第11話 銀髪藍眼

 ◇


 心臓の音が消えない。どっ、どっ、と激しく打ち付ける胸が次第に苦しくなるも、気配を消すことに精一杯の力を回す。殺気が少しでも漏れれば、一瞬でばれるやもしれないと脳が全力で抑制してくる。


 距離は相当取ったはずだった。けれど、その距離自体が元々ゼロであったかのような錯覚に襲われていた。気配を出す真似でもすれば、本能で追ってきそうな感覚だ。下手に動くこともできないでいる。このまま災厄が去るまで待つのだ。

 腕の中に抱える少女が目を醒ますことはないが、無自覚に抱き止める力が込められていることにも気づけない。


 結局、氷獣は物凄い勢いで下核領域へと登っていくところを隠しカメラからの映像によって確認した。

 安堵が訪れる。幸運にも下核領域から開けた巨大な穴から逃走を計ったと判断されたようだ。

 汗が引き、寒さを覚える。緊張感が最高潮にまで達していたお陰か気付かなかったが、相当発汗していたらしい。寒いのに汗をかくとは、場違いにも程がある。


 ユウヤは正直生きた気がしなかった。あれから相当の距離を取り、動きを伺っていたのだがどうやらこちらに向かってくることはなさそうと認知してから脱力感が半端ではなかった。

 疲弊した精神で分析するに、どうやら氷獣の方が動転していて安直に事を選択したらしい。知能レベルの低い氷獣のことだから当然なのではないかとも思われるが、あのまま僅かな気配でも辿って来られたら形跡は隠せてもいずれ生き残れる術は無くなっていただろう。

 氷獣が荒れたことは匿う少女にも関連するとも理解した。あの立派な氷華から無理矢理少女の身柄を確保したのだ。氷獣側の視点からすれば強奪されたと捉えられてもおかしくはない。


 ただ、気掛かりになることはある。

 追手の存在である。


 確かに、こちらとしては下核領域に潜伏することになった1つの理由でもあるし、鬱陶しくも思っていた節はある。けれど、その追手が彼奴と接触することになればどうなるか。動転している氷獣は追手を標的とし襲うかもしれない。それは人種として申し訳なさが立つ。自分達も生死の境を彷徨っている立場なので後悔という言葉で安易に結論付けるつもりはないが、無暗な殺生はあまり好まないこともあり無事であってほしいとも多少は感じていた。


 それはそれとして、今後どう動くべきか。生きた気持ちがしていない状況で次を考えなくてはならないのはなかなか苦しいものがあるが、状態は急速に変化していってるので遅れをとることは許されない。ここからの行動選択が正念場であると踏んでいる。

 氷獣もあり、中四強国もあり。あの化け物は下核領域へと登っていったが、もしかしたらまた元の場所に戻ろうとするかもしれない。そうなれば、ここもまだ安全になったとは言い切れないし、別の作戦を提示しておくのが損はないだろう。そもそもここはいつでも危険が付きまとう。


 と言っても、やれることは限られてくる。

 こちらは相当奥にまで足を踏み入れてしまっているのだ。まだ見ぬ領域を進むのも引き返すのも地獄である点に代わりはないが、まずは上昇を優先するべきだと判断する。もう外方領域にいたくない気持ちが強いという意味合いもあるが、上昇可能な地点を新しく探さなくてはならないからだ。

 流動する状況に拠点を造り上げるのは外方領域ではあまり利点がないので、どうにかして安全に下核領域にまで戻りたい。


 ただ、上昇するにしてもそれがちゃんと下核領域と繋がっているかも問題になる。中には下核領域を挟まずに本域へ一本道もないことにはないが、それは層の問題で現実的ではない。


 何にしても、突破口となるものがほしい。ユウヤはそう思う。僅かに道を切り拓くことができれば本域への上昇手段も現実味を帯びてくるものだ。


 ――それは案外すぐ側に落ちていた。



 ◇


「……………………んぅ」


 どこからか漏れた音がユウヤの耳に届く。微かな音として空間上に響いたそれは、ユウヤには聞き覚えのないものであった。氷獣ではない。その音はどこか甘く、少女のような声に等しかったからだ。考察からしてマコトでもないし、或いは何か機材の音でもないことが予測される。


