指示に従い、銃撃部隊が連続的に射撃を行う。少しでも敵に動きが見られたり、銃撃の僅かな合間に隙を作ってしまったりしたら、威力の高い砲撃や電磁放射でこれを凌ぐ。実に訓練された者たちの動きだ。

 しかし、それは場面だけ切り取って見たときの話である。


 実際は。


 また1人隊員が倒れる。犠牲になったのは電磁操作士EMerの1人だ。隊員は喉を手で押さえる仕草をした後、枯れていくように気を失った。これで戦闘に参加する制の部隊は37人になった。

 対して、氷獣は無傷である。


 あり得ない。

 いくらなんでもそれはあり得ないだろうと制は考えたくなる。人種程度の体格で装甲が破れないなど、あってたまるものか。仮に強力な装甲を持っていたとしても、体面を少しずつ削っていけると踏んでいた。

 なのに。

 氷獣は棒立ちで攻撃を全て受けきっている。更に、棒立ちなのにこちらの戦力が少しずつ削がれていっている。


「砲撃部隊。一気に火力を集中させろ!! 銃撃部隊は火力は維持だ。こちらに近付かせるなよ!」


 こうなれば自棄になってきている。

 とはいっても制は既に撤退も視野に入れつつ、火力弾圧でのダメージの推移を確認しようと考えるくらいには冷静だ。もし、ここで氷獣を倒せる見込みがあれば負荷を掛けつつ安全に撤退が可能だ。

 こちらには機動力が備わっている。倒れた隊員には悪いがこれ以上の消耗は部隊の壊滅と同義だ。


 最悪のシチュエーションは想像に難くない。だから、そうならないように慎重に撤退の隙を見出だす。この化け物は今の装備では倒せない。もっと言えば、氷獣はあまり好戦的でないように見える。なれば、下手に追撃をしてくるようなものでも無さそうだと判断する。


 知能レベルの低い氷獣はそういうものだ。


 だから、その氷獣のを制は見抜けなかった。最も、これで見抜けるような者がこの場にいたこともなかったし、そもそも想定できる者はこの世に1厘といないだろう。


 よって、


『……イナイ』


 氷獣の唸りを聞くことを叶わないまま、その時が必然性をもって迫っていた。


「砲撃!!」


 制が叫ぶ。

 あとに続いて火力の雨が氷獣を襲う。数十秒にもわたる猛攻だ。先程までとは異なるそれは、火力の嵐となり集中的に降り注ぐ。

 最早、オーバーアタックだ。このような火力のごり押しはSランクの特に上位にあたる氷獣が相手でなければしない。


 本来はこのような火力のごり押しによってそれがマイナスになることもあり得るのだ。その1つとして視界が悪くなる。もし、これで耐えられようものならカウンターが起こりやすい。

 また、全火力の放射など普段複数体の氷獣を相手にすることには不向きなのだ。空間把握を無視した包囲陣など危険にも程がある。


 圧倒的火力の押し付け。

 これはすんなりと氷獣は受け入れたのだ。流石にこれは平気では済むまい。いくら装甲が厚くとも、集中砲火は堪えられないだろう。


 制は考える。


 ――結局。


 それも甘かったわけだが。


「な、なんだそれはっ!?」


 氷獣を守るように周囲に何かが展開されている。屈折率の影響からか氷獣の姿がぼやけて見えるが、本体は無傷。それはつまるところ、展開されたものが集中砲火を受けきったと見られる。

 まさしく防壁だった。


「まさか、それは!!」


 瞬時に制が気付く。その存在の正体に。銃撃が効果がなかった理由にも準じてたどり着く。全てを遅まきに理解した。

 光学銃の欠点を1つ挙げるとするならば、弾丸が光エネルギーを凝縮したものであることだ。よって、弾速勝負や火力勝負になれば特殊弾よりも有利であるし、そもそも使い勝手が良い。しかし、光エネルギーを凝縮させているゆえ、何かの拍子にエネルギーの分散が起こりやすくなるのだ。例えば、霧、電磁シールドには弱い。エネルギーの透過性能が無いことも踏まえると、ガラスや氷には純粋な火力でしかダメージが通せないのだ。


