第7話 領域と思惑①


 ◇


 正直に言えば、ユウヤは全身が氷付けにされている人間を見たことがなかった。ユウヤは軍に所属している身であるため、そのような噂や報告を聞いたことが決してなかったわけではないが、こうして目の前に実在すれば、驚く限りである。

 更に言えば、こういった事例への対処の仕方がわからないが為に困惑を隠せないでいる。既に見放すことはないと決断したが、だからといって氷付けにされた人種をどうやって保護すればいいのかなど最善となる行動がまるでわかっていないのだ。


 だが、困惑する状況が長引いてしまうことも避けねばなるまい。この空間は上層に位置する下核領域よりも遥かに危険であることが知られている。ユウヤにとっては未開の地であるため想像でしか言えないことではあるが、数々の調査報告書を見ればその深刻さは十二分に理解ができる。

 大体、未だに安全な状態が続いている事自体が奇跡に近いのだ。もし、氷獣がいる空間に運悪く落ちたとなれば、十中八九餌にされることだろう。


 それでも、身の危険が差し迫っている状況よりもユウヤは目の前の少女を見逃すことは出来なかった。


 氷華に直で手で触れる。そこで、どくんと小さな波動をユウヤは感じた気がした。生きているやもわからない存在に気をかけ過ぎた結果、まやかしとして感じ取ってしまった可能性もあるが、ユウヤはそれが事実であると勝手に捉えることにする。


 今度は少し距離を取る。そして、ズボンにあるポケットの1つから、小さな弾丸を2つだけ取り出した。但し、外装は無色透明になっており、紫の液体が中に入っていることを確認できる。


 ――氷解弾リキッドファイと呼ばれる弾丸である。


 撃てば氷または雪のみを液状化させる力を持つ弾丸だ。紫色をしている割に、他のものには作用されない弾丸の一種であり、利用法としてもその1点のみに尽きる。目まぐるしく変わる戦場では瞬間的な攻撃性や補助性がないためにあまり使われない弾丸と見做されていて、用途としてもこうした遭難した際の便利グッズとも捉えられている。但し、使われないが生存率を上げるためには遠征には常備しておくことが重要であるともされている。それが、今まさに使おうとしているものだ。

 ユウヤ自身はこの弾丸自体がどんな原理を持って氷を液状化させているのか理解していない。どうやら熱操作によるものではないらしいのだが、ただ現状は理論ではなく使えれば良いはずだ。


 氷解弾を装填し、氷華へと銃口を向ける。狙うのは氷華の足下だ。下手に少女へそのまま撃って何か問題があれば取り返しがつかなくなってしまうことだろう。いくら氷や雪のみの液状化としてのものであったとしてもそれが人間に害を持たせるやもしれないことも考慮の上だ。

 訓練で取り扱ったことはあるが、それきりであるので慎重に使いたい。よって、足下へ向ける。撃つことは躊躇わない。確かに、氷華の美しさのせいで傷付けることを厭う気持ちもあるが、最終的に問題とするのは少女のみだ。よって、無感情のままユウヤは氷華へと弾丸を撃ち込むのだ。



 ◇


 いた。

 マコトは巨大な穴の縁で双眼鏡を当てながら下を覗き込んでいた。すると、丁度ユウヤの姿を辛うじて発見できた。どうやら無事みたいだが、行動のすべてを捉えることができるわけではない。それでも生存を確認できたことでマコトは安堵する。


 すぐな危機的状況ではなさそうであるため、一旦、自身の警戒を上げるために部屋の脇に避難する。


 荷物は側に纏めておいたが、これからどうするか、うまく結論づけることができないことは事実だ。

 この場から呼びかけて応答を促すべきであろうか。いや、それは現実的ではない。一見してそうしてしまった方が楽なのではないかとも考えがちになるが、現時点でユウヤのいる場所を考えると、それは愚策になる。


 ユウヤはマコトがいる下核領域ではなく、そのもう1段階下の階層に位置する外方領域にいるのだ。光を通しにくい外方領域は下核領域とは違い生態も異なってくる。そして、下の層に行けば行くほどその生態はより脅威的になりやすいものであるということが知識として共有されているものであった。

