3-8 乖離

日も落ち、そろそろメンバーを集めじゃぱりまんを配る時間になった頃、ケープライオンが外から帰ってきた。

特に落ち込んだ様子もなくいつも通りじゃぱりまんの入った皿を持ちメンバーを呼んだのでバーバリライオンは少し安心した。


「ケラーおかえり。随分と遠くに行ってたみたいだが、気は紛れたか?」

「ん、おぉバリー。まぁそこまで遠くには行ってないけどもう大丈夫だ。落ち着ける場所を見つけたからそこに居たらなんだか楽になったよ」

「へぇー、落ち着ける場所か。それってどんなところなんだ?遠くには行ってないって言ってたし森を抜けた先に何かあったかな?」

「え、いやいやそれは秘密に決まってるだろ!一匹でいられるから落ち着くんだよ!これはバリーだったとしても教えることは出来ない」


バーバリライオンの質問にケープライオンは明らかに焦って回答した。それに少し不思議にも思ったがしかし特に問い詰めることもないだろう。ケープライオンにも秘密の一つや二つあっても可笑しくない。

バーバリライオンは自然に話を変える。


「ところで調子はどうだ?少し一人でいて楽になったか?」

「ん?あぁーだいぶ本調子に戻った。あそこまで取り乱したのが今回で初めてだったから自分でも気持ちの整理ができてなかった。だけどもう大丈夫だ、霧も晴れりゃ勝手に出て行くだろ。」


ケープライオンは何とも無い風に振舞った。ケープライオンは嘘が苦手なのは長い付き合いでわかっていたのでバーバリライオンはひと安心した。


「本当に大丈夫そうだな。だがしかし今起こってる霧は何故かいつも以上に濃いそうだ。海辺の方に偵察を頼んだ奴曰く、まるで霧がこの島を覆って周りから見えないように隠しているみたいだったそうだ。」

「なんだなんだ、アイツらが来てから今まで無かったことが立て続けに起こってるって言うのか?」

「確証はできないが否定もできない。あいつらが乗ってた船には十分すぎるほどの食料はあったからこの島で食料調達する必要は無いはずだし、それなら霧を起こす必要性が見えない。そもそもあいつらが霧を起こす能力を持ってるとも限らない。どれが嘘でどれが本当かはわからないが『ここを出来るだけ早く出たい』と言っていた。霧を制御できるなら島の我々と衝突した地点でさっさとここから出ていくはずだ。」

「だが、それはあいつらが言ってることが全部正しい場合だよな。何を企んでるかは知らんが相手がどう出るかしっかり見ておかないとな。ま、とりあえず今は何もしてきてないしかばんは何処にいるかまだわかってないが、ほか三人はこっちが管理できてるんだ、あっちもあっちで迂闊にゃ動けんだろ。取り敢えず腹減ってるだろ、ほらよっと」


そういうと他のメンバーにじゃぱりまんを配ってたサーベルタイガーからじゃぱりまんをふたつ受け取り、片方をバーバリライオンに投げた。

今日は流石にひとりで悩みすぎていた。確かにケープライオンの言う通りサーバル達はこっちの監視下にあるのだからなにかしようものならすぐに気づける筈だ。無防備でいる訳では無いがそこまで深く考えることはないだろう。

受け取ったじゃぱりまんに齧り付き他のメンバーとの団欒に混ざりに行った。



だが、バーバリライオンはサーバルの様子が少し気がかりであった。

コーカサスバイソンが帰った後、バーバリライオンはサーバルの様子を確認しに行ったのだ。

じゃぱりまんが入っていたボウルは空になっていて、ちゃんと食べてくれたのはよかったのだが、バーバリライオンに一向に話すことは疎か見ることも無かった。

彼女らは何が目的で旅をしているのだろう。

そして本当に、自分の選択が正しかったのか、その悩みだけは完全に払拭することはできなかった。







その頃、ちっちゃいもの同盟の住んでいる大きなツリーハウス『やすら木』ではメンバーは全員寝ている頃だった。

そんななか静かになった木の中でアライグマとフェネックはまだ起きていた。それはこれからの事を二人で整理するためだった。


「というわけでアライさん。私たちはサーバルとかばんさんとは離れてしまったわけですけどー、これからどうするー?」

「いやぁ…フェネックがわからないことをアライさんがわかるわけないのだぁ…」

「だよねー、アライさんに聞いた私が悪かったよー」


二人は全く案が出てない状態だった。


「私としてはこのまま誰ともケンカなくオンビンに済ませて、かばんさん達と合流してそのまま出ていくがいいと思うんだけどさー、霧が晴れるのが少なくともあと五回おてんとさまにおはようしなきゃいけないからねぇ…。そこまでサーバルとかアライさんが我慢できるかってなるとできないと思うんだよねー」

「フェネックはアライさんをなんだと思ってるのだ!でもかばんさんが今どうしてるのか心配なのだ…」

「んー、きっとかばんさんなら1人でもどうにか出来てそうだけど、セルリアンに襲われてたら…」

「ふぇ、フェネックそんなことかんがえちゃだめなのだ!!かばんさんはきっと大丈夫なのだ!!」

「ちょ、アライさん声が大きい…」


咄嗟に口を抑えるアライグマ。

フェネックはため息をつく。


「もーアライさん…一応私たちはかばんさんの仲間として重要フレンズとして軟禁されてるようなものなんだから、怪しまれるようなことは避けないと…。でもまぁ、隠し事ができないのもアライさんのいいところでもあるけどねぇ」

