第四話 あなただけは特別

4-1 起床

何億年前の地球は、幾度の環境の大変化により"大絶滅"が起こっていました。

これにより何千ものの生物は消滅して行きました。


しかし、絶滅とは何もすべてが悪いものだとういことではないのです。

過去の大絶滅はその直後に生物の大進化を齎している。

だが、ヒトが開拓、捕獲、密猟、環境破壊、毛皮などの輸出などによって自然ではない故意の絶滅の後には何も残りませんでした

我々はどれが正しく、そしてどれが間違いだったのかを今一度考えるべきなのです。

今いる種の保存、絶滅の危惧がある種には野生のまま保護を。


そして、絶滅してしまった動物の再現と復元。

私はそれを目指し、これからも研究を進めていきます。



――ロスアニ島研究所 資料②より









風の音や地面の音もない静かな空間。

かばんは数十個ある布団のなかのひとつで眠っていた。



――ガチャ…



「……んっ、、?」



不意に鳴ったドアの開く音でかばんは目を覚ました。

目覚めたばかりでまだ霞む目を擦り、辺りを見回す。

ドアを開いた音の正体はニホンオオカミだった。


(…あれ、どこかでかけてたのかな…?)


かばんは身体を起こして帰ってきたニホンオオカミに話しかける。


「ニホンオオカミさんおはようございます」

「お!うお!?あ、かばんか…!お、驚かさないでよびっくりしたじゃないかー!!」

「え!?あの、えっとごめんなさい!!」


ニホンオオカミは喋りかけられるとは思ってなかったのかかなり驚いているようだ。


「かばんもう起きてたんだね!てっきりまだ寝てるかと思ってたよ」

「あ、はい。ニホンオオカミさんが部屋に入ってくる音で目が覚めたので…」

「あー私が起こしちゃったってわけか」

「あ、いえいえ!ちょうど起きた時だったので大丈夫ですよ!」


ニホンオオカミはそれでもバツが悪そうな顔をしていた。その理由はかばんにはわからなかったが、いったいニホンオオカミは自分が寝てる間にどこに行ってたのだろう…、と疑問に思っていた。