 従って、ここでマコトが無理矢理ユウヤと連絡を取ろうとすればどうだろう。例えば大声で叫ぶとなれば、近くに脅威になる氷獣がいたとき、マコトの行動はユウヤの危機へと繋がり兼ねないだろう。


 また、いくら外方領域の方が危険性が高いからと言って、マコトのいる場所が果たして危険ではないと問いかければそれは断然NOだ。そもそも、先ほどの戦闘で身に染みている。少し前の内容を即座に忘れてしまえるほどマコトの精神は出来て等いない。

 勿論、現状としてまたすぐに敵となる存在が襲撃してくるやもしれないのだ。警戒しない方がおかしい。


 このことから、危機的状況は去ったものの、それ自体が一時的に過ぎないと言うことを念頭に置いておく必要がある。だから、これから先もマコト自身、軽率な行動は出来ないしそれも踏まえた上でこれからどう動くべきかを考えねばなるまい。


 取りあえずは、何か連絡手段或いは合流手段を得なければ話にならないと、マコトは結論づける。本来であれば自ら考えて最適解を見いださなければならないが、それでもマコトはユウヤの方がそちらへ導いていけることを確信している。というか、自分自身がそうできる自信が皆無なのだ。であれば、自分より出来る人間に頼るほかない。


(……降りるか?)


 流石に軽率すぎるのではないかと一時は却下した内容だ。確かに、今は下核領域にいるマコトの方がユウヤよりかは安全ではあるが、残念なことにマコトは遠距離専門である。近接戦ができるものがいなければ何も出来なくなることは必至だ。だったら、無理矢理にでも降下してユウヤと組んでいくことの方が安全ではないだろうか。それにユウヤには敵影感知の技術がある。客観的に見ても優秀だ。

 安全性がそれで数パーセントでも上がれば良いのではなかろうか。


 そう思ったとき、穴から変化が起きていることに遅まきながら気付いた。

 紫色をした煙が巨大な穴からゆったりと出てきたのだ。一筋の線が狂うことなく上へと昇っていく様は、まるで線香の煙のようだ。


(火か? いや、それはないか。音がしないことを鑑みれば戦闘によるものでは流石になさそうだが。……であれば化学物質か?)


 そう思い、再度穴へと近付く。

 その煙は薄紫だ。弱く昇っていくそれにあまり心当たりがないが、それ自体はおそらくユウヤの行動であると言うことは想像できる。


(流石に突飛な行動に出たわけではないよな? だからといってこの煙が何かの暗号であるかどうかも示し合わせてはいない)


 ユウヤの行動から察するに有害なものではないだろうが、その不気味な色から自然と避けるように穴を覗き込む。だが、煙が意外と視界を遮っていて下の様子がどうなっているのかが追えない。

 そこでふと思い出す。


「確か、この煙の色……。氷解薬リキッドファイって言ったか? 身動きが全く取れていないわけではなさそうだけれど」


 氷解薬は氷を液状化させる性質を持っているものとマコトは記憶している。そう考えて自身のポケットを探ると紫色をした液体が透明な外装の弾丸に収まっている。あまりに使う機会がなかったが為にほとんど放置されていたものだ。それが氷と反応して紫色の煙を出すということはわかっていないが、色として心当たりを探ってみてもこの弾薬にしか行き着かなかった。


 であれば。


 ユウヤが果たしてどんな目的を持ってどんな行動に移っているのか訳がわからなくなってきた。但し、その理由がわからないにせよ、マコトはユウヤの傾向から決して無茶なことはせず、淡々と論理的に言動を及ぼすことが多いことは知っている。

 このことから察するに、おそらくユウヤは何らかの意志に従って今の行動に至っていることだろう。目印か。いや、だったら別物ものを使うだろう。予想をすることは難しいが、絶対にそれは無駄にはならないだろうと判断できる。


 そこまで考えてマコトは溜息を吐き、遂に思考を停止した。


(……降りるしかないかな)


