第5話 迎撃②
◇
襲い来る氷獣の猛威に、ユウヤの額からは汗がドバッと噴き出る。光学銃での迎撃はいっぱいいっぱいだ。何とか要所で回避、迎撃はできているものの、倒し方がまるでわからない。
強さから見てAランク以上。普段であればAランクを1、2小隊で相手取らなければ最悪全滅になるほどの強さである。それを第2階位のユウヤと第3階位のマコトの2人で対処せねばならない。前衛で相手をするところの
ユウヤは擬似的な
右から薙いだ氷獣の腕をしゃがみこんでかわし、隙になったところを頭に連射する。光エネルギーを収縮させた弾は頭を貫くことなく無反応に終わる。
しかし、氷獣には鬱陶しく思えるようで、前傾姿勢でユウヤに体当たりを決めてくる。
「ぐっ」
懸命に身体を逸らすが、今度は巨体からは完全に避けられない。クッションとして氷獣と自分の身体の間に光学銃を挟み込み、衝撃を和らげる。
だが、圧倒的な力を前に身体は呆気なく宙に舞い、そのまま吹っ飛ぶ。
「ぐがっ」
受け身はとったが中途半端だ。身体が氷の壁に叩きつけられ、床に転がる。
意識はある。
チカチカする目を前に向けようとしたとき、自身の身体全体を覆うようにして影ができた。
「……!!」
咄嗟に思い切り転がる数秒後には、氷獣の足が先ほどユウヤがいたところを踏みつけていた。
どすんと、強烈な地響きがユウヤを襲う。その揺れで三半規管が少しおかしくなる。攻撃は受けていないはずなのに、立ち上がろうとしたところでバランスを崩した。
『先輩!』
『無事だ』
見兼ねた後輩が通信してくるのを一言で返す。頭を左手で押さえ、立て膝の状態から光弾をばらまく。氷獣が嫌そうに頭を振り、その隙に立て直しをはかる。
『いいか、マコトは一撃入れるために備えろ。それが、うまく行こうとなかろうと、撤退する。こんなところで油を売っている暇はない』
『そのままじゃ、先に先輩が死にますよ!』
『安心しろ。俺が死ぬ場合はお前の退路ぐらいは作ってやる。俺のことは気にするなということだ』
『……了解』
1度は納得したものの、未だに葛藤を続けるマコトに無理矢理了承させ、ユウヤは氷獣と再度対峙する。
「……さて」
頭を切り替えて、どう相手取るかを巡らせる。幸い時間稼ぎならば得意な方である。タイムリミットは10分ほど。それまで十分に引き付けてやる。
(飛び道具はない。戦闘スタイルを近接戦に絞ってこちらの間合いで戦う。下手に相手の間合いに入る必要はない)
今ある情報を整理して、取捨選択する。この際、武器の消耗は避けては通れぬだろう。だが、今後のことは考えない。全力を以て相手する。
ユウヤは片手を背後に回し、腰についたホルダーから器物を掴む。
ユウヤの前で、氷獣がこちらを認識した。衝動的なこちらへ向かってくる。20メートルほどあった距離が一気に詰まる。氷獣が腕を振りかぶって叩き落とす。
モーションがわかりやすいためにこれは難なく回避に成功し、動きの流れで背後を取った。
後退しながら乱射する。氷獣に致命的なダメージを与えることができずとも、これで視覚を奪うと共に動きの制限くらいは出来る。ユウヤの方へと身体を向け直し、再度突っ込んで来ようとしているが、弾幕のお陰でモーションは遅滞する。
その隙に左手をホルダーに突っ込み、掴み次第氷獣の真下に転がした。
突如として煙が噴き出る。白い煙はたちまち拡散していき、辺りを濃霧で覆い尽くす。
──煙幕筒である。
急激な煙の拡散に、氷獣の動きが鈍る。その間に、物影にユウヤは身を隠した。肩で息をしている。たった2、3分で体力の消耗が激しい。10分も本当に持つのか怪しいが、煙の中の巨大な黒い影を目視して位置を把握する。
(有効打はないが相手の単調な動きに助けられてるな。下核領域は空気、風の出入りが"上より少ないお陰でまだ誤魔化しながら行けるが")
叩きつけられた背中と斬られた肩口が痛む。前者は一瞬息が出来なくなるほど強力だった。たった1発で全身打撲である。動けば痛むし、そのせいで機動が鈍ることも考慮にいれねばならない。
後者は初めに貰った傷であり、応急処置もしないまま凍結してきている。このまま放置すれば壊死してしまうが、何とか10分は保たせられそうだ。問題はない。
──ぞわり。
瞬間、身体に震えが襲う。何かわからない。けれど、衝動に従って前方に跳んだ。コンマ数秒後、背後で氷の壁が破壊される音を聞いた。勿論、
ユウヤは己の未熟さを恥じた。ほんの数秒、されど貴重な数秒を思考の海に手放した為に、死にかけた。煙幕を信頼しすぎてしまったが為に油断した。
(血を追ってきたのか!? それとも生命感知?)