「えっと、もしかしてニホンオオカミさん、どこかに出かけてました?」

「ふぇ!?い、いや?別に何処にも行ってないよ?ただ外の様子どうかなぁ…って思っただけだよ!」

「あ、そうでしたか…。ニホンオオカミさんが大丈夫なら僕も大丈夫です」


明らかに嘘をついている様に見えたので、かばんはさらに疑問に思った。

昨日一昨日でニホンオオカミとは仲良くなったつもりではいたが、まだまだニホンオオカミとは少し距離があるようにも感じた。


「ごめんなさい、ニホンオオカミさんに変なこと言っちゃって…。僕が寝てる間もここに居てくれたんですか…?」

「ううん。別に謝ることじゃないよー。ちゃんと私はかばんに何も無いようにずっとこの部屋で見守ってたよ!」

「もしかして昨日も寝ないでここに居てくれたんですか!?寝ないと体に悪いですよ…」

「大丈夫大丈夫ー私夜行性だし起きてるのは得意なんだー!そんなことよりお腹すいてるでしょ?ジャパリマン持ってくるから待ってて!」


話題を変えるようにニホンオオカミはそそくさと行ってしまった。

昨日とは違って少し他人行儀なニホンオオカミに戸惑いを感じたかばんだった。






かばんは布団から出て、昨日じゃぱりまんを食べたその机に座った。

暫くしてニホンオオカミがじゃぱりまんが入った籠を持って帰ってきた。


「そういえば昨日もちょっと思ったんですけど、じゃぱりまんって何処から持ってきてるんですか?」

「はむはむ…ん?あ、これ?なんかいつの間にか沢山入ってるんだよね。だから狩りとか行かなくて済むんだー」

「へぇ…この島にはラッキーさんみたいなのは見てませんけど、どこで作られてるんだろう」

『コノ島ニハボクタチト同ジパークガイドロボットハイナイミタイダネ。ソレト、今ハアマリ通信状態ガヨクナクテ検索デキナイカラ、ボクニモチョットワカラナインダ…』

「そうですか…ラッキーさんにとってもこの島も分からないことだらけみたいですね」


この島はやはり管轄外だからなのかラッキービーストにもわからないことがあるらしい。いったいどうやってこの島のフレンズは生きているのだろうか…。


そう考えながらかばんはピンクのじゃぱりまんを食べる。


「あ、ニホンオオカミさん。霧のほうはどうでしたか?今日も変わらず霧は濃かったですか?」

「んー、霧は今朝も濃かったねー。あの霧誰かが魔法みたいなので出してるのかって思うぐらい晴れないし、あれ以上濃くもならないみたいなんだよねー」

「んー、まだまだここから出るのは出来なさそうですね…ってあれ?」


かばんは自分のした質問の回答に少し違和感を感じた。先程はニホンオオカミは何処にも行ってないと言ったが、霧の様子を見に行ったような事で返事した。

かばんがニホンオオカミを見るとニホンオオカミは「しまった!」という顔をしていた。


「あ、えっとかばん?今私なんて言ったかな?」

「今朝も霧は濃かった…やっぱりニホンオオカミさんどこか行ってたんですね?」

「えっと…その…かばんのためにね、霧を見に行ってたんだよ、うん…」


ニホンオオカミはそれらしい事で言い逃れしようとするが、かばんはどうしてニホンオオカミが嘘をついていたのか気になって仕方がなかった。


「もし霧を見に行っただけだったら最初からそう言ってくれればよかったのに。もしかしてニホンオオカミさん嘘ついてましたか?」

「え!?いやいやそんなことないよ!ほら、だって…」


ニホンオオカミは必死にごまかそうとするが言葉に詰まる。


「ニホンオオカミさんがどこに行ってたのかちょっと気になっちゃって…でも言いたくないことだったらこれ以上は…」

「ねぇ、かばん?もしかしてさっき言ってた『僕が寝てる間もここに居てくれたんですか』ってのは、今の霧の様子を聞いた質問で私のことを探ったカマかけだったの?」


かばんの言葉を遮ってニホンオオカミが呟いた。だがその呟きは先程までとは違う雰囲気を感じた


「え、いや、そんなわけで言ったわけじゃ…」


かばんは否定しようとしたがニホンオオカミの表情を見て言葉を出せなくなった。

ニホンオオカミの笑顔は消え、かばんを蔑むような目で見ていた。ハイライトのないその目は明らかに殺気を放っていた

かばんは自分の好奇心を呪った。だがもう遅かった。


「やっぱりヒトって…とっても残忍なんだね…」


ニホンオオカミはそう吐き捨てた。


「ねぇかばん?私ね、ずっと我慢してたんだよ?自分が『ヒト』の姿になってるのも、周りが『ヒト』の姿になっても平気な顔をしてることも、目の前に本物の『ヒト』が居ることも、全部全部我慢してたんだよ?」


先程までと形勢逆転し、かばんはニホンオオカミに言われるがままとなってしまっている。


「私ほんとはね、動物だった頃をぜーんぶ覚えてるの。本当はこんな姿じゃないことも、知ってるんだよ?それにね、私が目覚める前の、死ぬ瞬間ってのも覚えてるんだよね。私は誰に殺されたと思う?かばんと同じ『ヒト』だよ!わかる?どうにもできなくてなす術もなく一方的にいたぶるのって楽しい?やっぱりかばんも『ヒト』だってのがわかったよ。楽しいんでしょ?こうやって私みたいに弱いものをいじめるのが本能的にわかるんでしょ!私ね、かばんなら大丈夫だと期待してたんだよ?でもやっぱりダメだったよ!」


ニホンオオカミは叫んだ。期待していた分だけ裏切られた時の衝撃は大きい。ニホンオオカミは涙を流していた。


「ニホンオオカミさんは、ヒトが嫌いですか…?」

「うん!大っ嫌いだよ!!元々私たちが守ってあげてたのにすぐに手のひらを返して!!」

「じゃあ僕のことも嫌いになっちゃったんですね…」

「そうだね!さっきまでは好きでいられたんだけどね!私のパートナーはこんなにグチグチ聞いてこなかったもん!!」


ニホンオオカミにとっては『ヒト』というものは許し難いもの。そんな中でも我慢をし続けたというのに、かばんと会話していくうちに許せないという感情が勝ってしまったのである。


「私がどんな思いで我慢してたと思う!?私と同じニホンオオカミはもう何処にもいないんだよ!?絶滅したんだよ!?私ずっと思ってたの『ヒトなんて絶滅してしまえばいいんだ』って!私たちと同じ気持ちになれば少しはわかるんじゃないかって!!」


呼吸を荒らげかばんを見下ろすニホンオオカミ。かばんはニホンオオカミの放った言葉に何か思い出した。そのことをニホンオオカミに言おうとした、が


「もう知らない!!1人で何とかすればいいよ!!」

「あ、ニホンオオカミさん!まってくだ…」


と言い放って部屋を出ていってしまった。


自分のとった選択は間違いだったと後悔したがそれも後の祭りである。

部屋に取り残されたかばんは、無を掴むしかなかった…

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