 状況判断が難しい現時点において、マコトは考えることはやめる決断をした。

 但し、それは決して投げやりになったのではない。マコトは自分自身が遂行部隊であると認識している。そしてその頭脳は別の誰かに委ねた方が結果として良くなるとも思っている。

 考えることをやめたことで、それはむしろ自分自身が的確な行動をするための行為であると考えが行き着いたのだ。

 けれど、それでユウヤの責任として押しつけるつもりは毛頭ない。これはマコト自身の選択であり、結果として自分がどうなろうともう知ったことではない。


 最善策を自身で考えた故の問題だ。


 だからこそ、すぐにマコトはユウヤへの支援の準備へと取りかかる。




 ◆


「急げ、ここを抜ければ安全域に入る」


 吹雪が向かい風となって襲い来る中、髙村隊隊長の髙村ショウゴは後ろをちらと振り返った後、強い口調で命令する。

 その先にいるのは同隊員である馬場ノボルと目刈ライの二人だけだ。即ち、もともと7人であった髙村隊のうち、残りの4人の姿はここからは認知することは出来ていない。しかし、髙村はその事実については考えることはせずにただ進むことに専念していた。


 前方は暗く小さな白たちが絶え間なく身体にぶつかってくる。天候は酷いものといって良いだろう。髙村自身、置かれた立場がこうでなければこんな危険な場を進み続ける真似など絶対にしない。

 しかし、今は進むしかないのだ。留まれば吹雪にまみれ最終的には身動きが取れなくなってしまう。遭難している中、一刻も早くこんな荒れた天気から抜け出したい気持ちでいっぱいになるが、残念なことに周囲には雪が平然と積もっていく平野しか存在しなく、身を隠す場もない。


 正直に言えば、こんなに酷い天気になる前に馬場から忠告を受けた。


『隊長~、この際下に降りることも考慮に入れた方が良いと思うのですが』


 但し、暢気に、けれども意思のあるその忠告を髙村はあっさりと却下した。


『いや、このまま進む』

『しかし、ここから先天候は酷くなりますよ~? 目の前にある雨雲見てくださいよ~。アレ、やばいっすよ』

『いいや、に降りるぐらいならずっとこのまま進んだ方がましだ。人数も欠けている状態で潜れるわけないだろう』

『確かに、下はここよりも遙かに危険ですけど、避難と休憩も考えれば下に降りた方が良いでしょ~』

『いいや! このまま進むぞ。それに中四強国の連中の影もある。下手に袋の鼠になってはならん!』

『……了解しました』


 結局、髙村隊の3人は今いる場所をそのまま進めることにすると決断する。


 髙村の言うことは決して間違いではない。吹雪が襲い来る中で下に降りることになれば、天候が回復した後に面倒になる可能性も高くなる。上で雪が積もってしまえば、その影響により下核領域から上へと戻る手段が少なくなってしまうのだ。最悪、どこかの国、領域に入らない限り上へ上がることが出来なくなることもザラにある。そのリスクも踏まえれば、そのまま進むこともやむを得ないと捉えられるであろう。

 それに、髙村が一番危険と位置づけているのは氷獣の存在である。氷獣は下核領域以降の層で多く存在する身体が氷で出来た化け物のことだ。心臓部があることは確認されているため、無機質な相手ではないが、その存在自体が謎で包まれている。一体、どんな条件で氷獣が発生するのか、その強さはどれくらいの幅であるのか、果たして増え続けるのであれば今何体が下層に蠢いているのか。

 調査はすれど、その結果が果たして正しいのかさえ不明な状態だ。一応、氷獣にも強さに関するランクを設けているが、その強さの領域を超える存在が出現することだって容易にあり得るだろう。


 現在、氷獣の強さのランクとしては簡単なものでSSS、SS、S、A、B、C、D、E、F、Gの10段階である。一番下のGランクは軍事ではない一般人がなんとか倒せるレベルであるくらい弱い存在であるが、強さがSランクを超えればまさしく次元が違うと言えるだろう。最強ランクで言えば簡単に国一つ滅ぼすことができると言われていて、現在は確認できるだけで3体はいる。