 ……となると。まさかの事態だ。回復が異常にも思っていたが、数時間ほどでこれほどとは驚愕の一言につきる。


「……マコト」

「恐らくは」


 確認するようにマコトを呼ぶと彼もユウヤと同様の考えに至ったのか、こちらの側までやってくる。ユウヤは少女の身体を抱き起こし様子を伺う。

 両者の視線はユウヤの傍らにいる少女の方に向けられた。


 ――そして、その瞬間はあっさりと表れる。

 こちらが手を尽くすことはなく、何の奇跡に頼ることもなく、単なる眠りから目を醒ますかのように。


『■■■?』


 少女の眼が薄く開き、何かを呟いた。

 彼女の透き通る瞳はアクアマリンのようで、白銀色の髪と合わせると幻想的な場所に佇むお伽噺の中の少女のようだった。

 少女は朧気な表情であたりを確認しようとし、視線を彷徨わせる。そこで抱き留めていただけに、視線が近くにいるユウヤと重なった。


 驚きが隠せない。

 あの氷付けの状態からすぐに意識が戻るとは思ってもみなかったから。


『■■■■■?』


 少女の口から小さく漏れる音はユウヤに向けて放った言葉であろうが、生憎とユウヤには理解できなかった。


(……理解できない? それって)


 心当たりが脳の端に引っ掛かる。聞いたことはあるのだが、というよりも、それは史実をなぞった者であれば誰でも気付けるのが要因か。

 現在、世界で使われている言語は1つのみだ。大昔に新人類が世界が統一した。それが今を生きるユウヤたち人種である。


 ――エラルティア。


 約1万1000年前から登場した、今も存在する人種であり、現存する中で最古の人種にあたる。そのときから扱われている言語が現在でいうところの旧エラルティア語だ。

 今はレイジアーナという新たなる人種の登場により、統一された言語として旧エラルティア語をベースとした(新)エラルティア語が用いられる。


 人種・レイジアーナが登場したのは今から約900年前である。そしてエラルティア語が改編されたのは300年前だ。言語が理解できないということはつまり、そういうことだ。


 そんなことをユウヤは考えている最中、少女が何かを叫んだ。


『■■! ■■■!? ■■!!』


 少女が無理に身体を起こす。

 突然の行動にユウヤはバランスが崩れて抱いていた身体をうっかり落としそうになったが、なんとか耐える。


 しかし、少女はこちらを確認すると自ら飛び出すようにしてユウヤから放れてしまった。警戒心が強い。当たり前と言っては当たり前だろうが、こうまで身体が動けるのかということも相まってユウヤにしてみれば困惑の方が強かった。流石に光学銃を構えるまでには至らなかったが、いつでも対応はできるようにしておく。


『dare?』


 少女が訊ねている。

 辛うじてではあるが、ユウヤはやっと彼女の言語が何なのかを予測できた。


「マコト」

「何です?」

「お前、旧エラルティア語は喋れるか?」

「彼女の使っている奴ですか? 完璧には知らないですけど、エラルティアの人間ならある程度はわかりますよね?」

「……ああ、だが彼女のは相当に古いものだろう」

「――まさか」


『■■■■■■! ■■■■■■■?』


 ユウヤとマコトが会話している内容をネガティブなものと受け取ったのか、少女は強い口調で叫ぶ。あまり、この空間で大きな声は出さないで貰いたいが、まずは身の安全および互いの理解から始めるべきであろう。

 勿論、現状ユウヤが彼女に何か危害を加えるつもりはない。しかし、伝わらなければ彼女の警戒は薄れることはないだろう。


『落ち着いてはもらえないだろうか。それと、もう少しゆっくり話してもらえるとありがたい』


 旧エラルティア語で片言に伝える。エラルティア語と似てはいるが相当変化の大きい言語であるため伝わっているかも怪しいところだが、まず制止を促した。

 すると、少女にも言葉が伝わったらしい。彼女の話す言葉自体がユウヤの知っている旧エラルティア語と少々異なっていることもあるが、コミュニケーションの手段で用いることが可能なら満足しよう。


