3-6 監視

その言い渡された任務にカロライナインコの頭にははてなマークがいくつも出てきていた。ケープライオンが言い渡したものは『かばんの発見と監視、そしてケープライオン自らに報告する』という事だった。

まあ確かにカロライナインコが疑問を持つのも当たり前だろう。なにせ今までの話では『ケープライオンがこの島に来たばかりのかばんを心配している、そして心配しすぎて夜も眠れない』というケープライオンがその心配している張本人のかばんを監視しろと言ったのだ、普通だったら矛盾しているし疑問を感じるだろう。

カロライナインコは困った顔をしてどういう事かと理解しようと頭を抱えている。


「えっと…。監視、ですか」

「あー、えっと、言葉を間違えたかもしれないな…。監視というか見守ってほしい?ってことだ」


カロライナインコは「なるほど」と頷く

ケープライオンにとっては監視という事で間違いは無いのだが、如何せん『かばんを心配している』という嘘を吐いてしまった以上、嫌悪感を持たれずに監視をしてもらうためには色々と誤魔化していかなければならなくなってしまった。

何方にせよ、誰にも気付かれずに話が出来るこの場所と、相手から比較的バレずに観察することが出来る鳥系のフレンズの監視、もとい見守りのふたつが揃っているという事でかばんの動きを把握することは容易なはずである。とは言ってもカロライナインコの了承が得られればの話だが。


「そういうわけで、カロラにかばんのことを見ていてほしいんだ。それで何処にいるかとか何をしていたかとか、誰と一緒にいるかとかを俺に伝えてほしいんだ。どうだ?引き受けてくれないか?」

「わかりました!お引き受けします!」


カロライナインコの返事は案外早かった。だがそれはケープライオンにとってはとてもありがたいことだった。


「そうか!それなら詳しく説明するからよく聞いておけよ」


そう言ってケープライオンはその任務の概要を説明していった。






「まずはかばんを見つけることからしてほしい。かばんというのはさっきも言ったように『赤く目立つ毛皮に大きなかばんを持っていて大きな帽子をかぶっている』という見た目をしている。一応付け加えておくが、かばんという物をもっているかばんという名前のフレンズだ。ややこしいと思うがそう認識してくれ。そしてそのかばんを見つけたら俺にまず報告してほしい。俺は毎日太陽が真上に来るぐらいにここに来るからそこで待ち合わせにしよう。それと見つける時に注意してほしいところなのだが、『かばん本人に気付かれないようにする』ということ。相手に気づかれて会話をすることは構わないが絶対に『俺が頼んでカロラが見守りに行ってる』というのは内緒にして欲しい。最初にやってほしい事柄はこんな感じだが、大丈夫か?」

「は、はひ、だひじょうふれふ…」

「あー、大丈夫じゃねぇなこれ」


ケープライオンが一気に説明したためかカロライナインコのキャパシティを完全に超えてしまったようだ。ケープライオンはどう噛み砕いて説明するか、頭を掻きながら考える。


「簡単に言うとだ、毎日俺は同じ時間にここに来るからかばんのことを俺に報告してほしい。そして、できればかばんに気付かれずに見ていてほしい、って事だ。これなら大丈夫か? 」


かなり簡略化して説明をしたがカロライナインコは「それなら私にもわかりましたぁ…」と頭を抱えながらも納得した顔で頷いた。


かばんの監視。それは恐怖からの逃げでもあった。相手を把握していないと何処から襲われるかわからない恐怖。戦力を持っているか持っていないかの確認が出来なかったための仲間の死。監視することによって相手を支配しているという安心感、優越感。かばんがどんな者なのかなんて関係ない。『ヒト』という事が自分の落ち着きを欠く。