正解は出ないがそうなのかと判断する。ここで議論してても、1つの可能性でしかないそれに囚われている余裕はユウヤにはない。あくまで可能性の1つとして念頭に入れておき、対処する。
追撃はない。
本能で動いているようなので、どこが攻め時か考えていないのは幸いしているのだ。転がした身体を無理矢理立たせて、距離を取る。バランスがとれずにふらつくが問題はない。
(生命感知は……、なさそうだが。であれば、マコトの方にも行ってる。……血を追ってきているとしたら厄介だな。煙幕が不利にしか働かない)
光学銃と煙幕の相性は悪い。光エネルギーを射出する光学銃は煙による反射、屈折でエネルギーが分散しやすくなる。結果、威力の低いガラクタも当然になってしまうのだ。身を隠す為に使ったものが、逆に不利益をもたらしている。
加えて視界が悪い。氷獣に臭いをかぎ分ける力があるとしたら五感のほとんどを視覚に頼る人間には天敵になる。
(火力で圧しきりたいところではあるが、そもそも俺は火力不足の装備だしな。……無い物強請りしても仕方あるまいが)
今のところは十分時間稼ぎができているとユウヤは判断している。ダメージは受けたものの、致命傷にはなっていない。足止めの役割は機能している。知能がないぶんだけ楽ではある。
ユウヤはホルダーから弾丸を2つ取り出す。
(足を止めるな。一歩間違えれば死ぬと思え)
心に言い聞かせ、今度はユウヤが間合いを詰める。光学銃の攻撃力が半減した中では至近距離での戦闘を強いられることになりそうだ。だからと言って、逃げ回るのも得策ではない。マコトの位置がバレれば作戦の意味がなくなる。出来るだけ注意を引き、釘付けにする。
狙うは足、頭にダメージを与えられないなら戦術を変える。
弾丸の1つを光学銃にセットし、直ぐ様放つ。
これは今までと性質の違う弾丸だ。
──氷結弾。
狙い通りに撃った弾丸は氷獣の足へと吸い込まれ、直後爆散する。
「──!!」
氷獣の気付きが早かったせいかユウヤの右から高速の爪が迫り、腹を抉った。更に左から攻撃が来る。こちらは尻尾だ。理解できぬ動きに対応できず、直撃した。
「ガッ!! ああああっ!!?」
軽々しく身体は転がり、氷壁に受け身もとれずに叩きつけられた。息が出来なくなり、肋が痛み出す。これ以上ない衝撃がユウヤを襲った。
だが、氷獣の方も無事という訳ではなかろう。煙幕の濃度が薄まってきた中で、氷獣のいる方向を凝視する。
何やらもがいているようだ。氷結弾がきっちり決まりはしたらしい。
口にべったりと溜まった血を吐き捨てた。気持ちの悪い感覚に襲われる。血が短時間でかなり漏出したお陰で頭がボーッとしてきた。
だが、五体は満足している。まだ、
「このやろう。一発一発良いダメージ入れやがって、くそが」
全力で飛び出す。
今までのダメージは自分の未熟さ故だ。Aランク以上とはいえ、化け物じみたスピードとかはない。他の隊員ならば無傷でやっていけるだろうに、ユウヤはと言うと反射神経も攻撃の精度も高くはない。奇襲するまでの過程を作るのは得意だが、その後の制圧、対処は苦手としている。一方的にやられているだけの現状に自分の能力の低さを呪う。
それでも、まだ立っている。言い訳せずに動けるまで突っ込む。ユウヤに出来るのはそれだけだ。
背後を取るようにして距離を詰めると、氷獣の片足が凍り漬けにされ、床と一体になっていることがわかる。
(これで時間を稼げるか……?)