 但し、だからといってそれが国を襲い壊滅させたという話は聞かない。何故なら、それらは例外なく獣種となる者に支配されていて、その者たちは国を滅ぼそうとはしていないからだ。その気になれば人種が何千万と死ぬ状況で油断しないなど出来るはずもないが、今のところは戦争がない限り、どこかの国の領域にでも滞在していれば平穏な生活が保障されているのである。


 そのような氷獣は、下核領域以降の層に数多く存在している。それは国家領域に含まれ、領域の保証がされている下核領域を除いて存在するのだ。国家で運用されている場では飼われていて戦闘訓練にも使われもするが、それ以外では国家が所有するものよりも遙かに強い氷獣がごろごろといるのだ。

 例えば、Aランクの氷獣は10人の手練れの部隊が無理せず時間を要して倒せる程度である。国で飼われているのは大体Aランクが10体ほどであろうが、それらがこの世界で見れば数え切れないくらいにいるのだ。束になってかかられれば人種国家はあっという間に滅ぼされるであろう。

 救いと言えば思考力が低いので単調な行動しかせず、対応がしやすいことであるが、もとの力が強大であれば結局、対応は難しいだろう。


 話を戻そう。


 氷獣の強さ、怖さは隊員の一人一人が知るところであろう。それは髙村もその枠を漏れない。そんな強さを持つ氷獣たちがいる下核領域に降り立ち、最悪長期滞在しようものなど、自殺行為も良いところだ。3人で一週間、下で行動しようものなど、生き延びることの方が難しいのだ。

 だから、髙村から下へと降りるような判断は即座に切り捨てられた。


 そこに後悔はない。


 けれど、その選択の結果、今まさに危機的状況が続いているのだ。


 無茶であろうか。


 ネガティブな考えが髙村の頭の中で過ぎる。しかし、行動決定をしている状況を覆すことなどできない。覆そうとも思わないが、頭の中に一抹の不安として残り続けているのだ。

 髙村はゆっくりと背後を確認した。馬場と目刈の両隊員は黙々と髙村の指示に従い進み続ける。


(目刈がいたのは幸運だったな)


 目刈は補給士ローダーの役割として小隊に組み込まれている。仕事は主に同隊の隊員への補佐だ。遠征には欠かせない補給の役割を一手に引き受け、時にはトラップ精査の機器も持ち歩き安全に進める支援を行う。戦闘に陥った場合は、参加せずに後方支援をのみを行うため、逃走の足かせになったりと足手まといにもなりやすいが、現状況で彼女が髙村の側にいることは奇跡にも等しい。


(まあ、うまく隊列に仕組んではいたんだがな)


 髙村が同隊の中で一番連携が取りやすいと考えているのは今も髙村の後を追う馬場ノボルだ。彼は色々言うこともあるが基本的に髙村の指針に従って行動する。だからこそ、隊列を組むときには馬場を目刈の側に置き、何か予期せぬ自体になったとしても、その3人の中で連携が取りやすいようにしたのだ。

 逆に髙村が取り扱いにくいと考えているのが小込マキノと姫野ユウヤの2人である。小込は戦闘員ではなく軍医としての隊に同伴しているが、彼女は自身の経験の多さ故に意見を隊長という肩書きに物怖じせずに髙村へ言ってくる。そのため、彼女と意見が食い違うことがあれば隊がまとまらないことが多々ある。結局は髙村が命令として実行を強行させることができるが、髙村は彼女のその姿勢を疎ましく思っていた。


 姫野ユウヤは小込と違った意味で扱いづらいと感じている。

 もともと、姫野は髙村が引き抜いてきた人材である。姫野がもといた隊は軍の中では有名な方で、そこに所属していたがために解散を機に姫野に目を付けた。実際、その小隊の動きは洗練としていて、常勝とも言える部隊であったのだが、いざスカウトして蓋を開けてみれば髙村の理想とは程遠いものとなっていた。