一層の事自分の手で…

何方にせよ相手の出方を把握しなければ手を出す事も危険だ。まずは外堀から攻めていかなければ。


「じゃあそういうことだ。俺は毎日ここに来るから何があっても何もなくてもここに来てくれるとありがたい。お前とここでたわいない話を話すのも悪くないからな」

「わかりました!私カロライナインコはしっかり努めさせて頂きます!!」

「あぁ、頼んだぜ!それと一応だがこの任務のことはかばんだけじゃなくほかのフレンズにも内緒でな」

「イエッサー!それじゃまた明日!!」


どう言い残すとカロライナインコは飛んでいった。


「さて、俺はどうすっかなー」


一人残ったケープライオンは寝転がってこれからの事を考える。バーバリライオンの所へ一旦戻るか、研究所に行って新しく何かを解読するか、といくつか選択肢はあるのだが今は何もしたくない気分だ。


「また、寝てるってのもいいかもな…」


ケープライオンは疲れもあったのかそのまま眠りへと落ちていった。







一方その頃、研究所に立ち入っている者が居た。それはバーバリライオンでもケープライオンでもない全く別の人影。その人影は念力のようなもので鍵を開け、バーバリライオン達がまだ侵入していない空間へと入っていった。

その空間は外の資料で荒れたものようではなく、綺麗に整頓されている。が、収納用のラックとシェルフのせいで人ひとりがやっと通れる隙間しかなく広さは感じられない。その隙間を身体を横にしながら進むとそこには機械で出来たものが置いてある。人影はそれを慣れた手つきで起動させる。その機械からはブォーンとファンが回転する音と電子音を鳴らしながらある画面を映し出した。

相変わらずここに書いてある絵みたいなものは理解出来なかったがどこを押せばどうなるかは理解していた。前回見たファイルの隣のファイルをクリックし、ウィンドウを開く。


そのファイルはある音声データだった


『――ザザザッ…ザー……これで大丈夫かなっと…うん!録音再開出来てるね。ぜつ………の為には記録をしっかり残しておかなければならな……らな。それじゃあ、か………の話を続けて貰お……かな。ザザッ…は、はい!えっとですね、ケープライオンとバーバリライオンについてですが北のバーバリライオン、南のケープライオンと彼らは全くの別………ですが…じ……と言われています。ケープライオンは既に完全絶滅が確認さ……バーバリライオンについては純血種は……したと言われております。しかし混血種は未だ…………で飼育されているそうです。ので、ケープライオンをふ………させるためにはバーバリライオンからバーバリライオンのみのDNAを採取してそれを…………することによってケープライオンに近い種を…ザザザッ…が可能かもしれません。』


相変わらず音声の保存状態が悪い。継ぎ接ぎで理解しなければならないが文字が読めない自分にとってはこれがパートナーを見つけ出す最後の希望のようなものだ。しかしもうちょっと良い状態で保存されはしなかったのだろうか。


『ザー…そうか、しかしそうなると今の技術では成功する可能性はす………だろう。しかもその為にはバーバリライオン一匹こちらに連れて来なければならないという問題もある………れじゃあそれは一旦保留で次の、ザザッ、いや!私はやりたいです!私は絶滅どプツンッ………』


途中で音声が途切れた。二人の声が言い争いをしていたようだが、まぁそれはどうでもいい。

このファイルのはバーバリライオンとケープライオンの事が話されていたが、ケープライオンふ…?バーバリライオンのでぃーえぬえー?全くわけがわからない。

この記録はいつの話なのだろう。現にケープライオンもバーバリライオンもこの島にいることは知っている。直接会って話をしたわけでは無いが、チラッとだけ見た事があるから間違いはないが、『連れて来なければならない』という事はあれらは何者かに連れてこられたらということか…?


情報を得るどころか謎を増やしてしまった。


ただ自分が探しているのはこんなことではない。だが、このファイルにも私の探しているものは無かった。

人影は機械を停止させ来た道を戻る。鍵を閉め元通りにしその場を立ち去った。




――無駄足だったな。


今日も全く手掛かりを得られなかった。


――やっぱり直接聞いた方が早いかもしれない。


あの日助けた茶髪の少女。


――百聞は一見に如かずだしな。


人影は…いや、その少女は、思い出を胸に歩き出した。

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