強度の高さゆえ、強引に引きちぎる真似は出来ないだろう。もがく姿を見てもいい具合に氷結弾が固まっている。
そこでもう1発。念には念を入れて、氷結弾を同じところに撃つ。死角での銃撃に氷獣の防ぐ術はなくあっさりと弾着し、伝播し、凍る。
「流石は氷結弾だな」
数分くらいの足止めができそうであることに、ユウヤは素直に安堵する。数的問題でそう乱発はできない代物ではあるが、きっちり刺さったことで形勢の逆転に成功する。
但し、目の前の氷獣の力を見れば、足止めにしか繋がらないだろう。撤退をかましても追いつくだけの力はあろうし、やはりここで深手を負わせた方が後々楽になると判断した。
啼き叫ぶ氷獣の頭に光学弾を浴びせ、動きを阻害させる。想定通り、氷獣の動きが鈍り腕で頭を守ろうとしていた。
(傷は負ったが何とか足止めはできている。引き気味に相手しているから致命傷は避けられているのが大きいか……)
優位性が傾きかけているのを実感する。敵の動きが止まれば負傷の確率は大幅に下がる。このまま距離を取りながら銃撃していけば問題はない。
余裕ができた。
そう思っていただけだった。
『マコト、あとどれくらいかかる』
『……はい。あと5分半ほどです』
もう半分かと思うべきか。まだ、半分も残っていると見るべきか、判断に迷うところではある。が、そこまで場は悪くない。この状況下で同様に足止めを続けることができればマコトの最大火力を当てれば活路はある。
希望的観測に過ぎないものに従い、連射する。
ずくん。
とてつもない不安がユウヤを伝う。
うまくいっている。うまく行きすぎている。ちょっと相手にマウントを取れているというだけで相手がランクA以上であることを忘れてはいないか。
「ぐぐぐぐぐぐぐぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!!!!」
地響きにもなるほどの轟音が相次ぐ。
「うっ!?」
それは地盤への衝撃となり、床の表面がバラバラと砕け散る。突風にもなってユウヤの身体を叩き、壁際まで押し込んだ。地に足つけていても前へ進むことは許されない。耐えるのが精一杯だ。
耳にも通る奇声が頭を揺らす。前が見えない。
これほどの威力に耐えること十数秒、やがて収まり清閑とした。見れば、氷の床の表面が粉々になり、氷獣を中心に半径5メートルほどであるがクレーターができている。崩落の心配はないものの、その威力は異常だ。
じりりと足が後ろに下がる。距離は勝手に離れたというのに、下手に近づきたくない気持ちが勝っているのだ。だが、壁際にまで押し込まれていたためにこれ以上は引き下がれない。
身体が勝手な怯んでいたことに気づく。数秒前までの善戦が嘘のように、氷獣から放たれる殺気に退いてしまっていたのだ。
氷結弾は既に解除された。そちらをまだ気にしているのか、氷獣から襲ってくることはまだないが、時が立てば猛攻を受けることになるだろう。
耳元ではマコトが何か伝えてくるが、脳が一時的に麻痺しているせいか何も聞こえない。そもそも、マコトからの援護はまだであろう。支援に入ったところで始めからやり直しになることは明白だ
ここはユウヤ1人で態勢を立て直す必要がある。
(
光学弾とは別の弾をセットする。この弾に殺傷能力は比較的にない。それはこの弾丸が攻撃に特化したものでもないからだ。本質は別にある。
氷獣の姿勢が前傾になる。重心が下がり、両足でバランスを取ることで、足下の氷がピキリと鳴った。
(────来る)
瞬間に爆発。ユウヤの予測通りに氷獣が最短距離を目掛けて突っ込んでくる。駆け引きの様子はない。あったら逆に困るし、勝ち目はないだろうが、単調な動きであれば見切れば対応できる。