 姫野は優秀な人材である。髙村は普通にそうは思う。


 しかし、それは彼が持つ技能に過ぎなかったのだ。戦闘レベルは平凡の域を出ず、そのためにスカウトした髙村にとってはまるで意味がなかったと断言できるほどだ。後に、相沢タケルと白峰マコトをスカウトしたお陰で軍内部隊ランキングとして反映される戦闘訓練では勝率が上がりはしたが、それで満足出来るはずもない。

 結局、姫野ユウヤという存在は髙村がうまく起用できる人材ではなかったのだ。



 このようにして、髙村は(半分は自身の責任もあるかもしれないが)2人を毛嫌いしていた。

 極めつけは、2人が遠征中に忠言をしてきたことに髙村を更に苛立たせた。


 3人での行動とはなったが、ある意味では髙村は動きやすくなったとも言えた。指示を出せば手足のように動く馬場と目刈がいて、毛嫌いする姫野と小込がいない。更に言えば、姫野の腰巾着のようになっている白峰の姿もいない。相沢がいれば文句はなかったが、現状満足が出来る部分もあるため一旦は腹の中に収めておくことにする。


 思うことはあるが、それよりも髙村は先を急ぐ。なんとかして任務を全うせねばならないという思いが彼を動かすのだ。

 隊員の半分が今、消息不明だ。ここから生き延びることが出来て生還したとき、どんな責任を取らされるか定かではない。もしかしたら、降格処分を言い渡されるやもしれない。下手をすれば軍を解雇される可能性もある。


 しかし、ここで任務を全うできれば話は変わってくるのではなかろうか。

 今回の任務は非常に重要なものだ。それが成功すれば自然災害も相まって情状酌量の余地も出てくることだろう。


 大体、遠征自体珍しいことであるのだ。氷雪の影響と遙か昔に起きた宇宙躍進や聖戦、その他数々の出来事により、結果的に通信や移動等に関する技術は衰退の途を辿ることになった。

 だからこそ、こういった「遠征」という任務の重要性は跳ね上がる。被る責任は大きかれど、得られる功績で補えば良い。昇進は難しいかもしれないが、うまくいけば特別報償ももらえるのではなかろうか。


 目の前にある利益のため、髙村は自分自身の力で進むのだ。

 栄誉がもうすぐ待っているのだと。


 偶然か、幸運にも天候も少しずつ回復の兆しが見えてきていた。髙村の栄光を示すものか。

 それとも――。


『隊長』


 そこで通信を受ける相手は今まで何も言葉を発することがなかった一番後ろを淡々と歩く目刈からのものであった。

 自分自身を高揚させ進み続ける髙村は彼女の言葉に気を引き戻された。そのせいか、髙村は隊員には気付かれないところで舌打ちをした。不快感が一気に募る。

 それが言葉にも反映された。


『どうした?』


 振り返ることなく問う。鋭く、重い言葉で圧倒しようとする。相手を見ないこともそれを助けている要因になる。


 だが、普段の目刈であればこれでびびってしまうが、なぜかこのときの彼女はケロッとした様子で返してくる。


『ここから先は一体どうするつもりなんでしょうか?』

『決まっている。任務遂行のため、上海シャンハイ連盟を目指す』

『他の隊員との連絡はどうするのですか?』

『そんなもの知ったことか。今は任務を全うすることに集中しろ。もうじき、セルヴェイに入る』


 何を当たり前のことをと首を捻る。そして、更なる不快感を募らせた。どう行動していくかは数日前にも伝えてあるはずだ。わかりきっている事であろうにもう一度訊ねてくるとは、なんたる決意の弱さか。いや、彼女のひ弱さを責めても仕方ないかもしれない。

 だが、それでも知っていることをなぜまた聞いてくるのか、不快感とともに違和感も一緒に感じるようになった。


 ただ、感じたのはそれきりで、興味もすぐに失せてしまったが。


『……そうですか』


 髙村は背後で最終確認を取るような目刈の声を聞いた。

 自分達の近い未来にどうなるかは全く予期せずに。

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