『貴様、やはりエラルティアの人間よね?』


 警戒はしているが、意思疎通は優先してくれているようで先程よりもゆっくりと言葉が届いてくる。それで、ようやく理解できてきた。だが、武器を身体に保持していたのは間違いだった。


『ああ、そうだが』

『……ならば敵よ。助けてはくれていたようだけど、最早疑う余地はない!』


 一層の警戒心を表に出す。少女は何やらこちらを既に敵認定しているようで、殺意となってユウヤに伝えられる。心なしか、この空間一体も冷えてきた感覚がある。


『ちょっ、待て待て!』

『問答無用! エラルティアは我らが敵。我らが地を脅かす絶対悪者!!』


 鋭い眼光と強烈な殺意がユウヤを突き刺す。眠っていたときのあどけない幻想的な少女とは大違いだ。ただ、向こうは向こうですぐには攻撃してはこないようだ。こちらの武器を警戒してのことか。或いは情報がほしいとかであろうかと推察できる。

 けれど、気にかかる言葉が彼女から出ていた。


 "エラルティアは絶対悪者だ"、という如何にも漠然とした敵認定が奇妙に思えた。


『もしかして古きレイジアーナの残党か?』


 エラルティアとレイジアーナの2つの種が人種の代表となっていて、現在は互いに協定を組み共存共栄が成り立っている仲だ。それでも、2つの種が争ってきた時代もあったはずだ。そんな中で生きてきたというのか。例えそうでも数百年前の話であり、こちらとしてはどうしたものかという事案にもなるが。


 だが、少女の言葉はユウヤを呆れさせた。


『レイ、…………なに、そいつらは? まさかエラルティアの首謀者の名前?』


 この少女が何を言っているのか、ユウヤには理解できなかった。恐らく、それはお互い様で把握もなにもお互いが理解の外にいる存在ではなかろうかとユウヤは思う。


『待ってくれ、本当に敵ではないんだ』


 少女が遂に動こうとするが、急いで手で制止のポーズをする。ユウヤは混乱し、弁明に走るばかりになってしまったのも悪かった。少女が苛立つ。


『その保証がどこにあるのよ!!?』

『保証はない。まずは誤解を解きたい。……君はと言ったね?』

『それがどうしたというの』

『俺はその意味からわからない。教えてはくれないか』


 懸命に訊ねるが少女の怒りは増すばかりだった。


『……どこまで愚弄するか。…………貴様たちでしょう!! 我が一族を滅ぼそうとしているのは!? そうやって油断させて私のすべても奪おうという魂胆でしょうが。私は断じて許さない! 貴様たちを、貴様たちエラルティアのすべてを!!』


 質問が返されないことはもどかしくも感じるが、それにしても彼女の激昂の具合は只事ではないともう理解している。だが、説得ができようもない。敵同士の理解ならば話し合いは無意味になってしまう。

 そこまで思い、ユウヤは両手を挙げた。手に持つものは何もなく丸腰だ。一連の流れを見ていたマコトも武器を放りユウヤに倣う。


『何の真似よ?』

『話がしたい。俺たちは君のことを何一つわかっちゃいないんだよ』

『だからそれがどうしたというの。私にとっては立派な――』

『今は34119年だ』

『……………………!!?』


 これは賭けだ。

 彼女に自分達のことを理解してもらうために、けれどそう長い話はできない中で、重要となるのは相手がすぐに理解できる事実をつきつけることができるかどうかだ。

 そして、最も効果的な単語があるとすれば今回は西暦になる。


 単純だ。

 彼女は旧エラルティア語を用いる。

 彼女は900年前に誕生したレイジアーナという人種を知らない。

 彼女は


 1000年前以降に生きる人々が目の前にいることはなかなか信じることはできないが、それでも彼女の言葉を信じれば賭けに乗る価値はあった。悪い意味でユウヤの眼に吸い込まれそうな表情を少女がしている。


『…………嘘』

『……』

『………………嘘よ。み、んなは、……。私は…………。かげ兄さま。魅涼みりょう萊ラらいら。……ウソ、だと』


 ペタりと。


 殺意まで乗せていた威勢はどこかへと消え、床に崩れるように座り込んでしまった。信じられないのも確か。けど、真に受けてしまった少女にはそれを振り払うだけの力が見えない。