 そして、氷獣は棒立ちで攻撃を受けきっていたわけではない。恐らく薄い氷の膜でも展開されて本体へのダメージを削減させていたのだ。だから、注意すべきは砲撃のみであり、それは盾によってあっさりと凌がれてしまったというわけだ。


(――指示を出さねば)


 戦闘の切り替えをする必要があると制は考えに至る。


 それにしても、どうだろうか。

 氷獣はこちらの攻撃を的確にいなし、少しずつ戦力を削ってきている。それだけの知能がこの氷獣には備わっているということか。


 だとすれば。


 制は考える。

 自らがとるべき策が氷獣の考えの範疇にあったとしたら。


『指令だ。情報班と電磁操作士EMerは退け。今すぐだ』


 この時点で全てはもう遅い。

 部隊が流れるように動く前に、氷獣は力を示す。


 ピシリと。


 どこからか嫌な亀裂が走る音が聞こえた。盛大に銃声が響く中、普段ならば耳まで届く音ではない。けれど、制は確かに不自然に鳴る音を聞いた。

 流されるままに見上げる。

 同時に、開いた口が塞がらなくなった。


 氷塊が頭上から部隊目掛けて急速に迫る。

 けれど、隊員は目の前に夢中で気付いていない。


「退避、退避だ!」


 制が吠えた。

 通信で伝達してなかった為に、何事かと気付く隊員が数名で多くは現状をまるで理解していない。2次元での戦闘を多くする部隊にとって、空間による攻撃は要所でとてつもない効果を発する。


 ――故に。


 隊員の大半が何がなんだかわからないまま氷塊に巻き込まれた。


(…………おのれ)


 即座に気付いた制は何とか落ちてくる氷塊を躱したが、率いていた部隊には大打撃だ。後からそれが本域の地盤が崩落したものと知った。最早、戦闘ができる状態ではない。自らの安全の確保はできた。だが、当然のように氷獣は目の前を立つ。

 制は睨む。恐らく、これも氷獣の仕業に違いない。こんな偶然があっては堪らない。


 こちらを見下す氷獣が何を思うのか。わからないが、自身の終わりは悟った。

 反して、脳はフル回転に状況と氷獣を分析していた。そこである予測へと至る。


 そう。

 この氷獣は――。


 確信に至った瞬間、制は自身の首が落ちたことに気付いた。



  ◇


「ユレイヤって、あのユレイヤですよね? 伝説上のものかと思ってました」

「史実には存在している。だが――」


 マコトは気を失ってしまった少女を覗きこんでいるが、ユウヤは周囲に氷獣がいないかを改めて確認していた。

 避けられたであろう事態はユウヤのミスだった。極度の緊張状態が続き疲れが溜まってきていることや、先の戦闘で血を流しすぎていたことも要因かもしれないが、言い訳できるものでもない。


 ただ、少しの休息は必要だと身体が訴えかけてきているのは認めざるを得ないか。早急に脱出して安全を確保できれば文句はないが、そこまで甘い展開を期待するには不十分だ。


 そして、数分前の動きは完全に少女のお陰であるとユウヤは断言する。


 ユレイヤの少女。

 氷雪を自在に操る一族であり、外方領域の氷獣を一撃で行動不能にさせた技量は、底知れない能力を感じさせる。信じられないがほぼ確定事項と見て良いだろう。信じないとしようにも他の解釈はできそうもない。

 そう捉えてしまえば、他も多少は納得のいく節が出てくる。少女は白のワンピースを纏うのみの厳寒な地帯を歩くには少々無防備であるにもかかわらず、平気でいたこと。凍り付けにされていた数時間後には呼吸が安定し、意識が回復したこと。ユウヤの伝えた西暦に極度に動揺を示したこと。。根拠が揃いつつある中で否定をしようにも彼女に失礼だろうし、殺気を受けたとてユウヤはこの少女を見捨てる予定は今のところない。