「ご、ごめんなさいなのだ…」

「よしよし、いいこだねー」


フェネックはアライグマの頭を撫でるとまた難しい顔になって考え事を続ける。


「そういえばさ、この島に来てからアライさんはセルリアンって見た?」

「ふぇ?そういえばまだ一回もセルリアンを見てないのだ。この島にはセルリアンが少ないのか?」

「どうなんだろね。ここにもセルリアンハンターみたいなのがセルリアンを全部倒してくれてるのか、もしくは居ないのかもしれないねー。さっきかばんさんがセルリアンにって言ったけど、もしかしたら大丈夫かもね」

「かばんさんは聡明なのだ!きっと一人でも大丈夫なのだ!!」

「そうだといいんだけどねぇ…取り敢えずこれ以上は情報が少ないから明日考えようかねー」


そういうとフェネックはもうひとつのベッドに寝っ転がった。アライグマもそのまま自分の居たベッドで身体を丸めた。







「ふゎ〜、やっぱりひとっ飛びした後の水浴びはたまらないねぇー!」


カロライナインコはケープライオンと別れたあと、飛び回って疲れたため湖に水浴びに来ていた。

身体を水に沈め全身を濡らしながらバシャバシャと身体を揺らす。

そこにあるフレンズが近づいてきた。


「あ、カロラさん帰ってたんですね」

「ん、リョコちゃんただいまだよー」


リョコちゃんと呼ばれたフレンズはリョコウバトである。カロライナインコと一緒に目覚めた事から仲良くなり、今は一緒の住処で暮らしている。

カロライナインコは湖から出ると身体を揺らし水を払った。


「ちょ、カロラちゃん!水がこっちに当たっちゃってますよ〜!」

「あーごめんごめん!大丈夫?」

「うん、水が付いちゃっただけでなんともないよ、でもそうやって水を払うのは他の誰かがいる時はやめた方がいいんじゃないかな?」

「そうかな?これが一番早く乾く方法だからなー。でもリョコちゃんが言うなら今度から気をつけるよ!」


大の仲良しである二人は毎日こんなふうである。


「今日もいつもの場所で飛ぶ回ってたの?」

「うん!あそこに行けば毎日楽しいからね!でも今日は珍しい方がいたんだよ!」

「珍しい方?いつも行く場所って誰もいないって言ってたような」

「そうなの、だからあそこに誰かがいるのも珍しいんだけど、なんとあのケープライオンさんがいたんだよ!」


カロライナインコは手を腰に当て胸を張り自慢するように言った。


「ケラーさんがいたんですか、それは珍しいですね。ケラーさんってバリーさんと一緒に森にいるって聞いてましたし森から出てくるなんてなんかあったんですかね」

「そうなんだよ、なんかねケープライオンさんかば…えっと新しく来たフレンズのこと心配して悩んでたんだって、それで私が相談役になってあげたんだよ」


一瞬かばんと言いそうになったが寸止めで言い直した。


「カロラちゃんが!?すごいです!あ、でも話し方大丈夫だったの?ちゃんと丁寧な言葉で話した?」

「あったり前よ!他人の前では丁寧に喋るって決めてるから!こんなふうに喋るのはリョコちゃんの前だけだよー!」

「よかった、カロラちゃんいついつもの喋り方に戻っちゃわないか心配してるんですよ?」

「ふふーん、その点私はバッチリなのだよ!」

「カロラちゃんえらいです!」

「えへへー」



喋り始めるとこの二匹は止まらない

二人は今夜も日が出てくるまで喋り明かしたそうな……








サーバルは考えていた。

かばんのことを、ヒトというものを、この島のフレンズ達の気持ちを…。

かばんと出会ってから離れ離れになってしまったのはあの大型黒セルリアン事件の時以来だ。あの時もかばんが自分のいる場所から遠くに行ってしまうと思うと悲しくて怖くて堪らなかった。だけどその時は他のフレンズ達も協力してくれてかばんを助けることができた。


しかし今はどうだろう。


アライグマもフェネックも別のところにいてかばんは隣にはいない。ひとりぼっち。

誰も仲間は近くにいない、むしろ敵しかいない。

バーバリライオンはこの同盟の住処で自由にしてもいいと言ったが、外に出ていいとは言ってない。事実上自分はこの部屋に閉じ込められているのだ。

サバンナで一人でいた時はなんとも思わなかったのに、いまはすごくさみしい。


なんでこんな思いをしなくてはならないのだろう。

かばんの仲間を探すために旅に出たのにヒトを嫌うフレンズのいる島にたどり着くし、ヒトは悪い動物だって言うし、かばんの話を全く聞かないで追い出そうとするし。


――かばんちゃんはすっごいんだよ!!色々なことできるし、たくさんのフレンズを助けてあげるやさしい子なんだよ!!


自分の言葉は本当に正しかったのだろうか、本当に自分の事なんていらない、足でまといで迷惑な存在だと思われてるのだろうか。

何が正しくて何が違うのか、わからなくなってしまう。




霧はまだ晴れそうにない…。

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