『…………』


 何かに気付いたように少女は氷の壁に目を遣る。すると、彼女の表情は愕然としたように口をあんぐり開けていた。


『……これ、わたし?』


 顔に手を当てて確かめる仕草を見て、ユウヤは目を伏せる。


 ユウヤは何も言えなかった。

 身の安全を優先したがために伝えたが、彼女の言うことを信じるのであればその次にどうなるかは目に見えていたものであろうに。


 ――これが始まりの出会い。

 そう呼ぶには何とも虚しい邂逅だった。


 そして。


 この時だけは、ユウヤは油断していた。油断、というよりかは失念の方が合うだろうか。覚醒してすぐに悲しみを背負う少女の姿に気を取られ過ぎていて、周囲の警戒を怠ってしまった自分のミスだ。ここがどこか少しでも忘れていた自身を恥じる。


(くそ、またか!?)


 氷獣の気配がする。一瞬、またあの驚異なる氷獣が戻ってきたと錯覚したが、音の方角からして別のものだ。


「マコト、氷獣が近くにいる。警戒を強めろ東に100だ」

「こんなときにまたですか!?」


 不運とは重なるものだ。

 ユウヤは光学銃を拾い、そのままぐったりと座り込む少女の方へ駆け寄る。今の彼女は抵抗する気はないようで俯いてぶつぶつと何かを呟いている。

 しゃがみ、目線を合わせようとすれば、彼女のアクアマリンの眼が光って見える。


 それは涙だった。

 空虚な彼女の眼は死んだように陰を落とし、そこからつーっと1本に流れ出ている。その表情に声をかけるのは躊躇われる。だが、ここから生還するためには彼女にも動いてもらわねばならない。最悪、ここまで運んできたように空主公エアロ・ローダーを用いるが、できれば移動の早い自力が推奨される。


『ここは危険です。移動しますので一緒に』


 ユウヤが手を差し伸べるも、少女はそれを拒んだ。子どもが嫌々をするように、首を横に何度も振る。


『いい。……良いから、もう私を置いていきなさいよ。私は貴方たちを殺そうとした』


 非常に困惑する。ここで置いて自分達だけで逃走するなど考えすらしていなかった。大体、これで逃げるくらいならあの氷華から解放していない。それに、殺されそうになった覚えはない。ユウヤは自棄になって少々強く説得する。


『君は絶対に置いてはいかない。君が今、どんな状況に在るのか知る由もないが、だからと言って見捨てるなんて絶対にできない!』

『私が要らないって言ってるの!! もう、意味なんてないから……。こんな世界、私には必要ない』


 言葉は尻すぼみに小さくなっていく。何もかもを諦めた、投げ出した言葉だ。動く気は端からなさそうで、何を言っても響かない姿がユウヤにはとても惨めに見えた。

 それが他人事には感じられなくて、どうしても手放すことはできそうになかった。


「どうしますか、先輩!?」


 マコトが指示を仰ぐ。感情と生存意識との板挟み。どちらかを捨てるなんてできないユウヤにとって、この選択は苦痛だ。

 普段は冷静に物事に従事するが、人の生死がかかれば別だ。本来であれば取っていた選択肢が当然のように取れない。


 ――ここは。


 ゴゥと何かが壊れる音がした。選択肢をとる前にやって来てしまった。体長2メートルほどの氷獣がユウヤたちのいる空間に顔を出す。いくらなんでも早すぎる登場に、ユウヤの思考は止まった。


 立ち上がり、駆ける。


 指示もなにもない。

 自らが動き、その結果が突進だった。氷獣の腕のリーチに届かないギリギリの距離を見極めて、そこから光学銃を乱射した。バッテリもなにも無視した銃撃によって、氷獣に浴びせる。