「先輩」


 マコトがユウヤへ声をかける。ユウヤはマコトの方へ振り向くが、そこでぎょっとする。


「先輩がこの娘を助けたいという気持ちはわかります。それにここが異例の地であって足下がおぼつかなくなる気持ちもわかります。それに僕も先輩の方針に基本的には従うつもりです。ですが――」


 マコトはユウヤを睨んでいる。それは決死の反論のように、マコトは思いを伝えようとしているのだ。けれど、それは見限ることや不満を発散するためのものではなかった。ここでこそ言えること。マコトはユウヤをまっすぐに睨み、意見を述べた。


。迷いがあるのは当然だと思います。先輩はうちの隊長であるわけでもありませんし。それでも、指揮権を持つ者として毅然としているべきだと僕は思います。それで間違いがあるのであれば文句だって言いますし、本当にわからないことであれば――僕も力になれるよう努力はしますので、堂々と決断をしてください。不安は伝わるものです。大体、何ですか? さっきのあれは。思考の放棄はしてはいけないと先輩がいつも言っていることでしょう。それを先輩が放棄してしまって、後は僕に丸投げですか? 許しませんよ。任を全うしてください」


 口を挟むつもりは毛頭なかったが、ここまでマコトが矢継ぎ早にものを伝えてくるとはユウヤは思っても見なかった。圧倒され、口が自然に開く。

 マコトの言うことは正論だ。

 自身が迷いすぎて端から見れば結論をマコトに丸ごと託してしまっているのだろう。自身の身勝手で周囲を危険に晒していたのだ。剰え、自分の得意分野でさえ取りこぼしていた。


 言い訳がどうのこうのではない。

 言い訳を考える前に、行動を正当化させる努力をしろ。


 先読みにも近い事柄を当たり前のようにやるのは難しい。

 だが、それほどまでにマコトはユウヤを期待していたということだ。

 やるせない気持ちになる。酷く悔やむ。


 それでも、まだ首の皮一枚繋がっているのだ。足掻くために、理想を追求するために、まだ倒れるわけにはいかない。別に無謀をせよと言っている訳ではないのだ。無謀にならないように先を読めるだけ読めと、マコトは暗にそう伝えているのだ。


「……悪いな」

「! ……いえ」


 あとに続くことが見つからないままあやふやな謝罪をしてしまうが、マコトは指摘しない。やらなければならないことが他にあるからだ。だから、問題はクリアしたことにしてへ行く。


(まずは脱出。だが、彼女の容態で様子を見てからが良いだろう。それよりも体力の回復に専念した方が先か)


 興奮状態にいたことで無暗に動いていたが、ユウヤ自身容態は芳しくない。氷獣に受けた傷が響き、痛みが走る。骨折まで至っていない分ましではあるが、身体を動かせるレベルは低下している。これ以上無理でもして傷口が開いたならば死まで驀地まっしぐらだ。血も足りていない。栄養源は小さな固形物でも事足りるが、鉄分の十分な補充にはならない。


「まずは休息を取るべきだろう。装備の状態も気にかかるしな」

「この娘はどうする感じですか?」

「様子見でいく。正直、容態から何までが不可思議にもほどがある」


 ユウヤたちの手に余るこの少女は意識が取り戻した後に再度話し合いとした方が良いだろう。下手に拘束すれば逆に反撃を受けるかもしれない。

 少女とは言え、彼女はユレイヤなのだ。

 強大な力を持っているが故に、対話はより慎重にしていく必要があるだろう。その場合には公開できる情報とそうでない情報を明確にしておかなければなるまい。


 史実を語るべきかも悩みの種だろう。


 ――聖戦。


 それはエラルティアとユレイヤの史実にも残る種の生存を賭けた戦争である。

 そして、ユレイヤはその戦争により滅びの途を辿った。


 ユウヤが知っているのは精々これくらいの内容であるが、もしかすれば少女が関わってきた問題である可能性も高い。なれば、ユウヤたちは知らないうちの因縁の敵となろう。こちらがそうは思わずとも、目の敵にしているのであれば、先ほどの怒りにも辻褄が通る。