銃口を向ける。照準を合わせ、躊躇いなく引鉄をひいた。
距離は20メートルほど。放たれた弾丸は氷獣のスピードよりも遥かに速い。弾丸は氷獣に吸い込まれていく。
──だが。
氷獣に弾道を見切られていた。氷獣は腕でガードの構えをとり、正確無比に迎え撃つ。
恐らく、簡単に防がれるだろう。そして、一息つく間にユウヤの身体は穿たれ、呆気なく散る。氷結弾であろうとも、勢いで突っ込まれれば意味を為さない。
そんな未来が見える。
それがただの光学弾、あるいは殺傷力の強い特殊弾であれば。
その弾丸は氷獣へと着弾する前に作動した。突如として起こるのは爆発、いや、似ているがその類いではない。
突風だ。弾丸が割れると、中から勢いよく強風が周囲を包む。
烈風弾と呼ばれた特殊弾の1つ。感知式であり半径5メートルほどの相手へ作用する。突風となったものは敵を阻み、行動を阻害する。殺傷能力はないが広範囲に渡り効果を発揮する。
(直に浴びたな。ここからが勝負だ!)
急な突風に意外にも氷獣は対応できていないようだ。取り巻く嵐の中を懸命にもがいて腕をばたつかせ脱出を計ろうにも、逆に重心が高くなりバランスを崩した。
氷結弾のような形あるものではなく、手に捉えられず壊すことのできないものだ。当然、振るった腕は空を切るし、より行動を阻害する要因にもなる。
それに、この場は下核領域である。氷上のような嵐や雪崩が日常茶飯事なところに比べて平穏そのものだ。ずっとここで息を潜めているのならば対応は難しい。
(連隊にはあまり効果ないからアレだが、氷獣には意外と利いてるな。──だが)
それも終わる。
煙幕のような長期的な散布ではなく、早い段階で威力は弱まる。なれば、氷獣の動きも元に取り戻してくる。
だからこそ、次が生きる。
「ガアアアアアアアァァァァアアアア!!!!」
這い出るようにして氷獣が
もう1発烈風弾を浴びせればうまく行くのではないかと思うところ、ユウヤの次の1手はまた違った。
焦点の合ってない氷獣に弾丸を放つ。
氷獣の頭目掛けて、弾丸が不意に飛び込む。
そして、眩い閃光となって一面が強く輝きだした。
効果は覿面だ。強烈な閃光を目にすれば、視覚に大きく作用する。下手をすれば失明だ。
弾速が比較的遅く、対処されることを懸念してはいたが、無防備なところに綺麗に入った。
数十秒から数分は何も見えない状況が続く。なれば、間合いの感覚がない今の氷獣には中距離戦のリスクが減る。
氷獣が唸る。
端から眺めてから光学銃を構え、発砲。氷獣の足下目掛けて放たれた銃弾は素直に突き刺さり、辺りを氷結させる。
更に、1発。
こちらはまた別の特殊弾だ。
着弾時に辺りが揺れる。全体効果系の弾丸であり、
狙い通りに氷獣はバランスを崩し、立つことが困難になっている。五感を削りに行っているわけだから期待以上の結果と言っていい。
そして、駄目押しにもう1発。
烈風弾が氷獣の身体を呑み込んだ。
(特殊弾の使いすぎか? いや、それはどうでもいい。問題は……)
『マコト!』
『あと3分です!!』
目の前の状態を見積り、眉を顰める。
どれだけ粘っても1分足りない。足止めは成功してはいるが、この状況でただ足止めに徹していればいいわけではない。マコトが確実に仕留められる状態を、あと3分後にマコトに提供できなければ成功率は格段に落ちる。
(少なくとも、あと2発だけ特殊弾があればな)
特殊弾は光学銃のそれ以上に希少なものである。というよりも、バッテリーで稼働させる光学弾とは違い、特殊弾には数に限りが出てくる。バッテリーの充電は道中可能であるが、特殊弾を生み出すことは困難を極めるのだ。