 その行為が功を奏したのか、氷獣が怯む。


 その動きを待っていたかのように、追撃が氷獣へと飛び込む。マコトの狙撃だ。急所となる顔面にまともに入ったのを確認し、ユウヤは更に光弾を連射する。


 もう、まともな特殊弾は用意していない。あっても数発、使い所を誤れば終わる。だから、通常弾で何とか推しきるつもりだ。

 どうにかして隙が作れれば上々だ。その間にマコトと少女は逃がす。後付けのようにそう判断する。マコトは嫌がるだろうがここで全滅するよりかは良いだろう。

 まさか、マコトにまでこれほどの窮地へ連れ込んでしまったことへ、申し訳ない気持ちが募り何とか逃がすつもりでいる。反論は聞き付けない。これは何がなんでも貫き通す絶対事項だ。


 だが、戦闘には終わりがくるのは付き物だ。ここでその要因を示すならば、ユウヤの光学弾のバッテリ切れである。


 そこでユウヤが指示を出す。


「マコト、その娘をつれて逃げろ!!」


 そしてすぐさま氷獣へ立ち向かっていく。


 ――マコトは指示を聞いただろうか。わからない。でも、時間稼ぎにはなる。あと、せめて彼らが無事に帰還できればと願うばかりだ。ここは突破させない。

 氷獣の薙ぎ払いをギリギリで交わし、転がっていく最中にバッテリ交換をする。接続が完了しまた光学銃を氷獣へ向ける。


 しかし、次の攻撃が来る。

 間に合わない。

 動けない。


 これは流石にもう無理だと察する。走馬灯が流れていくように、時間が延びていく感覚がある。残念ながら何かを思い出すこともなかったが。結局、何も出来ない。


 人生は呆気ないと、ユウヤはそう思った。



 ◇


 一部始終を少女は見る。

 青年が叫んでいる。


 その光景に疑問が湧く。

 どうして、自分を見捨てないのか。置いていけば残るは自分のみ。うまくいけばあの化け物の手からは逃れることができるだろう。


 でも、しない。


 何とも愚かな行為だと少女は思った。何とも偽善に満ちた行為だろう。命を語る人間が、簡単に命を捨てたいのか。

 馬鹿馬鹿しい。共倒れだ。


 けれど。

 何故だか。


 男の後ろ姿が、嘗ての兄の姿に重なった。



 ◆


『行け、真雪まゆき! 魅涼、萊ラ。あとは頼む』

『御意に』

『駄目です、景兄さま!』


 けれど、その声は届かない。掴もうと伸ばした手は空を切る。魅涼と萊ラががっちりと真雪の身体を抱き締め走っている。

 遠ざかる兄の背をただ見ていることしか、今の真雪には叶わなかった。


『……雪景ゆきかげ兄さま!』


 ――私を置いていかないで!!



 ◇


 死んだと確信した。

 けれど、生きていると実感した。


『君は……』


 それは舞い降りたによって生み出されたものだ。


 目の前にいた氷獣が不自然に動かない姿をユウヤは確認する。どうなっているのかが理解が追い付かない。

 が少女によるものだという1点を除いて。


 気付いたときには少女がユウヤの身を氷獣から隠すように立っていて、その先にキラキラと散りばめられたがある。白銀色の髪が揺れる。

 光景を間の当たりにしたユウヤの時間が止まる。美しく凛と輝く少女の容貌が映る。


 しかし、まだ終わりではない。

 氷獣はまだ少し動ける。少女が氷獣の餌食にされてしまう。


 吼える。


 何を伝えたのか自分でもわからないまま、必死で少女に呼び掛ける。だが、届かない。このまま行けば危険だ。


 だが。


『永久凍土の世界に還りなさい』


 少女に一撃入れることなく、呆気なく氷獣が頭から前方に受け身も取れないまま倒れた込んだ。

 瞬間、気付く。

 これは氷だ。氷獣を生み出した圧倒的な氷の空間に閉じ込め、全身を固定してしまえるほどの威力で、難なく凍り付けにしてしまったのだ。


(この娘は…………)


 生まれたときから氷雪の力を体内に閉じ込めていて、あっと言う間に空間を温度で支配する能力を持つ一族。

 遥か昔に滅んだとさえ言われていた、希少で、奇跡の、圧倒的強者が揃う、神と見紛う戦闘集団。


「――――ユレイヤ」


 戦闘の終わりと少女の存在を悟ったとき、少女は音もなく倒れた。

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