 だとすれば、怒りに身を任せて暴れでもされればユウヤたちの命は一瞬で排除されるのではなかろうか。その意味でも変な地雷を踏みつけることはしてはいけない。


 ユウヤは眠る少女を見下ろす。

 ゆったりと穏やかに眠る表情は怒りに狂うものでも絶望に打ちひしがれるものでもない。


 せめて、彼女の夢にまで絶望を与えないで欲しいと願うばかりだ。



 ◆


 そこは照明は正常に点っているものの、不気味と表現して差し支えのない部屋である。あらゆる器具と薬品が部屋いっぱいに占領し、だが申し訳程度にある通路を歩くことには慣れた調子で白衣の中年がその場を支配する。

 辺りには様々な色、匂いのついた薬品が立ち並ぶも厳重な密封状態を保つ。もし、これらのどれかが何かの拍子に下手に混ざり合うこととなれば、この地帯は有害な物質を吐くことになるだろうが、中年はお構いなしに作業を続ける。


 不意に部屋の扉から3回だけ叩かれるノックの音がした。中年は応答しないが、その行為によって扉がゆっくりと開けられた。


「失礼します。博士ドクター

「おお、待ってたよ」

「……もう少し整理したらどうです? そのうち本当に爆発するかもしれないですよ」

「フッ。なにぶん研究こそ我が本意気なものでね」

「片付けられないことを言い訳にしないでくださいよ。弟子でも取ればと進言しても拒否するし」

「弟子は要らんよ」


 姫野ユウヤへゆったりとした構えで挨拶が交わされる。

 ユウヤが博士と呼ぶ中年の男はいつでも自身の研究室を根城とし、引き籠もっているような中毒ぶりだ。その分、戦闘における特殊弾の開発、改良に関わる人材としては、実績もあり重宝される存在だ。


 それでも、整理整頓できない人物へもう少しどうにかならないのかと言いたくもなるものだ。結局、博士の性格を知るユウヤにしてみれば溜め息で流すしかないのだが。今回は優先すべきは他にある。


 元々の目的であったこともあってか、ユウヤが研究室へ入ると、数々の薬品の中でも殊更に目を引くものがテーブルの真ん中に置かれていた。紫の液体が瓶に入れられているものである。

 覗きこんで確認する。


「……これが、最新版の氷解薬ですか?」

「その通り。厳密には実験段階だけどね。……お前さんが言うようなものだよ。氷雪そのものを分子の振動、即ち熱の運搬によってではなく、新たに氷解されるような物質として生み出された薬品に相違ない」

「……ですが、多少色が違いますけど」


 通常のものよりも透き通っているとユウヤは感じる。博士が何か手を加えることで変化が生じたのか。

 ユウヤの感覚は間違ってはいなかったようだ。指摘に対して博士の目が光る。おもむろにごそごそと周囲の荷物を漁り出すと、取り出してきたのは紫色の液体、即ち氷解薬だ。但し、こちらの方が色は濁っているように思う。


「氷解薬というのは従来のものはこのような色をしているが、私の研究成果では無駄な物質の除去により調整を可能とした! 具体的には、従来の氷解薬を詰め込んだ弾薬は戦闘には使いづらい。効果が遅い分だけ対氷獣にもならないものだ。しかし、こちらは少々異なる」

「効果の早さでも改善したのですか?」

「それもある。だが、残念ながらこちらはまだ実験的に過ぎず、戦闘段階として見ても実用性は低いことだろう。勿論、効果としては大体同じだ。それでも、こちらの氷解薬の本質は別にある」


 自慢がしたいのか、博士は勿体ぶるような聞いていると眠くなりそうな口調で続ける。


「性質を他に組み込めるのだよ」

「つまり、別の弾丸と併用できると?」

「それもある。性能は同じだが入れ込む量はこちらの方が少なく使用が充分となっているから例えば、特殊弾に組み込んで搦め手での戦闘がしやすくなる場面が増えるだろう。1歩ずつではあるか、私たちは獣種の圧倒的な力に近付いてきている。……しかし、これは副産物に過ぎないのだよ。この本質は――」


 口下手なことに変わりないが、嬉々として自身の成果を饒舌に語る博士は少し溜めを作ってから、言葉にする。


「特筆すべき局所的な親和性だよ」

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