そういった問題から既に在庫が尽きかけているのを。否、これで全部ではない。但し、今ユウヤが所持する弾丸はもう僅かであるし、残りはというと放り出した荷物の中だ。
それで、足止めが成功しているからといって氷獣に背を向けて荷物の方へ走るのは、愚策が過ぎる。
今ある在庫で勝負するしかないのだ。
そして、時間的に思わしくないところに直面している。これは自明の理だ。出し惜しみはしないが、その後のことも並行して考えなければなるまい。
但し、ユウヤには焦りはなかった。
足止めができなければ敗けの状況で、パニックを起こすこともなく、ただ冷静に氷獣を見つめる。
理由は簡単だ。
失敗すれば待ち受けるのは死だ。ここで焦っても成功率が下がるだけであるし、何しろマコトの存在が大きいというのが事実だ。
ユウヤは己の力を過信していない。それは能力を相対的に見て自明だ。だから、同時に思う。時間稼ぎは失敗するのだろう。
(これは死んだな)
焦りはないが、過ぎ行く時間と、それに伴う結果に失敗の2文字が想像できる。残り1分を通常弾でカバーするのは至難の業だ。学はなくとも攻撃方法がわかるのであれば対処はされる。戦闘開始時とは訳が違う。ヘイトも溜めているので猛攻が予想できるのは容易になる。
単調な攻撃手段のみになれば、動きを読まれもする。特殊弾が切れれば、形勢はあっという間に逆転するのだ。
但し、特殊弾が切れる前に氷獣が動く。なかなか攻め手に変えられない状況を嫌ったのか、氷獣は大胆にも床を叩きつけて氷の粉塵を巻き起こす。
直後、氷獣が吠える。
(……来る!)
咄嗟の判断で、氷獣の次の動きに防御体勢へ移行する。それは、氷獣を中心とした伝播する波状攻撃である。威力の高いそれは正面から受ければ身体をもろとも吹き飛ばされる。その可能性を軽減させるように、身を小さくし床に這いつくばらせる。
幸い、それで氷獣がすぐに間合いを詰めることは出来ない。だから、無防備に近い体勢で凌ぐことも可能になるのだ。
結果、凄まじい威力の風圧がユウヤを襲うことになった。だが、耐えられる。頭をガッチリと守っておくことを最優先に、何とか耐える。前は見えない。と言うより、前を見ることが出来ない。ただ、強大な力が過ぎ去るところを待つのみである。氷片が飛び散る。時々、思い切りユウヤの身体に直撃し身体が痛みで悲鳴を上げる。でも、耐える。
そして、それはいずれ収まる。
体勢を崩さぬまま、ユウヤは頑なに閉じていた目を開ける。
覗き込んだ先には氷獣が作ったクレーターが大きく円を描いている。その中心には不自然なほどに広がる罅がある。恐らく、氷獣のパワーに床が耐えられなくなってきたということだ。
だが、流石にそれで崩壊するほどこのフロアは柔ではない。ただ、ここ一体の氷層は把握している。そこから導き出されるのは少しの光明だ。
更に、捨てられたユウヤの鞄の中、そこから何やら急に音が鳴り響く。
それは、ただのきっかけに過ぎない。
不意の音に氷獣の意識が逸れる。
瞬間、千載一遇のチャンスを過らせた。堪らず部屋にユウヤの声が響き渡る。攻撃にも防御にも、回避にも転じることが出来ない今がチャンスであると悟ったのだ。
「マコトーーーー!!!!!!」
時間とは関係なしに素で叫ぶ。同時にマコトの収める銃口から一発の光学弾が射出される。ユウヤがその軌道を認識したのは僅かだ。だが、確実にそれは氷獣へと吸い込まれていく。
──否、マコトが狙い撃ちしたのは氷獣の足元だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます